ニューヨーク・タイムズの主力である毎朝のニュースレター「ザ・モーニング」は、2021年1月に節目を迎えた。2020年5月の創刊以来、10億回のユニークオープンを達成したのだ。エンゲージメント構築、サブスクリプションへの誘導、ファーストパーティーデータの収集と、ザ・モーニングが果たす役割はとてつもなく大きい。
ニューヨーク・タイムズ(The New York Times:以下、NYT)の主力である毎朝のニュースレター「ザ・モーニング(The Morning)」は、2021年1月に節目を迎えた。2020年5月の創刊以来、10億回のユニークオープンを達成したのだ。
NYTでニュースレター担当エディトリアルディレクターを務めるアダム・パシック氏によると、同ニュースレターはNYTと読者の重要な直接のつながりを象徴する存在で、毎日のニュースレター読者をNYTのジャーナリズムの購読者に変える手段でもあるという。
「ニュースレターはサブスクリプションビジネスを成長させる手段としてすぐれている。ニュースレターの登録は健全な習慣であり、将来の成果につながる」と、パシック氏は述べる。しかし、ザ・モーニングの読者をNYTの購読者に変える戦略は「現在進行形であり、我々は、その動きを最適化する方法を学びつづけている」とも同氏はいう。NYTはニュースレター経由で有料購読を始めた読者がどれだけいるのかを明らかにしていない。NYTのデジタルサブスクリプションの料金は現在、最初の1年は月8ドル(約843円)、2年目以降は月17ドル(約1791円)だ。
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またNYTは、同社最大のニュースレターであるザ・モーニングの読者数も公表していない。平均開封率は2020年の「創刊時よりも大幅に高まっている」と、NYTでコミュニケーション担当エグゼクティブディレクターを務めるジョーダン・コーエン氏はいう。また、ザ・モーニングの開封の「大多数」は、西海岸のタイムゾーンの関係で送信から3時間以内に発生していると、パシック氏は話す。
エンゲージメント戦略として優秀
NYTが発行するニュースレターは71種類を数える。読者は2020年に同社が送ったニュースレター36億通以上を開封しており、2019年と比較して150%増加した。2020年には、重大ニュースイベントに特化したポップアップニュースレター(「コロナウイルス・ブリーフィング」「コロナウイルス・スクールズ・ブリーフィング」「インピーチメント[弾劾]・ブリーフィング」「アット・ホーム」など)の開封が1億8000万回にのぼった。これらの数字には、NYTのアプリでプッシュ通知を受け取り、アプリ上で開封した読者は含まれていない。
「パンデミックと大統領選で読者の関心は大きく高まった」と、パシック氏はいう。収益化やサブスクリプション登録者獲得に関してNYTと提携する、eメールマーケティング会社のライブインテント(LiveIntent)が昨年7月におこなった調査では、パブリッシャーの53%が、パンデミックの発生以来eメールニュースレターの開封率が上昇したと回答した。ライブインテントのCMO、ケレル・クーパー氏は、人々が自宅で過ごす時間が長くなった結果、受信ボックスの確認に長い時間をかけるようになり、ニュースレターの消費が増えたと指摘する。
ザ・モーニングなどのニュースレターは、読者に毎日のコンテンツ消費を習慣づけることで、NYTのサブスクリプション主導事業を支えている。課金してペイウォールの向こう側のコンテンツにアクセスしたいと思わせるのが狙いだ。
「eメールに多くのリソースを割くのは、新たな読者にニュースレターの内容を紹介し、開封を習慣づけ、長期的関係を構築するための戦略としてすぐれており、ゆくゆくは本紙の定期購読につながるためだ」と、パシック氏は述べている。
ニュースレターがもたらすさまざまな価値
最新の決算報告によると、NYTのサブスクリプション登録者は750万人を超えており、うち669万人がデジタル版だけを購読している。昨年、同社はふたつの節目を迎えた。デジタル売上が紙媒体売上を上回り、デジタルサブスクリプションが同社最大の収入源となったのだ。
