デジタルメディア業界では、支払い期間が長期化し、延滞が常態化している。これはコロナ危機以前からのトレンドだ。ファクタリング企業オーレックス(OAREX)によれば、支払い期間が長期化しているだけでなく、支払いの遅延も常態化しているようだ。
デジタルメディア業界では、支払い期間が長期化し、延滞が常態化している。これはコロナ危機以前からのトレンドだ。
DSP(デマンドサイドプラットフォーム)、SSP(サプライサイドプラットフォーム)、エージェンシー、デジタルメディア企業などを顧客に持つファクタリング企業オーレックス(OAREX)によれば、同社が1~5月に買い取った請求書の平均支払い期間は59日だったという。2019年は49日、2018年は47日、2017年第4四半期は40日だった。この間、同社の顧客基盤が取引所、DSPなど、業界の特定部分に偏っていたかどうかは考慮されていない。
オーレックスのデータによれば、支払い期間が長期化しているだけでなく、支払いの遅延も常態化しているようだ。
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さらに深刻化する可能性が高い
2017年第4四半期、オーレックスが買い取った請求書のほとんどは期限内に支払われていた。一方、2020年に入ってからは、平均9日遅れで支払われている。9日はそれほど重大な数字に見えないかもしれないが、週末を除くとほぼ2週間であり、2019年の平均3日から大幅に増加している。
もしこのような傾向が続けば、2021年、デジタルメディア業界の支払い期間は平均64日まで延長され、支払いは平均12日ほど遅れると、オーレックスは予想している。
デジタルメディア業界には、手元資金が潤沢な企業はあまりいない。資金的な余裕がない企業の場合、支払いの遅延は事業の運営、経費の支払い、未来の予測の大きな妨げになる。
オーレックスのCEO、ハナ・カシス氏は、コロナ危機下のリモートワークに起因する業務の非効率化に信用の問題が加わり、支払い遅延はさらに深刻化する可能性が高いと述べている。
痛みを感じるのは第3四半期
メディア企業に請求書のファクタリング、資金へのアクセスの両方を提供するファストペイ(FastPay)によれば、3月15日以降、エージェンシーからアドテクベンダー、パブリッシャーへの支払いがそれ以前より20日遅くなっているという。同時期には広告主からアドテクベンダー、パブリッシャーへの支払いも12日遅くなっている。
3月には、ある正式な手続きが見られた。デジタルメディア企業、ベンダー、エージェンシーが不可抗力条項を引き合いに出し、支払い期間を延長すると顧客に通知したのだ。広告主やメディア関係の顧客に売掛債権ファイナンスソリューションを提供するシルバーブレード(Silverblade)のCEO、バーナード・アーバン氏は「いまはとにかく金が現れない。そして、そのことについて誰も何も言わない」と話す。
カシス氏とアーバン氏はいずれも、デジタルメディア業界で多くの企業、ベンダーが支払い遅延の痛みを感じはじめるのは第3四半期になると予想している。
「皆が年末には忙しくなり、いつもと同じ第4四半期にしようと努力しはじめる。そのころ、手元資金が少なくなり、業務に必要なリソースが増えるはずだ」と、アーバン氏は分析する。「たとえるならば、アクセルを踏み込みたいが、タンクにガソリンが入っていない状況だ。そのとき、どれほどひどい状況かはじめてわかる」。
声をあげるエージェンシー業界
一方、ファストペイは、支払い期間がさらに長期化するとは考えていない。プレジデント兼最高業務責任者(COO)のセシル・ベイサル氏によれば、プログラマティックの世界では通常、広告費と支払い期間が密接に相関しているという。広告費は3~4月に急落したが、5月には、大部分のデジタルメディア企業で上昇に転じており、6月には、さらに上昇する見通しだ。
ほかの多くの業界と同様、コロナ危機はすでに存在したトレンドを増幅させている。S4キャピタル(S4 Capital)のCEO、マーティン・ソレル氏はWPPのCEOだった2013年、「我々は…銀行…ではない」と、支払いの遅い顧客を嘆いていた。
エージェンシーの業界団体4A’sのCEO、マーラ・カプロウィッツ氏も「我々のいる業界では何年も前から(支払いは)遅かった。『イエス』と答え、一時的だと思っていたら、恒久的になる。あるいは、顧客にそれを命じられる」と証言する。
4A’s、英国のIPA(Institute of Practitioners in Advertising)、欧州コミュニケーションエージェンシー協会が参加する世界的な広告主業界団体のアライアンス、ボックスコム(VoxComm)は5月、コロナ危機のさなかに「エージェンシーを脅し、支払い期間を延長させる」企業、「契約上の支払い期間を著しく軽視する」企業を非難する声明を発表した。支払い期間が延長されれば、従業員の給与やフリーランスの報酬を期限内に支払うことが難しくなると、ボックスコムは主張している。
未来のリスクを回避するには
専門家によれば、財務処理ツールや請求ツールの未更新、経理業務を企業の本社から安価な拠点に集中化させる動きも、デジタルメディア業界で迅速な支払いを妨げる圧力になっているという。
たとえば、「共有サービスセンターやオフショアリングを利用するブランド、エージェンシー、メディアオーナーが増えている」と、PwCの顧客、マーケティング、メディアインサイトチーム担当パートナー、サム・トムリンソン氏は話す。「それらはたいてい、よく言っても凡人の集まりだ」。
オンラインメディアの世界はすべてがつながっており、その性質上、この世界に属する者は、自らへの支払いを受けてから、はじめて自らが支払う傾向にある。2020~21年、デジタルメディア業界は不確かな状況が続くだろう。そのため、オーレックスのカシス氏は企業に、契約を注意深く分析し、未来のリスクを回避するため「シーケンシャル・ライアビリティ(Sequential liability:順次負債)」条項が含まれているかを確認するよう助言している。
「多くの契約にはこれがない」。
Lara O’Reilly(原文 / 訳:ガリレオ)