オーディエンスが、どんなコンテンツに財布の紐を緩めるかを判断するのは難しい。そのため、多くのニュースパブリッシャーが、サードパーティーCookieの崩壊に備えて身構えつつ、「登録ウォール(registration walls)」の実験を通して、読者が何に登録して消費するかを学びはじめている。
オーディエンスが、どのようなコンテンツに財布の紐を緩めるかを判断するのは難しい。そのため、多くのニュースパブリッシャーが、サードパーティーCookieの崩壊に備えて身構えつつ、読者が何に登録して消費するかを学びはじめている。
ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)はこの7月、投資家向けの収支報告で、読者のプリファレンスやニーズについてもっとよく知るため、「登録ウォール(registration walls)」の実験を拡大していると明かした。同紙のマーク・トンプソンCEOは、この試みについて「オーディエンスとの直接的なつながりをテコに、購読者基盤の維持、拡大に弾みをつけたい」と言っている。
トレードオフの判断
ほかのニュースパブリッシャーも登録ウォールに力を入れつつある。ハースト・ニュースペーパーズ(Hearst Newspapers)も今年、コネチカットの新聞でペイウォールに先んじて登録ウォールを設置し、同社社長のロバートソン・バレット氏によると、これを通じて10万件の電子メールアドレスを収集したという。ゲートハウスメディア(GateHouse Media)も今秋、登録ウォールを設置し、目下、数百におよぶ同社所有のタイトルに順次追加導入している。また、シカゴ・トリビューン(The Chicago Tribune)などを傘下に持つトリビューン・パブリッシング(Tribune Publishing)は、2017年に登録ウォールの小規模な実験を行ったが、現在、実験の再開を計画している。
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「登録ウォールを活用しているパブリッシャーは、身元の判明しているユーザーの有料会員登録率(コンバージョン率)を、匿名のユーザーに比べて10倍も伸ばすことができる」と、サブスクリプション管理ツールを提供するピアノ(Piano)のストラテジー担当シニアバイスプレジデント、マイケル・シルバーマン氏は述べている。だが、ニュースパブリッシャーは歴史的に登録ウォールの活用には消極的だ。そこには、登録ウォールが読者に疎まれ、サイトのトラフィックが短期的に減少するかもしれないという懸念がある。実際、トリビューンパブリッシングは傘下のハートフォードクーラント紙(Harford Courant)で登録ウォールを実験的に運用したのだが、ウォールにぶつかった人の90%がその場でサイトを離脱したことが判明し、ウォールの導入を断念した。
たとえ、一時的にトラフィックが落ち込むとしても、登録ウォールは試みるに値する。Chrome、Firefox、Safariを含むブラウザは、早晩、サードパーティCookieに依存した広告販売を制限するようになるだろう。このような変更により、パブリッシャーの収益は市場によっては最大25%近くも落ち込む。サードパーティデータに頼らず、ファーストパーティデータを活用する準備をしておけば、広告収入にかかるこれ以上の圧迫要因を回避できるだろう。
導入後の見返り
しかし当面、パブリッシャーが登録ウォールに関心を寄せる理由は、もっぱら、購読者獲得に向けた既存の取り組みの一環にとどまり、さらにファーストパーティデータを集め、この夏にGoogle Chromeが穿ったペイウォールの穴を塞ごうという試みではなさそうだ。実際、そのGoogleはパブリッシャーに対し、Chromeユーザーがシークレットモードを起動して、パブリッシャーのペイウォールを回避するという問題に対処するため、登録ウォールの設置を推奨している。
パブリッシャーが登録ウォールを活用する理由は一律ではない。たとえばフォーブス(Forbes)は、2019年の第4四半期から、同社サイトに登録ウォールを設置し、電子メールアドレスの提供と引き換えに、広告の少ないサイトを提供するという。
「フォーブスの読者が何に価値を見出すのかもっとよく知るためのテストだ」と、フォーブスのCRO、マーク・ハワード氏は先週の米DIGIDAY主催のパブリッシングサミット(Publishing Summit)で述べているが、登録ユーザーから収集したオーディエンスデータは収益の多角化にも貢献するだろう。
「このようなコミュニティ向けの製品を、さらに開発する方法について検討している」と、ハワード氏は明かす。「重要なのはファーストパーティデータの有効活用であり、読者と読者が読むコンテンツの関連性を理解することだ。広告収入に頼らないコンテンツ作りの、これは氷山の一角にすぎない」。
適正な対価の検討
情報提供の適正な対価を特定するのは必ずしも容易でない。たとえば、ガネット(Gannett)傘下のUSAトゥデイ(USA Today)は、登録してくれた読者に懸賞への参加資格などの特典を提供している。ローカルのニュースサイトを集めたUSAトゥデイ・ネットワーク(USA Today Network)では、読者がペイウォールに到達したあと、コンテンツのロックを解除するのに登録ウォールを活用している。
情報提供への適正な対価はサイトによって異なるだろうが、どのパブリッシャーも何かしらの方法を思いつくはずだ。
ペイウォールプラットフォームを提供するピコ(Pico)の共同設立者、ジェイソン・ベイド氏はこう忠告する。「読者との関係が不穏で、負担の少ない登録手続きさえしたがらないなら、現状を徹底的に見直す必要があるだろう」。
Max Willens(原文 / 訳:英じゅんこ)