eスポーツが今後発展していく分野であることは疑問の余地がないが、同時に課題も山積している。ターナーの前社長であり、現在はNYのeスポーツ団体に関わるデイビッド・レビー氏は、成長には時間がかかるとしながらもeスポーツの可能性は大きく、サッカーやバスケット、格闘技に続く新たな世界規模のスポーツになると指摘する。
「eスポーツは、サッカーやバスケットボール、格闘技に続く第4のグローバルなスポーツになるポテンシャルを秘めている」。数多くのスポーツチャンネルを有するターナー(Turner)の元プレジデント、デイビッド・レビー氏の言葉だ。同氏は現在、eスポーツ団体のアンドボックス(Andbox)に携わっており、こういった評価は大げさなポジショントークに思えるかもしれない。だが、いずれにせよ米国ではしばらくスポーツ中継がなかったこともあり、eスポーツの存在感が増しているのは事実だ。
eスポーツが注目を集める理由のひとつが、その視聴者数だ。実際に米国では今年eスポーツの月間オーディエンス数が10.6%上昇し、3500万人を突破した。しかし急激な成長の一方で、抑制しようのない「成長痛」も生じている。羽振りのよさそうなイメージとは裏腹に、この業界では収益性の低さやビジネスパートナーの標準化の欠如、投資をおこなうための資金の不足などが足かせとなっているのだ。
問題を複雑にしているのは従来のスポーツとeスポーツで大きく異なる点、つまり、競技対象のゲームタイトルの知的財産を所有しているのはゲームメーカーであり、eスポーツ団体にコントロールできることは多くない点だ。アンドボックスは北米でも比較的人気のあるチームだが、それでも現在のところ持続可能なほどの収益はあげられていない。
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だがレビー氏は、これはeスポーツ業界の構造的な問題だけでなく、アンドボックスをはじめとする参加団体の実行力にも問題があると指摘している。同氏がeスポーツ業界に参入した理由は「ゲーマーはゲーム開発企業のカスタマーでもあるとともにeスポーツチームのカスタマーでもある。そこに、これまでにない商業プラットフォームのビジネスチャンスを見出した」ためだという。
米DIGIDAYはそんなレビー氏にインタビューをおこない、今後eスポーツは広告主にとってどのような存在になるのか、同業界とメディア業界の戦略の共通点といった話を聞いた。
なお、読みやすさを考慮し、発言には多少編集を加えてある。
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−−アンドボックスへには、どのような形で携わっているのか?
私の役割はどんどん変わっている。そもそも私はアンドボックスの投資家たちとつながりがあり、同団体をサポートする銀行のシニアアドバイザーでもあった。そんななか、自分のバックグラウンドも含めて、アンドボックスの経営陣とどういった形で貢献できるかを話し合った。たとえば社会的な認知度、配信プラットフォームへの関わり方、アンドボックスのブランド力を高める取り組みなどだ。そういった話し合いを通じて、アンドボックスに参加しないかと誘われたのだ。私の役割ははっきりと決まってはいないが、アンドボックスの成長を切り開くためにできることをしていきたい。
−−eスポーツはゲームメーカーが「価値」を提供し、コントロールする権利を握っている。なぜそういった業界に投資しようと思ったのか?
eスポーツと知的財産権は切っても切れない関係だが、アンドボックスは自分たちでブランドを育もうとしている。まずは、アンドボックスに所属するニューヨーク・サブライナーズ(NEW YORK SUBLINERS)やニューヨーク・エクセルシオール(NEW YORK EXCELSIOR)といったプロチームを中心としてブランド化していきたい。また我々はフォートナイト(Fortnite)の大会『バトル・オブ・バラス(Battle of the Boroughs)』を開催しており、ニューヨークを中心にアンドボックスの「ゲームセンター」を展開していく予定だ。
イベントを主催し、商品を販売し、高品質のコンテンツを提供する。こうした取り組みを積み重ね、eスポーツだけでなくゲーム業界におけるプレゼンスも高めたい。これが次の目標だ。なぜならば、市場にあわせてフランチャイズ展開していくことで、最終的にはアンドボックスを中心に据えた市場とコンテンツを形成できる可能性がある。エピック・ゲームズ(Epic Games)といったメーカーとも提携できるかもしれない。カスタマーとの1対1の関係で生み出されるデータは、フォートナイトのユーザーを増やすのにも役立つはずだ。
−−ブランド構築は、eスポーツのフランチャイズにおいてどういった価値を持つのか?
eスポーツは数百万ドルどころか、数十億ドル規模の世界的なスポーツになる可能性は高いと考えている。わずか25年ほど前まで、NBAのチームは1億ドル(約105億円)以下で買えた。だが今やその価値は20億ドル(2100億円)以上だ。同じレベルに達するまで時間はかかるだろう。だがこういったフランチャイズ展開は徐々に進んでいく。今、世界のメジャースポーツといえばサッカー、バスケットボール、格闘技だ。そしてそれに続くのがeスポーツになるだろう。
−−広告主にとって、eスポーツ業界の拡大はどういった意味を持つのだろうか?
eスポーツはもはやニッチな業界ではなく、広告主もとらえどころのない若者を取り込むこの業界の価値に気づき始めている。チームのユニフォームに表示するスポンサーロゴは人気のある『商品』のひとつだ。しかし、ほかの人気スポーツのような成功を得るためには、彼らが長年かけて培ってきたもの、つまり選手の育成が課題となるだろう。eスポーツの将来は、広告主の投資に対するリターンを明確にできるかにかかっている。大会において人気のある選手がスポンサーロゴを身に付けることで売上に貢献すれば、広告主との契約が増えるのは間違いない。これは業界にとって必要な改革だろう。
−−eスポーツ番組がテレビで放送されることの価値は?
そもそもテレビで放送すべきスポーツかどうかは意見がわかれている。eスポーツはいい結果を出している。だが非常にいいとまではいかない。大きな大会でテレビ配信に成功すれば、オンラインプラットフォーム以外にテレビにも配信権を販売するようになるかもしれない。だがゲーマーはテレビをつけてスポーツを視聴するという習慣がない場合が多い。習慣は変えることができるかもしれないが、多くのオーディエンスがオンラインプラットフォームを通じて視聴している現状で、わざわざテレビ展開する必要はあるだろうか。エピック・ゲームズもそういった考えに傾きつつある。業界としてどのようなチャネルでの配信が主流となっていくのかは、まだ明確になっていない。
−−eスポーツを支えるオンラインプラットフォームやゲームメーカーが協力してプラットフォームを構築した場合、eスポーツのチームにとってどういったメリットがあるだろうか?
フォートナイトといった一部のゲームは、すでにゲーム自体がプラットフォームとして機能している。ただゲームを遊ぶだけでなく、(フォートナイト内でライブを開催した)トラヴィス・スコットのアルバムを手に入れるためのチャネルとしても機能している。特定の若者層がさまざまなコンテンツを消費する場所となっているのだ。
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)