イギリスの全国紙「タイムズ」は2016年、サブスクリプションの売上を200%増加させた。これは1年前に、従来のニュース速報を中心にしたサイクルから、デジタル編集をベースにした戦略へと転換したことに起因している。成長の一因は、編集中心のアプローチに加えて、デジタルマーケティングのプロセスの変更にあった。
英国の全国紙「タイムズ(The Times)」は2016年、サブスクリプションの売上を200%増加させた。これは1年前に、従来のニュース速報を中心にしたサイクルから、デジタル編集をベースにした戦略へと転換したことに起因している。
「タイムズ」と「サンデー・タイムズ(The Sunday Times)」のCMOキャサリン・ニューマン氏によると、購読者の退会率も前年比4%減少と記録的な低さを見せているようだ。同紙の発表によると、去年の夏の時点では、プリントとデジタルの課金購読者数の合計は、41万3600人を維持していた。そして、2016年上半期には、新規サブスクライバーによる売上が2015年上半期と比べて、200%の増加を見せたという。
成長の一因は、編集中心のアプローチに加えて、デジタルマーケティングのプロセスの変更にあった。「編集中心の戦略によってマーケティングチームがどう動くか、根本的に変化をもたらした。午前9時、正午、そして午後5時の配信で、3回に分けてフォーカスをあてているからだ」と、ニューマン氏は語る。
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3つの決まった時刻に記事を出せるように準備することで、10人編成のマーケティングチームもそれに合わせて計画を建てられるようになった。「我々と編集部門にとって革命的だったのは、記事公開における戦略を変更し、速報ニュースサイクルから離れることで、以前は不可能であったサブスクライバーや登録ユーザーとのコミュニケーションが可能になったことだ」と、ニューマン氏は補足する。
日々のミーティング改革
マーケティングチームは社内で「カンファレンス」と呼ばれる日々のミーティングを通じて、既存の購読者や購読者候補とのより直接的なコミュニケーションを計画する。ここでは編集スタッフがどんな記事がその週に公開されるかを、マーケティングチームと一緒に議論し、どう扱うかを話し合う。どのようなコンテンツが無料の読者登録やサブスクリプション登録に寄与するのか、そして、既存の購読者たちにちゃんとサイトに戻ってくるよう、エンゲージを求めるのはどのような場所が妥当であるのか、についての決定がこのカンファレンスで下される。
既存購読者のエンゲージメントを増加させるためにリソースは割かれるが、それと同程度、新規購読者の獲得にも注力するとニューマン氏。「タイムズ」では購読者たちが電話で接触できるコールセンターを設置しており、記事に関してのフィードバックを受けている。こうした電話でのフィードバックは録音され、編集ミーティングで再生されることが多いという。それによってジャーナリストが直接的に、読者が求める情報を知ることができるのだ。
たとえば、3月13日にスコットランド国民党のニコラ・スタージョン党首が、2回目となるスコットランドがイギリスからの独立を問う国民投票の計画を発表したとき、コールセンターのメッセージがミーティングで参照された。
退会率が減少する法則
ニューマン氏によると、「タイムズ」における記事やプロダクトに関して、購読者のエンゲージメントが1%向上するたびに、退会率が一定の割合で減少するという法則を導き出したという(具体的な数字は競合を懸念して述べなかった)。さらに、それに対応して、購読者の顧客価値も上昇することも分かった。
「我々は過去3年間を通して、理想的な顧客ライフサイクルがどうあるべきかに取り組んできた。そして、読者にアクションを求めるタイミングについてもだ」と、彼女は説明した。たとえば、「タイムズ」の人気コンテンツのひとつにクロスワードパズルがあるが、パズルを解いていない読者にリマインダーを送るといったシンプルな施策もある。タイミングを見計らって、購読者に解答がメッセージで送られるというものだ。
ほかにも、読者が読み逃したり、エンゲージしていない記事についてメールマガジンで促したりといったアクションが取られる。最近では俳優デンゼル・ワシントンのインタビュー記事をメールマガジンで紹介した。
従来のモデルとの違い
「タイムズ」は強固なペイウォールを2010年から行ってきた。しかし、同時に無料でコンテンツを閲覧可能にするという実験も頻繁に行っている。2016年夏には無料の読者登録を開始した。そして、週に約3万の読者が追加されており、無料登録は60万人に到達しようとしている。名前とメールアドレスを提供する読者は週に2本、無料で記事を閲覧できる。ニューマン氏によると、これによってオーディエンスの幅が広がったという。
「産休について女性たちが本当は何を考えているか(口には出さないけれど)」(10万のユニーク訪問者を得た)や「ドナルド・トランプ、インタビュー書き起こし」といった記事は、無料登録の動機のトップ10を占める。「登録を促すという点におけるパフォーマンスでは、大きいニュースイベントの果たす役割はもちろん大きい。しかし、ファイナンス、子育て、フィットネス、健康といったライフスタイルコンテンツへの強い傾きも見られる。全体的に、我々はコンテンツのサンプリング提供を通して、より若いオーディエンス、女性のオーディエンスを獲得している。それがサブスクリプションに直行する従来のモデルとの違いだ。
無料登録者を有料購読者にする方法は、いまだ研究中だ。「たとえば、1週間に2回、記事を無料で読まれたとしても、我々は広告を表示することができる。なので、彼らの存在は十分メリットがある。彼らを購読者にさせるにはもう少し長い時間が必要かもしれない。しかし以前であればトライアル期間に加入して、結局退会していた人たちだ。いまは彼らと、それよりも良い関係性を築けている。また我々も読者もお互いに何を期待するかちゃんと理解できている。デート期間のようなものだ」と、ニューマン氏は説明した。
Jessica Davies(原文 / 訳:塚本 紺)
Image: courtesy of Richard Pohle.