ジャーナリズム の未来は、「中立性」より「信頼性」?:伊藤穰一氏らが考えるテクノロジーメディアのあり方

ジャーナリズムの在り方が変化しつつある。

デジタルガレージは2018年6月19日、インターネット技術や最先端のビジネス動向について議論を深めるイベント「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2018 TOKYO」を、六本木ヒルズ森タワーにて開催。そこで実施された「メディアの中立性」と題されたセッションでは、情報の中立性を担保するために、ジャーナリズムには何ができるのかについて、識者らが意見を交わした。

セッションのモデレーターを務めたのは、デジタルガレージ共同創業者で、MITメディアラボ所長を務める伊藤穰一氏。パネラーとして、ハフポスト日本版編集長の竹下隆一郎氏、日本経済新聞社で常務取締役を務める渡辺洋之氏、MITメディアラボのソーシャルマシーンズグループ(Social Machines Group)から派生した非営利団体コルティコ(Cortico)の共同創業者兼社長であるユージーン・イ氏が登壇した。

「情報の中立性は確かに大切だが、テクノロジーの発展により人々のコミュニケーションや価値観が多様化しているいま、そこに固執しすぎる必要があるのか疑問を感じる。これからメディアに求められるのは『信頼性』だ」と、竹下氏はセッションの冒頭で口火を切る。「メディアの信頼性を高めるためには、中立性にとらわれるあまり、問題から距離を取りすぎるのではなく、時として特定のスタンスを取ったり、読者との直接的な繋がりを作ることが大切だ」。

実際ハフポスト日本版では、読者との繋がりを活性化し、コミュニティ創出に繋げるため、ブルーボトルコーヒー六本木カフェで読者イベントを開催している。開始初日はたったの20名のみの参加だったが、5日間の開催期間中に来場した読者の総計は380名に及んだ。これを受け竹下氏も、大きな手応えを感じているという。

   

と3名

左から伊藤氏、竹下氏、イ氏、渡辺氏

   

「真実」は複数あっていい

「かつてのジャーナリズムは、権力を監視する機能を第一義として担っていたが、ハフポストがブルーボトルコーヒーで実施した読者イベントは、新しいジャーナリズムの形を示している」とイ氏は、竹下氏の発言に追従する。「物事を伝えるという行為において、完璧に中立性はを保つ、ということはもはや重要ではないと思う。キリスト教、仏教、神道など、さまざまな宗教が存在するように、『真実』は複数あっていい」。

2016年の米国大統領選挙でイ氏は、AIを活用した選挙戦の分析に取り組んでいた。そのときの経験を振り返り、同氏は「人々のミクロな行動に目を向けると、それまでとはまた違った事実が見えてくることがある。ジャーナリズムがやるべきは、読者一人ひとりと議論ができるような場を用意することなのかもしれない」と語る。

これに対し渡辺氏は、「確かに理想としては正しいが、ひとつ懸念しているのはリテラシーの問題だ。オンラインのコミュニティを例に挙げると、ネット上でのやりとりに不慣れで、リテラシーの低い読者はどうなるのか」と、懸念を示した。そもそもコミュニティに参加するということ自体に、一定の教養や知識が必要だとしたら、そこでの意見の総和は、偏ったものになりかねない。

新しいジャーナリズム

また、モデレーターの伊藤氏も「NYTとか、ワシントン・ポストといった欧米のマスメディアは、誰が大統領であれ、必要であれば権力を批判する。こうした、権力の監視というメディアの役割と、コミュニティの創造は別物。コミュニティーベースで果たして権力を監視できるのかは疑問だ」と指摘。たとえばピューリツァー賞を取るようなジャーナリストは、取材にかける予算も規模も莫大なものになる。そういった機能をブログやコミュニティーで担う、というのは現実的ではない。

   

伊藤襄一氏

モデレーターを務めた伊藤襄一氏

   

これに対し竹下氏は、「もちろん有事の際など、大規模な予算が必要な組織ジャーナリズムが必要な場合もあるだろう。しかし、我々が取り組もうとしているのはもっと前の段階だ」と語る。読者にとって顕在化していない問題、そこにも監視すべき権力の存在があるのだという。最後に竹下氏は次のように締めくくった。

「政府や大企業を批判するだけではなく、読者の日常に寄り添い、小さなことでも気付きを与えることで信頼を得る。それこそが、今後求められるジャーナリズムのあり方ではないか」。

※DIGIDAY[日本版]は、THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2018 TOKYOのメディアパートナーです。

Written by Kan Murakami
Photo by courtesy of THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2018 TOKYO