一般的に、夏は広告販売にあまり適した時期ではない。だが、オープンエクスチェンジでプログラマティック広告の収益を得ているパブリッシャーのあいだでは、6月と7月の収益が今年でもっとも多くなったようだ。
一般的に、夏は広告販売にあまり適した時期ではない。だが、オープンエクスチェンジでプログラマティック広告の収益を得ているパブリッシャーのあいだでは、6月と7月の収益が今年でもっとも多くなったようだ。
たとえば、ニュースおよび政治系パブリッシャーのサロン(Salon)では、この2カ月間ウェブサイトのインベントリとインプレッション収益のCPMが高水準で推移した結果、前年比で収益増となっている。同社の最高収益責任者ジャスティン・ウォル氏は具体額について回答は避けたものの、7月23日時点でサロンのプログラマティック収益は前年同月比で25%増加したという。
「6月最後の2週間は、3月以降でもっとも高い金額で売れたケースが多かった」と、ウォル氏は明かす。
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下半期はある程度明るい
春に業界全体で広告費が急落したこともあり、サロンの第2四半期全体でみれば前年比で減収が予想されている。だがウォル氏は慎重な姿勢を崩さないものの、6月および7月23日までの広告販売をうけて下半期はある程度明るい見通しを予測している。これはなにも同社だけに限った話ではない。
プログラマティックに力を入れている広告エージェンシー2社の関係者によれば、一時は支出の削減や停止を行っていた広告主らが第2四半期になって支出を急増、オープンエクスチェンジにおける需要も増えているのだという。
オムニコム・メディアグループ(Omnicom Media Group)のマーケットプレイスイノベーション担当マネージングディレクター、ベン・ホバネス氏によれば、広告支出額は2020年の第1四半期の時点ですでにほぼ元の水準に戻っており、6月には第1四半期のピークを超えた日もあったとのことだ。7月はそれより多少は減ったものの、「一時の低迷期と比べればはるかに好調」だと同氏は語る。
とはいえ、今の好調は長くは続かない可能性もある。現在はNBCUがストリーミングサービスの「ピーコック(Peacock)」のために多額を投じているのに加え、7月末に期限切れとなった米国の景気対策にかわる政策の承認が進んでいないことについてバイヤーもセラーも懸念を示している。
だが現時点では、米国で昔から言われている格言通りに行動している広告主によってパブリッシャーもエージェンシーも恩恵を受けている状態だ。
インベントリ価格は上昇傾向
広告最適化プラットフォームのエゾイック(Ezoic)のCMO、タイラー・ビショップ氏は「社内でよく冗談半分に言っているのだが、これまでマーケティングで『使わなければ損をする』という格言通りに損失を出すケースはよくあることだった」と語る。
パブリッシャーは3月、4月にプログラマティック市場で大きな損失を出した。トラフィックは急増した一方で、広告主がパンデミックへの対処の一貫として一時的に支出を止めたためだ。その結果トラフィックは30%増えたにもかかわらず、CPMは最大20%下落している。
だがプログラマティックへの支出は3月末に底をついた後、再び増加しつつある。エゾイックでは、広告収益指標(Ad Revenue Index)で数千のウェブサイト上におけるオンライン広告インベントリの価格を過去の高値と比較追跡している。同指標によれば、インベントリの価格は上昇傾向にあり、6月と7月の価格が2019年を大きく上回っている。
これは広告主によるメディアミックスの調整からくる部分も少なくない。現在、消費者のリモートワークと移動の減少により屋外広告は苦戦しており、それに置き換わるチャネルとして支出の対象になっているのだ。
「安堵の気持ちすらある」
プログラマティックエージェンシーのハイブリッド・セオリー(Hybrid Theory)で北米CEOを務めるレイ・ジェンキン氏は「各社はオーディエンスの目に触れるチャネルを模索しているのだ」と語る。同エージェンシーでも、7月に入ってからプログラマティック広告に予算を投入しているクライアントが増えているという。
ジェンキン氏は現在の好調はずっと続かないだろうと警鐘を鳴らす。「6月と7月が好調だからといって、それが上向きの兆候とは限らない」とジェンキン氏は指摘する。米政府が支払った失業給付金が満了すれば、ふたたび低調に陥るリスクもあるというのが同氏の考えだ。「また広告支出が一斉になくなることはないだろうが、各社が慎重になるのは十分に考えられる」とジェンキン氏は語る。
デジタルメディア企業ランカー(Ranker)のCEO、クラーク・ベンソン氏によれば、オープンエクスチェンジにおける同社ウェブサイトの7月のインベントリーは前年比で「約1割」減少しているという。だがシミラーウェブ(SimilarWeb)によれば同社のウェブサイトのトラフィックは3月から右肩上がりとなっており、今年はじめに同氏のチームが導き出したかなり悲観的な予測と比べれば、この結果は将来への明るい見通しにすら見えるという。
ベンソン氏は次のように語る。「予期していたものと比べれば非常に良い結果だ。壊滅的な打撃を受けると考えていたので、安堵の気持ちすらある」。
[原文:‘The sky hasn’t fallen’ Publishers’ programmatic revenues vault back up in June and July]
MAX WILLENS(翻訳:SI Japan、編集:長田真)