2020年初頭、パンデミックのためにアメリカ中の大学が閉鎖されても、大学eスポーツは活気に満ちあふれたままだった。従来のフィジカルスポーツとは異なり、eスポーツには移動の必要がなく、感染のリスクも最小限だからだ。米国における大学eスポーツの現状と将来の可能性を見てみよう。
2020年初頭、パンデミックのためにアメリカ中の大学が閉鎖されても、大学eスポーツは活気に満ちあふれたままだった。従来のフィジカルスポーツとは異なり、eスポーツには移動の必要がなく、感染のリスクも最小限だからだ。
「ほとんどすべてが同じままだった」と、メサイア大学(Messaiah University)のeスポーツ・主任コーチのテレサ・ガフニー氏は言う。「バーチャルな存在に移行しただけだ」。
伝統的なフィジカルスポーツのフィールドが使われないなかで、多くの学校はeスポーツのプログラムを存続させることに成功した。この対照的な状況が、大学のeスポーツに注目を集め、学生の士気を維持するのに役立ったと、ガフニー氏は言う。「何か見て応援するものがあれば、(パンデミックでリモートになっていたり、停止していても)学校はまだ自分の学校のように感じられる」と彼女は言った。
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しかし、従来の大学スポーツであれば、大きな権限を持ち、かつ包括的なNCAA(全米大学スポーツ協会)によって運営されているが、eスポーツ分野は、それほどスムーズな運営ではない。大学eスポーツには、学校、競技リーグ、ゲーム開発者など、さまざまな幅広い利害関係者がおり、それぞれに目的と動機を抱えている。
米国における大学eスポーツの現状と将来の可能性を見てみよう。
利害関係者たち
- 学校:大学eスポーツは、競技としてのゲームに興味を持っている多くの大学がなければ存在しない。ロバート・モリス大学(Robert Morris University)が2014年後半に米国内初のeスポーツ学校代表プログラムを発表したあと、ほかの学校もすぐにそれに続き、現在では一部もしくは全額の奨学金が米国の大学eスポーツに広まっている。クレムソン(Clemson)やアラバマ大学(University of Alabama)のような伝統的大学スポーツの強豪も強力なeスポーツプログラムを誇っているが、eスポーツはミズーリ州のメアリヴィル大学(Maryville University)のような小さな学校が有名になる方法としても存在している。大学のeスポーツリーグのレベルネクスト(LevelNext)を運営するリアフィールド(Learfield)でメディアパートナーシップ部門のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるリック・バラカット氏は、伝統的なスポーツとeスポーツには「相関関係はない」 と述べた。
- リーグ:大学のeスポーツリーグを運営するために、いくつかの企業が参入しており、それぞれが独自の特色を持っている。レベルネクストは、マデンNFL(Madden NFL)やロケットリーグ(Rocket League)などのフィジカルなスポーツと隣接したゲームに注力している。高校リーグも運営するプレイVS(PlayVS)は、マデン、FIFA、オーバーウォッチ(Overwatch)、SMITEでの試合を行なっている。カリージエイト・スターリーグ(Collegiate Starleague)は、カウンターストライク(Counter-Strike)やコール・オブ・デューティ(Call of Duty)などの、ゲーム内で血が飛び交うFPSゲームでトーナメントを運営する数少ないリーグのひとつだ。プレイVSのオペレーション部門シニアバイスプレジデントであるアーカシュ・ラナヴァット氏は、同社をトーナメントの主催者ではなく、学校がeスポーツに参加するためのフレームワークだと見ている。ラナヴァット氏曰く、「eスポーツのシーズンや競技を、我々のプラットホーム上でさまざまなIPを横断して実行できる、もっとも堅牢なプラットホームを作った。私たちは、学校を念頭に置いてそれを構築した。つまり、学校に主体的に参加してもらい、基本的に学校側が何に誰が参加するかといったリストを設定できるようにしている」。
- ゲーム開発会社:従来のスポーツとは異なり、リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)やオーバーウォッチ(Overwatch)といったeスポーツのタイトルは人々が購入するプロダクトであり、活気あふれる大学eスポーツ業界は素晴らしいマーケティングだ。大学eスポーツリーグはすべて、EA、ライオットゲームズ(Riot Games)、アクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)などの企業ゲーム開発者と協力して、競争の促進と管理を支援している。ライオット・ゲームズはリーグ・オブ・レジェンドを運営する独自の組織として全米ライオット・スコラスティック協会(Riot Scholastic Association of America:RSAA)を結成している。RSAAのマット・ナウシャ会長によると、RSAAは2014年以来、400万ドル(約4.5億円)を超える選手奨学金を支給してきた。大学リーグはリーグ・オブ・レジェンドのプロリーグにとってマイナーリーグ的な役割を担っているという。大学選手のなかには、グループ競技におけるリーグで2番目に高いレベルであるアカデミー(Academy)レベルに昇ったものもいる。「我々がプレイヤーがスキルを磨く機会を増やしたことによる、副産物である」とナウシャ氏は言った。「そして、彼らが私たちのプロフェッショナルな世界に移行する機会があれば、私たちもそれを見てみたいと思っている」。
