ニューヨーク・タイムズは2020年5月、GoogleがChromeブラウザ内でのサードパーティCookieのサポートを終了するとされる1年前にあたる2021年までに、直接買い付けによるオーディエンスのターゲティングを目的としたサードパーティデータの利用を段階的に廃止すると発表した。
パブリッシャーによるサードパーティデータとの決別宣言が、近頃かなり聞かれるようになってきた。
ニューヨーク・タイムズ(The New York Times:以下、NYT)は2020年5月、GoogleがChromeブラウザ内でのサードパーティCookieのサポートを終了するとされる1年前にあたる2021年までに、直接買い付けによるオーディエンスのターゲティングを目的としたサードパーティデータの利用を段階的に廃止すると発表した。
NYTはこの1年で、ターゲティング広告向けのクライアントを対象に、45にも及ぶ独自のファーストパーティオーディエンスセグメントを新たに構築した。これらのセグメントは、年齢、収入、職業、ユーザー属性、興味など6つのカテゴリーに分類されている。2020年末までに、さらに30のセグメントが作られる予定だ。すでに7月はじめには、こうしたセグメントを活用したキャンペーンを開始。十数人からなるチームがプロジェクトに取り組んでいるほか、さらに多くのスタッフがこれに関与している。
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NYTの広告製品及び、プラットフォーム担当シニアディレクターであるサーシャ・ヘレイ氏は、米DIGIDAYが主催した「Publishing Summit Europe Live」に参加。同社のファーストパーティデータ戦略の手順と、その進捗について語った。以下はその内容の要約だ。読みやすさを優先し、編集を加えてある。
──5月の発表について、これまでの経緯を教えて欲しい
我々は、NYTのデータ提供について何年も話し合ってきており、2年をかけて一連の製品群を開発し、現在ではそれを実際に企業に採用してもらえるようになった。過去12カ月は、我々のファーストパーティデータオーディエンス戦略と、サードパーティデータへの依存からの脱却に焦点が置かれ、かなりの数のチームがここに注力してきた。
──ターゲティングを目的としたサードパーティデータの利用を明日やめたとしたら、どんな影響が出るか?
NYTでは、いまでもダイレクトターゲティング広告において、サードパーティデータをかなりの部分で利用しているが、ベースとなる部分は今月初めにリリースした初の製品群でカバーしている。広告主がもっともよく利用するセグメントに焦点を絞り、サードパーティデータを用いていた部分の多くをファーストパーティデータで代替している。
もちろん、我々が提供できる製品について、広告主に教えていくプロセスはまだ続いている。また、我々のプロダクトを彼らが安心して使うところには至っていないので、明日から一切サードパーティデータを使用しないとはいえない。しかし、その準備は整いつつある。我々は欧州で経験を積み、欧州ではすでにオーディエンスターゲティングにサードパーティデータは使用していない。その変更を突然実施した際も、広告主の多くがサードパーティターゲティング以外の手法、特にコンテクスチュアルターゲティングに非常にオープンであることがわかった。
──ファーストパーティデータによる代替手段をどのようにして作り上げたのか?
1年前にファーストパーティのオーディエンスビジネスの実現可能性について調査を開始したとき、最初のハードルは、広告主にとって有益な情報を読者に提供し、そのデータをどのように使用するかを透明性のある方法で示すことができることを証明することだった。最初の実証実験において、予想以上に多くの読者が、オーディエンスモデルの活用に向けた真理集合(ある条件を満たすための集合体)として、情報を共有することをいとわなかった。600万人の購読者と多くの登録ユーザーがいることは、ファーストパーティのオーディエンスビジネスを実施するうえで十分な価値がある。膨大な量のデータは、登録ユーザーや匿名ユーザーの繰り返しの訪問や閲覧習慣から得られたモデルに通知するために使われる予定だ。
──アンケートデータをターゲティングに活用する場合、それが個人の選択に偏ったものではなく、ターゲット層全体の傾向を示すものであることを、どう確認するのか?
我々はさまざまな方法で、回答してくれる可能性のある多くの読者にアンケートを実施している。しかしその上で、既存のサードパーティセグメントとファーストパーティデータセグメントの効果をテストするなど、アウトップトを検証しなければならない。現在NYTでは、さまざまな方法を用いてこうした比較を行い、少なくとも既存のサードパーティセグメントと同等のパフォーマンスが、我々のファーストパーティデータセグメントにより実現できると、自信を持っていえるようになった。たとえば、キャンペーンのパフォーマンスを遡り、ファーストパーティオーディエンスではない、特定(たとえば、ファーストパーティオーディエンスの類似など)のオーディエンスにリーチしたキャンペーンのセグメントが、ほかのキャンペーンと比較してどれだけ成果を出しているかを確認する方法が、我々にはある。
我々はさらに、多くのパネルデータを持ち、出力を検証できる外部ベンダーとも協働している。公開を間近に控えたいまは、ベンダーから戻ってきた膨大な量のデータのレビューを進めているところだ。そのため、現状では共有できるデータポイントはないが、予備的な結果を受け満足している。
──データの実用性をテストする方法はほかにもある?
実用性を示す方法は、時間とともに進化するだろう。それは、我々がモデルにしたいオーディエンスのカテゴリーについても同様だ。我々は継続的にデータをリフレッシュし、目標を定めてモデルのテストを繰り返していくつもりだ。データを絶えず更新し、当面のあいだは四半期毎に少なくとも1万件以上の調査回答を集め、我々のオーディエンスデータが最新で、人々の生活の変化を正確に表していることを確認する予定だ。我々はいま、進行中の作業を追跡し、フィードバックを与えてくれる「オールウェイズ・オン」のデータ収集を実施するための、最善策を見極めようとしている。
──バイヤーはどう反応しているか? NYTへの支出は増えるだろうか?
我々の取り組みが、2020年後半にどのような影響をもたらすかをいま語るのはまだはやい。しかし、広告主からは多くの好意的な声が寄せられている。「もちろん、ファーストパーティデータのほうがいい。サードパーティデータは信頼できないとわかっているのだから」というメッセージを耳にする。我々は広告主に、NYTのアプローチや、適切なオーディエンスセグメントを選定しているかどうか、それらがどう進化していくかを知らせるプロセスに入っている。
──バイヤーはサードパーティCookieがなくなることへの対応でさらに遅れをとっているとパブリッシャーはいっているが、彼らの対応をどうやって加速させるのか?
サードパーティCookieについてのGoogleの発表を受け、多くの広告主がこの話題に注目するようになった。実際、色々な場面でサードパーティCookieについて話し合われる機会が増えたし、広告主からの提案依頼書(RFP)のなかには、ファーストパーティデータに関する質問を含むものもある。これは、我々が彼らと繋がっていることを示す良いサインだ。我々のアプローチを広告主に検討してもらうには、ちょうどよいタイミングだろう。
──2020年後半の広告需要にはどの程度自信をもっているか?
それに関しては、我々のファーストパーティデータプログラムや、ターゲティングビジネスにおいてサードパーティデータを排除するために我々がおこなっている取り組みに多いに自信を持っているという点以外、まだ共有できることはあまりない。
[原文:Inside The New York Times’ first-party data play]
LUCINDA SOUTHERN(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:KAN MURAKAMI)