パブリッシャーにとって、オーディエンスのエンゲージメント獲得は永遠の課題だ。その手段のひとつとして広まりつつあるのが、情報提供を目的とした、数回の配信で終了する形式のニュースレターだ。
パブリッシャーにとって、オーディエンスのエンゲージメント獲得は永遠の課題だ。そのソリューションとしていま広まりつつあるのが、数回の配信で終了するコース形式のニュースレターだ。
ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal、以下WSJ)は、8月に初の無料ニュースレター『6週間でできるマネーチャレンジ(the Six-Week Money Challenge)』の提供を開始した。これは、個人投資に関する知識を増やすことを目的としたコース形式のニュースレターで、ウィークリーで配信される。
WSJで個人投資領域の担当記者で、同ニュースレターの著者でもあるジュリア・カーペンター氏によると、『6週間でできるマネーチャレンジ』は金融の基礎を教えるだけでなく、まったくの初心者でも支出と貯蓄に関する習慣をすぐに変えられるように、ステップバイステップで情報を伝えるものだと語る。
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メリットは非常に大きい
また、この7月には、CNNのオンラインショッピング指南サイトのアンダースコアード(CNN Underscored)も、より質の高い睡眠を実現するための7部構成のニュースレター、『スリープ・バット・ベター(Sleep But Better)』の提供を開始。ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)も、今年初めから商品推薦サイトのワイヤーカッター(Wirecutter)で、クレジットカードと睡眠、テレワークに関する3種類のニュースレターを実験的に配信している。一方、こうしたニュースレターの草分けともいえるBuzzFeedは、5年前に配信を開始して以来、いまでは13種類のニュースレターを発行している。
eメールの活用を支援するコンサル企業、インボックス・コレクティブ(Inbox Collective)の創業者、ダン・オシンスキー氏は「ニュース系パブリッシャーはこれまで、あまりニュースレター配信に投資してこなかった。というのも、それなりに事前の分析調査が必要なのと、日々彼らが配信しているような通常フォーマットとは異なるものを作成しなければならないからだ」と述べる。「とはいえ、まったく新規の分野でもない。これはニュースレターブームの第2波といえるだろう」。
同氏は、こうした新しいニュースレターがもたらすメリットは非常に大きいと指摘する。オーディエンスの新規獲得、既存の購読者との関係強化、特定分野の広告主へアピールできることによる収益増、アフィリエイト収益を伸ばすなど、さまざまなビジネスチャンスが広がっているという。
先述したWSJの『6週間でできるマネーチャレンジ』も、既存読者との関係強化を目標のひとつに掲げている。ただし、WSJのニュースルームイノベーション担当リーダーを務めるロビン・クォン氏は、ニュースレターの最大の目標は、コンテンツの有益性を高め、読者が日常生活で実際に利用できる情報を提供することにあると語る。
先駆者BuzzFeedの取り組み
一方、BuzzFeedで2014年から2017年までニュースレター担当ディレクターを務め、コース形式のニュースレター戦略の立ち上げに貢献したオシンスキー氏は以下のように語る。「BuzzFeed在籍時は、ニュースレターへの関心が低く登録を行ってこなかった層にまで、ニュースレター配信を拡大することを目指していた」。
BuzzFeedが配信した、初のコース形式のニュースレター『7日でより綺麗な肌に(The 7-day Better Skin Challenge)』では、毎日配信するニュースレターよりも「実行しやすい」情報を提供している。これは新規購読者とBuzzFeedの繋がりを強め、同社のほかのニュースレターにも興味を持ってもらうための判断だ。
同ニュースレターは、最初の36時間で2万5000人の登録者を獲得。また、オシンスキー氏によれば、コース形式のニュースレターのコンバージョン率は35%〜55%で、平均を上回っているという。
近年BuzzFeedは、新規ユーザーの獲得よりも既存読者のエンゲージメントとリテンションを重視しており、ニュースレターについてもクロスセル戦略として、メインのニュースレターの開封頻度が低い人向けにメールを配信。コース形式のニュースレターを訴求している。
既存読者のリテンションに
また、ワイヤーカッターは1月、『5日でできるクレジットカード照合(Five-Day Credit Card Checkup)』の配信を開始した。それに続いて1月下旬には『5日でできる睡眠の改善(Five Days to Better Sleep Challenge)』を配信開始。さらに3月にパンデミックがはじまると『在宅ワークチャレンジ(Work from Home Challenge)』を配信した。
ワイヤーカッターのニュースレターストラテジストを務めるアレハンドラ・マトス氏によると、現在同社はニュースレター登録者に向け、コース形式のニュースレターを訴求している。その最大の目的は「関心の低いメール購読者に対して、我々のメインのニュースレターであるデイリーディールズ(Daily Deals)を訴求してリテンションを行い、全体的な読者層を増やすことにある」と語る。
だが同氏のチームは、デイリーディールズだけでなく、ほかのニュースレターへの登録にも繋げられるのではないかと期待している。
現在、ワイヤーカッターのニュースレター登録者のうち、約3万人がコース形式にも登録しており、さらにそのうちの半数以下がデイリーディールズに登録している。「コース形式の登録者を、メインのニュースレターやほかのニュースレターに誘導していきたい」とマトス氏は語る。
読者と直接繋がれる
またCNNの広報担当によると、アンダースコアードの睡眠に関するニュースレターの最終回では、登録者にプロフィール作成を求め、参加者の情報収集につとめたという。
「ニュースレターは、読者と直接関係を築き、その関係性を保有できるという点で非常に素晴らしいツールだ。多くの場合は、必ずプラットフォームが間に割り込んでくる。メール配信ではそういった邪魔が入らない」とオシンスキー氏は語る。
また、ニュースレターには直接収益を上げやすいというメリットもある。
CNNやBuzzFeed、ワイヤーカッターのコース形式のニュースレターは、いずれも読者を支援する商品を紹介する形でアフィリエイト戦略を導入している。
さらに、新規や既存の読者をサブスクリプションや会員制ビジネスへのコンバージョンへと繋げられるほか、スポンサー獲得のチャンスもある。BuzzFeedも、最近この戦略を取り入れており、コース形式のニュースレター、『犬を飼いたい貴方のための30日コース(30-Day New Doggie Course)』では、スポンサーとしてAmazonを獲得。さらに関連商品へのアフィリエイトも実施している。
また、パブリッシャーも独自の成功指標を設定している場合がある。
オシンスキー氏によれば、BuzzFeedはまず開封率を追っていたが、その後コースの全メールを開封したオーディエンスの割合へと評価指標を変更したという。
加えてテーマ設定についても、たとえば新年の大掃除といった毎年繰り返されるテーマであれば、毎年新たな読者を呼び込むチャンスになり得る。『7日でより綺麗な肌に』のように、季節を問わず常に人気の分野も設定できるのだ。
[原文:‘The second wave’ Publishers see the value of providing education through newsletter courses)]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)