英タブロイド紙の「ザ・サン(The Sun)」が精力的に取り組んで来た、チャットボットによるサッカーレポートの成果が現れてきた。「ニッチオーディエンスでのテストに興味があった。その結果、私たちの考えが正しいことが証明された。ボットはターゲットを絞った方が、効果的なのだ」と、同紙のエマ・フルトン氏は語る。
英タブロイド紙の「ザ・サン(The Sun)」が精力的に取り組んで来た、チャットボットによるサッカーレポートの成果が現れてきている。それを受けて9月後半、エンターテイメント分野も含めた複数のバーティカルメディアにおけるボットをさらに公開した。
8月の1カ月間、「ザ・サン」はサッカー専用のFacebook「Messenger(メッセンジャー)」チャットボットを運営。メインのニュースとなったのは、移籍シーズンの選手たちの動向だ。
この期間は選手を獲得しようとするクラブから、耳を疑うような金額が提示されたり、選手の移籍に関するあり得ない噂話が流れたりする。怒涛のニュースの渦のなかでファンが混乱することが多く、ニュースをフィルタリングする需要があると「ザ・サン」は考えたのだ。
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「小さなニッチオーディエンスのあいだでテストすることに興味があった。テストの結果、私たちの考えが正しいことが証明された。ボットはターゲットを絞った方が、効果的なのだ」と語るのは、「ザ・サン」のデジタル戦略オペレーションディレクター、エマ・フルトン氏だ。
ニッチな情報をボットが配信
毎日午後5時頃のラッシュアワーを狙って、もっとも重要なニュース5つを届けてくれる、「ザ・サン」のボット。受け取ったユーザーは自分が関心のあるクラブに関して、クラブごとにアップデートの配信登録をできる。ユーザーの95%が特定のクラブのアップデートを希望するという。
試験運用をしていた4週間に263件のニュース通知が届けられた。ニュースは主にアーセナル、チェルシー、マンチェスター・ユナイテッドの3大チームについてだった。ニュースを伝えるテキストには「ザ・サン」のサイトへのリンクが埋め込まれており、サイト上の記事にユーザーが飛べるようになっている。
ルーカス・ペレズがアーセナルと4年契約をした、というニュースやマルセロ・ブロゾヴィックがチェルシーのオファーを断ってインテル・ミランを選んだという記事は、特に人気があったニュースの例である。移籍シーズンの終わりが近づくにつれて、より多くのニュースがボットによって届けられた。
チャットボットからの定期通知に登録した人の数は、1000〜4000人のあいだだったという。「ザ・サン」のサッカーに特化したFacebookページのフォロワー数260万人とは対照的だ。
個人的な体験がもたらしたもの
しかし、狙っていたのは規模よりもエンゲージメントだ。41のそれぞれのチームに特化した通知が送り続けられ、移籍シーズンの最終日に、その数はピークに達した。この時点でサイトへのクリック率は43%だったという。テストが行われた月間クリック率の平均は約23%だ。
「これは大量のメッセージを配信するからといって、ユーザーがメッセージを読まなくなるというわけではない、という事実を裏付けている。むしろ、より高いエンゲージメントにつながっているのだ」と、フルトン氏は加えた。
しかし、「ザ・サン」のボットの場合、人々は自ら選択をしてユーザーとなっていることを忘れてはいけないと、シナジー(Synergy)のデジタル責任者であるジョシュ・ロビンソン氏は指摘する。
「エンゲージメントが高いのは当然だ。一人ひとりがそのボットを使ってエンゲージしたいと思って使いはじめているわけだし、ボットを使った体験は個人的なものに(少なくともユーザーの感覚としては)留まっている。個人での利用という点が、高いコンバージョンもたらす要因になっている」。
こういったボットは、クリエイティブという点でのポテンシャルはあるものの、パブリッシャーたちにとっては、自動化されたフィードを流し続ける以上のことをしなければいけないというプレッシャーに直面するだろう。
スポーツネタはボットと相性がいい
ボットのパフォーマンスについて、パブリッシャーが分析したいと思ってもFacebookが提供するアナリティクスは限られている。またメッセージが開封されたのかを知ることはできない。そのため、メッセンジャーを通してサイトを訪問する人の数をアナリティクスから推測することが必要だ。
そうして得られた分析結果によると、登録者のモバイル上のクリックスルー率は87%という高い数値だった。それに対し、タブレットでは8%、デスクトップでは5%と、大きく違いが出ていたという。

ザ・サンのサッカーニュースのボット「フットボット(footbot)」
「ザ・サン」にとってはリターン率も重要な指標だ。最初にサイトを訪問してから7日間以内に再度サイトを訪れるユーザーの割合は61%であった。そして、登録者全体のうち3%が登録を解除。フルトン氏によると、解除したユーザーは最初のニュース通知が来たあとすぐ、ボットを使いはじめて早い段階で解除していたようだ。2週目以降に登録解除したユーザーは、ほぼいなかったという。
「ザ・サン」は事前にたった数百程度のパターンの反応しかボットに入れ込んでいなかったため、ユーザーと複雑なやり取りをすることはできない。その代わり、メッセージは機能に特化するものとなっていた。どうやって登録し、どのクラブのニュースをフォローするのか、分かりやすく説明するメッセージが届けられた。これがもしゴシップニュース用のボットであれば、AIによってより自然な会話を作り出すことが良いかもしれないと、フルトン氏は考えている。
タイミングを見極めた配信が肝心
移籍シーズンが終わったいま、ボットが届けるニュース内容は通常のサッカーニュースになっている。試合の結果速報や選手のケガなどがニュースとして届けられるようになった。ここでは、メッセージがユーザーにスパムとみなされないよう、ニュース通知の回数をより賢く抑えていく必要がある。
方法としてはユーザーそれぞれが通知回数を設定できるようにしたり、特定の選手のニュースを受け取るように設定できるようにしたり、もしくは単純に届けるニュースの数を減らすといったことだ。重要な試合が開催される日には5回の配信としている。しかし、何でもない水曜日に5回ニュースが届けられるのは嫌がられる可能性が高い。
「オーディエンスとエンゲージできるプラットフォームとしてボットが使えると分かったのは素晴らしいことだ。エンゲージメントもソーシャルチームが注いできた労力に見合ったものになっている。私たちのビジネスにこれから継続して活用していくサービスとして、ボットは理に適っている」とフルトン氏は語った。
Lucinda Southern(原文 / 訳:塚本 紺)