NYTは、広告主に1日単位でスポンサーシップを直接販売することでザ・モーニングを収益化している。クーパー氏によると、NYTでは営業チームがザ・モーニングの広告スペースの販売を手がけており、またライブインテントの技術を利用してニュースレターに広告を挿入している。
ニュースレターは総じて、収入源としても、サブスクリプション登録者を増やす手段としても、パブリッシャーにとってますます魅力的なものになりつつある。バッスル・デジタル・グループ(Bustle Digital Group)は現在14種類のニュースレターを発行し、200万人が登録しているが、同社は今年の終わりまでにeメール登録者を1000万人に伸ばし、ニュースレタービジネスの売上を現在の数百万ドル規模から数千万ドル規模にまで成長させる目標を掲げる。またForbesは、ジャーナリストが独自の有料ニュースレターを発行し、売上をパブリッシャーと配分するプラットフォームを立ち上げる予定だ。
ニュースレターにはもうひとつ、パブリッシャーが読者のメールアドレスを入手できるという利点もある。サードパーティCookieの終焉が間近に迫り、デジタル広告業界が広告ターゲティングの手段としてメールアドレスなどのファーストパーティデータを重視する方針に転換しつつある今、この情報はとりわけ重要だ。
「ニュースレター戦略を強化するクライアントはますます増えている。彼らはニュースレターを、顧客との直接のつながりを構築し、広告主にユニークな製品やサービスを提供し、サードパーティの世界からファーストパーティーの世界への移行を促進する手段とみているのだ」と、クーパー氏はいう。「ニュースレターは消費者とパブリッシャーのデジタルな信頼の賜物だ。消費者はすぐれたコンテンツを得るためにメールアドレスを渡し、登録解除のボタンを押せばいつでも契約を終了させることができる」。
関心を高めるプラットフォームたち
プラットフォームが消費者売上を求めてニュースレター企業を買収する例も増えている。CRMソフトウェアプラットフォームのハブスポット(HubSpot)は、150万人の読者をもつビジネスニュースレターのパブリッシャーであるザ・ハッスル(The Hustle)を買収した。またTwitterは今年1月、ニュースレタープラットフォームのレビュー(Revue)を買収した。
ニュースレターは「今、重要な文化的局面を迎えている」と、パシック氏はいう。「ソーシャルメディアの問題が顕在化する現在、ニュースレターは親密で直接的に感じられ、複雑なトピックを日常の言葉で説明できる」。
2020年4月、デビッド・レオンハルト氏はザ・モーニングのリードライターを引き継いだ。同氏のチームは「さまざまなフォーマット、フォーカス、声を絶えず反復している」と、パシック氏は話す。
たとえば、ザ・モーニングの冒頭部分は現在、ひとつの大きなトピックにフォーカスした「ミニエッセイ」形式になっている。新型コロナウイルスのワクチンを取り上げた文章やデータビジュアリゼーションは、とりわけ読者の好意的反応を集めたと、パシック氏はいう。レオンハルト氏は最近、母にワクチン接種を受けさせるために2500km以上を旅した経験を冒頭記事にした。NYTの別のデジタルプロダクト、たとえば「クッキング(Cooking)」や「ゲームズ(Games)」のコンテンツがザ・モーニングで取り上げられることもある。
コアポートフォリオとして
NYTはコアポートフォリオとしてのニュースレターの成長をめざしており、ザ・モーニングで取り上げられたトピックはときに独立したニュースレターへとスピンアウトするが、これらは「永遠に続くものでなくてもいい」と、パシック氏はいう。ドナルド・トランプ前大統領の弾劾裁判に関するニュースレターは、2度目の公判を控えて先日復活した。
大きなニュースイベントが起こったとき、ニュースレターチームはそれに関するポップアップ・ブリーフィングを即座に構築できるようになった。新型コロナウイルスに関するブリーフィングは昨年たった2〜3週間で生み出され、今では同紙の人気ニュースレターのトップ5の一角を占める。
NYTはCMSとニュースレターツールを強化し、「いざというときに迅速に動けるようになった。チェックリストとガイドブックがあれば、毎回ゼロからつくりあげる必要はない」と、パシック氏は述べた。
SARA GUAGLIONE(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:分島 翔平)