テック系パブリッシャー「ザ・インフォメーション(The Information)」は、購読者が記事について自由にコメントし合える場所を意図的に提供し続けることで、良質なコメントや議論が交わされる購読者間のコミュニティー育成に成功。小規模を保つことで、ハイエンドでよりユーザーに近いメディア運用を実現している。
Webサイトにコメント欄がついていることは多いが、たいていの場合はスパムや荒らしコメントに溢れているか、誰も書き込まずに砂漠のように干からびているかのどちらかだ。
しかし、サブスクライブ型(有料登録型)のテック系ニュースパブリッシャー「ザ・インフォメーション(The Information)」においては、コメント欄やサイトのコミュニティーページが生き残っているどころか、それがセールスポイントとなっている。ファウンダーであるジェシカ・レッシン氏は、コメントをするユーザーや、彼らによって形成されているコメント欄コミュニティーのことを「サイトのもっとも強力なパーツのひとつになっている」と語った。
コメンターたちの気持ち
特定分野に特化したパブリッシャーは、コンテンツを中心としてコミュニティが形成されるといった具合に、コミュニティについて語ることが多いが、「ザ・インフォメーション」の場合は違う。同サイトではコメントをする購読者たちがコンテンツの最前線に立っていて、彼らが中心となってコンテンツが作られる。
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購読者は自身のプロフィールページをもっており、利用料を支払って講読しない限り、コンテンツを見られないという強固なペイウォールとなっているが、サイト支援者にはSnapchat(スナップチャット)のファウンダーであるエヴァン・スピーゲルやFCC元議長であるジュリウス・ジェナチョウスキといった名が連なっているのだ。サブスクリプションへの勧誘も、テックやメディアの知識を売りにしてはおらず、購読者が「コミュニティに参加する」ことが前面に出されている。
「彼らが成功してきたのは、コメントをただのコメントとして扱わないからだ」と語るのは、アドビ(Adobe)が所有するコメントプラットフォーム、ライブファイア(LiveFyre)のCEOジョーダン・クレッチマー氏だ。「彼らのオリジナル記事は、常に強いレポート性を保ってきた。その結果、記事がアマチュアなコメント文化ではなく、素晴らしい読者たちの対話を生む触媒となったのだと思う」と、彼は語る。
深く掘り下げられたレポート記事を読むことができ、しかもその分野の専門家のコメントを読むことができるのは非常に素晴らしいことだ。それだけではない、自分の考えを人々に向けて投稿できるのも魅力となっている。「スペシャルかつ、選ばれた人しか参加できない何かに参加しているような気分にさせてくれる。自分がそこにいることを周囲に見せたくなる」と、クレッチマー氏はコメンターの気持ちを説明する。
あくまで自然発生的なもの
アナリティクスといった技術を使って、コメント欄の動きを誘導しようとするパブリッシャーもいる一方で、「ザ・インフォメーション」はそういうことはしない。レッシン氏によると、サイトの記事に対するコメントの量や雰囲気は、完全に自然発生的なものだそうだ。読者たちが共有している目的や興味によって、自然に作りあげられているという。
「我々が作ったコンテンツから価値を得ている人々(サブスクライバー)が存在するとき、我々は自動的に自身のコミュニティをキュレーション(整理、要約)している」と、レッシン氏は説明する。
入り口での課金もその成功に貢献している。「ザ・インフォメーション」の年間購読料は399ドル(約4万円)だ。レッシン氏は厳密な購読者数を明らかにはしなかったが、数千人が存在しており、過去1年間でその数は2倍になったということだ。
読者を相互につなげる方法
これにより、サイトのキャッシュフローをポジティブに保つことができたわけだが、それによって読者を相互につなげる方法を増やすことも可能になった。「ザ・インフォメーション」はニューヨークとロサンゼルスで、定期的に購読者向けのサミットを開催。そこではメンバーたちがテーブルディスカッションを聴くために参加する。
去年の夏にはプライベートなSlack(スラック)のチャンネルもローンチ。購読者はその日のニュースについて、Slack上でも会話をできる。仲間同士で話すこともできるし、レポーターと話すことも可能だ(何人がそこに参加しているかは明らかにしなかった)。
「できるかぎり、購読者を招集できる場所が欲しいと思っている」と、レッシン氏は述べる。
小規模だから実現可能な関係
「ザ・インフォメーション」がこういったことを実現できるのは、小規模であるからというのは否めない。ほかの大手テック系ビジネスパブリッシャーたちの読者数と比べたら、彼らが抱えている読者数は極めて小さい。また、ペイウォールシステムになっていることで、小さい規模が保たれているというのもある。
しかし、読者たちが安全にレポート記事について議論できるスペースを作り上げたことで、「ザ・インフォメーション」は長期的な成功の礎を着実に築いているようだ。この状況は同サイトのジャーナリストたちのレベルを高い水準に満たすことにもつながっている。
「購読者たちについての記事(スポンサード)を書くことになったら、我々はただ品質が『良い』程度ではなく、優れた品質を作らなければいけない」と、レッシン氏は語った。
Max Willens(原文 / 訳:塚本 紺)