サブスクリプションによる収益が戦略的優先事項となったいま、各社は価格設定やコンテンツ、そしてマーケティング戦略について総合的な研究とテストを繰り返している。
コロナ禍に苦しむパブリッシャーは、収益増のためにさまざまな取り組みを行っている。そのなかのひとつがサブスクリプションだ。
サブスクリプションによる収益が戦略的優先事項となったいま、各社は価格設定やコンテンツ、そしてマーケティング戦略について総合的な研究とテストを繰り返している。だが、オーディエンスの開拓などで一般的に使われるシンプルなABテストとは異なり、サブスクリプション周りのテストではマーケティングやオーディエンス、商品、エディトリアルといったさまざまな要素を加味して、総合的に決断する必要がある。
さらに、測定にかかる時間も長くなりがちだ。オーディエンス担当部門が、効果的な見出しと写真を決めるのにかかる時間自体は数分かもしれない。しかし、実際にどの登録ページがコンバージョンに繋がったのか、そしてそのうち解約率はどれくらいだったかを測定するには数週間、ときには数ヵ月かかることも珍しくない。
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テストの対象項目には、色やボタン配置といった見た目上の要素も含まれるが、基本的にはオーディエンスのニーズ分析や、読者からの継続的なフィードバック収集といった作業をもとに立てられた仮説を必要とする。
重要なのはオーディエンス分析
サブスクリプション製品の最適化支援を行うエージェンシー、ハウス・オブ・カイゼン(House of Kaizen)で、カスタマーエクスペリエンス担当ディレクターを務めるマット・ノーウェン氏は「購入ボタンを大きくするかどうかといったテストも必要だが、それ以上に重要なのは、オーディエンスの分析だ」と語る。
これまでニュース系パブリッシャーのあいだでは、登録ページの変更や更新を、割と曖昧な判断基準で行うところが少なくなかった。ニューズデイ(Newsday)でサブスクリプション会員の獲得と、リテンションマーケティングの担当ディレクターを務めるエリック・ゼンハウサーン氏は、「一度きりのプロジェクトのつもりでこういったページを作成している企業は多いはずだ」と指摘する。「社内の誰かが、ほかのパブリッシャーのサイトを見て『うちもやろう』と言い出して、2、3ヵ月かけてデザインする。そのまま放置されて半年ほどたった頃、別のサイトを見てまた真似をしようという人が出てくるわけだ」。
ゼンハウサーン氏によれば、現在ニューズデイでは登録ページやペイウォールに関するABテストや、多変量テストを部門の垣根を超えたチームで実施している。そして、その結果に基づいて次に行うテストを決定するシステムになっている。テストに携わるチームはオーディエンス、製品、ユーザー体験、マーケティングといった部門のメンバーで構成されている。
いまはテストの実施に適した時期でもある。消費者のあいだでニュースのニーズは高まっており、パブリッシャーのウェブサイト上の滞在時間は大きく伸びている。それに伴い、パブリッシャーのサブスクリプション登録者もここ数ヵ月で記録的に増加している。ここ数ヵ月、Webサイトの訪問者が増加したことで、それまで完了に数週間を要していたテストが数日で終わるケースも少なくないようだ。
一方でリテンションを重視する企業も
しかし、トラフィックが前年比で増加傾向にあるのは確かだが、登録ページの変更に関するテストの進み具合は、パブリッシャーごとにまちまちだ。サブスクリプションをはじめる段階では、カスタマーの獲得を重視するパブリッシャーがほとんどだが、現在はリテンションを重視しているところが多い。そして、リテンションへの影響の測定は時間がかかる。特に、新商品のような新しいものをテストする場合、コンバージョンで獲得した登録者のリテンションを把握するには長期間の追跡調査が必要だ。
ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)のメンバーシップ部門で、ゼネラルマネージャーを務めるカール・ウェルズ氏は「取引の流れやショップページを最適化していた初期段階では、『何を変えればコンバージョンレートが改善するか』にだけ焦点を当てれば良かった」と語る。同氏のチームは現在、同社のPAR(年間収益予測)への影響に基づいて、変更を判断している。たとえ登録者が増えてもすぐに解約されてしまう変更は意義が薄く、カスタマーが継続的に更新する変更がより重視されるシステムだ。
価格の変更といった価値算出関連の要素のテストでは、蓄積データの多いパブリッシャーのほうがはるかに早く結論を出しやすい。ウェルズ氏は「以前は結論を導くのに半年ほど必要なこともあった」と振り返る。「だが、いまやリテンションについては初期の兆候からある程度正確に予測できるようになっている」。
まずは手を付け易いところから
現在、パブリッシャーが自社サイトでテストとして行っている変更は、あらゆる訪問者が対象となっている。ニュース系パブリッシャーのあいだでは、読者ごとにコンテンツのカスタマイズやパーソナライズを行う実験をはじめているところもあるが、訪問者ごとに登録ページや商品表示を変えようとしている企業は少ない。
「まずは、手を付け易いところをすべて改善してから、パッケージ商品や価格設定の再検討をすべきだ」とウェルズ氏は語る。「まずは5年間かけても良い兆しが見えない場合は、もう十分だ。しかし、まだ私たちはその段階にも至っていない」。
MAX WILLENS(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)