2015年11月30日、「ニューヨーク・タイムズ」のホームページに、ブロードウェイミュージカルのヒット作である「ブック・オブ・モルモン(Book of Mormon)」のアニメーション広告が現れた。この広告のクリエイティブは、同年10月の同紙芸術面の記事をそのまま模して制作されたという。
今回話題になった広告は、ネイティブアドとして制作されており、明確に「広告」との記載がされている。しかし、広告のデザインは完全に「ニューヨーク・タイムズ」の記事に似せられており、文字のフォントやデザインも一緒だ。
広告に実際の記事を取り入れることの魅力は、パブリッシャーがもつ信頼性を広告に与えられることだ。しかし、読者が、記事は広告主の利益のために書かれたものだと認識してしまう、というリスクも生じ得ない。
「ニューヨーク・タイムズ」は、2014年5月にリークされた96ページに及ぶ内部文書「イノベーションレポート」で、コストのかかる編集コンテンツの新たな使い道を見つけることを喚起していた。その結果は、レポートを書いた著者が考えてもいなかったものになったようだ。
2015年11月30日、「ニューヨーク・タイムズ」のホームページに、ブロードウェイミュージカルのヒット作である「ブック・オブ・モルモン(Book of Mormon)」のアニメーション広告が現れた。この広告のクリエイティブは、同年10月の「ニューヨーク・タイムズ」の芸術面の記事を模していたという。
今回話題になった広告は、ネイティブアドとして制作されており、明確に「広告」との記載がされている。しかし、広告のデザインは完全に「ニューヨーク・タイムズ」の記事に似せられており、文字のフォントやデザインも一緒だ。この広告では、ミュジーカルのキャラクターたちが写真から飛び出し、記事が実はミュジーカルのバーナー広告であることを明かす。
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「NYタイムズ」初の取り組み
「ニューヨーク・タイムズ」は、以前にも自社の編集記事を広告に使用したことはある。最近では旅行記事を再利用して、Googleのキャンペーンも行った。しかし、同紙広報によると、このような実際のニュース記事のスクリーンショットを使用する広告は、初めてだという。
さらに「以前にも記事面を印刷広告に使用したことがあるし、デジタル広告に同紙の記事へのリンクを貼ったこともある」と言及。しかし、そのうえで「『ニューヨーク・タイムズ』の記事のスクリーンショットを使用したデジタル広告はこれが初めてだ」と語った。
ページの右側が記事のような広告で、ミッドロール広告のようなクリエイティブになっている。
広告制作のプロセス
ネイティブアドの制作に際して、広告主とパブリッシャーは密接に仕事をしている。ホストサイトの書体やスタイルに沿ってデザインするためだ。しかし通常では、特に欧米の場合、独立性を維持するため、編集部は広告制作のプロセスからは切り離されている。
とはいっても、ネイティブアドは多くの場合、広告だと判別された途端、読者から無視されてしまう傾向にある。広告に実際の記事を取り入れることの魅力は、パブリッシャーがもつ信頼性を広告に与えられることだ。
「ニューヨーク・タイムズ」は「広告」と明確にしている場合に限り、それを許可している。個別に提携しているリポーターの記事や、少なくとも掲載から1週間が経過している記事ならば契約的な制限はない。「ブック・オブ・モルモン」の広告も、広告認可部門とニュース編集部の編集者からの許可を得たうえでの試みであった。
そのインパクトとリスク
これには当然リスクもある。読者が、記事は広告主の利益のために書かれたものだと認識してしまう場合だ。「ブック・オブ・モルモン」の場合、使用した記事が2カ月前のもので、「ブック・オブ・モルモン」の批評ではなく、アートに関する募金の記事であったことから混乱する読者はあまりいないだろう。
ほかの「ニューヨーク・タイムズ」の記事が使われた広告も、多くはアート関連記事が背景や小道具として使われ、読まれることを想定していない。そして、これらの広告の多くは、同紙の主席シアター評論家であるベン・ブラントリー氏のショーを讃える文言で終わる。
ところが、メディア研究を行うポインター研究所(Poynter Institute)にて倫理学を教えるケリー・マクブライド氏は、広告に編集記事を使用する手法に多くの疑問を抱いているという。パブリッシャーがこの手法を許可することで、新たなるアイデアを許容する環境を作ることができるが、パブリッシャーの記事の信頼性が捻じ曲げられ、これを見た読者がパブリッシャーの独立性を疑う危険性はあると、マクブライド氏はコメントする。
Twitterユーザーの反応
Twitterには、この広告に対するさまざまな反応が寄せられている。
Not a big ad fan, but front pager on NYT for “Book of Mormon” is amazing … https://t.co/L0T1bYiT27 …
— Capitol Weekly (@Capitol_Weekly) 2015, 11月 30
Capitol Weekly
あまり広告は好きではないけど、「ニューヨーク・タイムズ」の一面を飾った「ブック・オブ・モルモン」の広告が素晴らしかった。
https://t.co/mAdiQmx6s2 Loved the Book of Mormon Banner… great creative!
— Nicolas Visiers (@visiers) 2015, 11月 30
Nicolas Visiers
「ブック・オブ・モルモン」のバーナー広告最高。素晴らしい独創性だ!
Super weird ad on https://t.co/RzRXhXQh6i front right now. Overlaid on an actual NYT story is a Book of Mormon ad. Clicks on story redirect
— Matt Clarida (@MattClarida) 2015, 11月 30
Matt Clarida
いま「NYTimes.com」にすごく変な広告が載っている。「ブック・オブ・モルモン」の広告が実際の「ニューヨーク・タイムズ」の記事に重ねられている。
Lucia Moses(原文 / 訳:BIG ROMAN)
Image from ThinkStock / Getty Images