- 運営団体:2019年、(従来のフィジカルな大学スポーツを運営する)NCAAの理事会は、eスポーツにおける男性割合の圧倒的な偏りと一部のタイトルの極端な暴力性に対する懸念を理由に、組織レベルでeスポーツに関与することに反対票を投じた。これにより、2016年に設立された全米eスポーツ大学協会(National Association of Collegiate Esports:NACE)など、eスポーツに特化した運営団体の拡大に道が開かれた。ガフニー氏は、NACEの会費を払うことで、懐疑的な大学経営者や経験の浅い大学経営者の目に、大学eスポーツを正当化できると考えている。「『私のプログラムはNACEのメンバーになる』という言葉には正当性がある」とガフニー氏は言った。大学eスポーツ分野のその他の運営団体には、エレクトリックゲーミング連盟(Electronic Gaming Federation)、全米大学eスポーツリーグ(American Collegiate Esports League)、ライオット・ゲームが所有するRSAAなどがある。
成長に伴う痛みと将来の可能性
プロのゲーミングが現実的なキャリアになるにつれて、大学に出願する際に学校のeスポーツプログラムを考慮する学生が増えている。NACEによると170以上の学校がランキングに入っている。「実際に学生を呼び込むことができる。大学が(eスポーツへの参入を)続けるにはそれだけで十分だ」とガフニー氏は言った。
しかしだからといって、人気のあるすべてのeスポーツが大学の世界に波を起こすわけではない。カウンターストライク:グローバル・オフェンシブ(Counter-Strike:Global Offensive)はもっとも有名なeスポーツのひとつだが、カウンターストライク・イベントを開催している大学リーグはほとんどない。「われわれは(ゲーム業界でレッド・ブラッドと呼ばれるような、リアル度が高く)血生臭いゲーム内容のものは絶対にやらないだろう」とバラカット氏は言った。「フォートナイト(Fortnite)やオーバーウォッチのような(ブルー・ブラッドと呼ばれるような、リアル度が比較的低く、ファンタジー要素も含まれる)タイトルは、もっと生き生きとしており可能性はあるかもしれない。しかし具体的な名前を挙げずに言えば、暴力的で赤い血が流れる一人称視点のシューティングゲームは採用するとは思えない」。
シューターゲームであるバロラント(Valorant)は大学競技でいくつかの成功を収めている。ライオット・ゲームズによるこのゲームは、オーバーウォッチが持つ戦闘のテイストを持ちつつも、現実的な銃器やコール・オブ・デューティのようなゲームの暴力とは違った、魔法的な要素を持った武器を使用している。「私たちは、大学と高校の両方で、バロラントを求める多くの意見を聞いている」とナウシャ氏は言った。「そのため、それを私たちは積極的に注視している」。
学校がシューティングゲームにチームを入れることに懐疑的だった理由のひとつは、暴力的なコンテンツに対するNCAAの前述の懸念だ。しかし、オーバーウォッチのような一人称視点のシューティングゲームがいまや大学のeスポーツプログラムの標準的な要素となり、女性の競争相手が増えている今、NCAAがeスポーツで存在感を示す機は、これまでになく熟しているようだ。
このことは、すでにこの分野に存在している運営団体のあいだで摩擦を引き起こす可能性があるが、ナウシャ氏は、NCAAがeスポーツに足を踏み入れた場合、NCAAと協力して仕事ができると確信している。「もし彼らが戻ってきたとしても、彼らはパブリッシャーたちと協力しなければならないことを知っている。なぜならIPの存在があるためだ。eスポーツは伝統的なスポーツとは違い、ダイレクトな1対1構造になっていない」とナウシャ氏は言った。「私たちは彼らと協力的な仕事上の関係を持つことに大きな興味があり、それは現在のエコシステムにおける、ほかのステークホルダーたちにも当てはまる」。
米DIGIDAYがこの調査のためにコンタクトを取った10の組織、学校、そして運営組織のそれぞれは、大学のeスポーツ業界がどのように形成されるかに関わらず、競技ゲームが大学体験の中核的要素になる、あるいはすでになっていると確信していた。パンデミックによって引き起こされた関心の高まりは、すでに進行中の事業拡大を加速させた。「可能な手をすべて使って、eスポーツは学校キャンパスに有意な存在であることを証明した」とガフニー氏は言った。「10年前と同じように、生徒たちは(ゲームで)遊び、喜んで時間をそこに費やすだろう。彼らの情熱はそこにまだ存在している」。
ALEXANDER LEE(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)