2010年代半ば、デスクトップ用アドブロッカーがコンピューターに強い人やゲーマーだけでなく、一般にも普及するようになると、その使用率は一気に跳ね上がった。だがここにきて、その急増もピークを過ぎたことを示す兆候が現れはじめている。
2010年代半ば、デスクトップ用アドブロッカーがコンピューターに強い人やゲーマーだけでなく、一般にも普及するようになると、その使用率は一気に跳ね上がった。だがここにきて、その急増もピークを過ぎたことを示す兆候が現れはじめている。
マーテック企業のオーディエンスプロジェクト(AudienceProject)が先日発表した調査結果によると、2020年現在、アドブロッカーを使用していると答えた回答者は、4年前よりも減っている。このオンライン調査には、アメリカとイギリス、ドイツ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドから1万4000人以上が参加した。
たとえばアメリカの場合、この調査の最終ラウンド(2020年4~6月実施)でアドブロッカーを使用していると答えた回答者の割合は41%だったのに対して、2016年は52%だった(ただし、2018年の39%に比べると、若干の増加を示している)。イギリスの場合、アドブロッカーを使用していると答えた回答者の数は着実に減少している。実際、2016年は47%、18年は41%だった。
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オーディエンスプロジェクトはまた、このオンライン調査に広告を載せ、自社の測定技術を使って、回答者が実際にアドブロッカーを利用しているかどうかを確認している。大半の国々で、2016年および18年と2020年を比較すると、コンピューター上でブロックされたセッションの数は減少した。ただし、ドイツとスウェーデン、フィンランドでは若干の増加が記録されたという。
大半の国々で、コンピューター上でブロックされたセッションの数は減少
(どれだけのセッションで、コンピューター上での広告ブロックの使用が検出されたのか?)
出典:オーディエンスプロジェクト「Insights 2020」
コンシューマーインサイト企業のグローバルウェブインデックス(GlobalWebIndex)が10万人を対象に行う四半期調査の最新データによると、アドブロッカーを利用しているユーザーは減少しており、2020年第2四半期の割合は42%だった。前年同期は49%、2018年は46%、2017年は48%だった。
アドブロッカー利用者の減少理由
デスクトップでアドブロッカーを利用するユーザーが減っている理由については、諸説が複雑に絡み合っている。たとえば、モバイルデバイスでのブラウジングへの移行。それから、パブリッシャーもテック企業も、ポップアップや音声入り自動再生動画といった、うっとうしい広告の表示を律するようになっていることも理由のひとつだ。
アドブロックプラス(Adblock Plus)オーナーのアイオー(Eyeo)でアドボカシー部門のディレクターを務めるベン・ウィリアムズ氏にメールで取材したところ、主として2016年夏の「穏やかな時期」から、デスクトップコンピューター上の広告ブロックが減ってきたという答えが返ってきた。デスクトップコンピューターでサイトを閲覧するユーザーが少なくなっているからだという。
デスクトップの広告ブロックが減少しているのに対して、モバイルのそれは世界的に増加傾向にある。広告ブロックによって失われた売上をパブリッシャーが取り戻すのをアシストする企業、ブロックスルー(Blockthrough)が2月に発表したレポートによると、モバイルの広告ブロックは2016~19年にかけて64%増え、その利用者数は5億2700万人になった。この増加をもたらしたのは、主にインドをはじめとするアジアの国々のユーザーで、UC Browser(UCブラウザ)の普及がそれを後押しした。同ブラウザの2019年末時点の月間アクティブユーザー数は、4億人超と推定される。
モバイル用アドブロッカーの利用者数の増加は、欧米の各市場ではいまのところまだ、それほど顕著ではない。オーディエンスプロジェクトの調査から、2020年現在、モバイルデバイスで広告をブロックしていることがわかったアメリカの回答者の割合は、2018年の5%に比べると増加したものの、わずか7%だけだったことがわかっている。
広告業界におけるさまざまな変化
ウィリアムズ氏がいう、2010年代半ばの広告ブロックの「穏やかな時期」以降、広告業界にはさまざまな変化が起こってきた。EUの一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)やカリフォルニア州消費者プライバシー法(California Consumer Privacy Act:CCPA)といった法律によって、パブリッシャー各社は自社が広告目的で収集するデータと、ユーザーが見返りとして受け取る価値に、より率直にならざるを得なくなっている(なかには、アドブロッカーの利用者はコンテンツを閲覧できないようにするパブリッシャーもいた)。また、広告ブロックの人気が高まるにしたがって、どのような広告がユーザーをいら立たせるのかについて、デジタル広告業界は内省を迫られるようになった。
2016年、Googleやグループ・エム(GroupM)、P&G(プロクター&ギャンブル)、インタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau:IAB)、世界広告主連盟(World Federation of Advertisers:WFA)などの企業・業界団体が集まり、コーリション・フォー・ベター・アド(Coalition for Better Ads:以下、CBA)が結成された。法律事務所のベナブル(Venable)が監督する同異業種団体は、業界が避ける努力をすべき十数種類のわずらわしい広告フォーマットを特定。Google Chromeは2018年、CBAの基準を満たさない広告を自動的に遮断するフィルターを導入している。
CBAのディレクターであるニール・サーマン氏によれば、同グループの結成についての話し合いが2016年後半にはじまってから、2020年の第1四半期までのあいだに、北米とヨーロッパにおけるデスクトップ版Chromeのアドブロッカーインストール率は60%低下したという。
指標:北米/ヨーロッパにおけるアドブロッカーのインストール率
出典:コーリション・フォー・ベター・アド
自分ひとりの功績ではないと謙遜しながら、サーマン氏は次のように述べた。「我々の基準が最悪中の最悪な体験の一掃に何らかの影響を及ぼし、消費者にアドブロッカーの利用をやめさせる方向へと導いてきたことは確かだ」。
指標:北米/ヨーロッパにおけるアドブロッカーの使用率:デスクトップ
ベター・アド・スタンダード(Better Ads Standards)発表(Q2/2017)
Google Chromeアドフィルタリング(Adfiltering)発表/ベター・アド・エクスペリエンス・プログラム(Better Ads Experience Program)発表(Q1/2018)
Google Chromeアドフィルタリング提供開始(Q2/2018)
出典:コーリション・フォー・ベター・アド
「(デジタル広告)業界の必然的成熟だ」と、サーマン氏は語る。「我々は自分たちの実力を示してきた。すべての数字が物語っているように、いまや我々はテレビと出版を合わせたよりも大きな存在になっている。いまこそ、我々はどんな卵を割ってそこに到達したのかを解き明かすべきだ」。
各種ブラウザに起こっている進化
初期の広告ブロックは主にブラウザの拡張機能によって提供されていた。ところがいまは、アンチトラッキングや広告ブロックはブラウザの標準機能になりつつある。たとえば、AppleのSafariにはインテリジェント・トラッキング・プリベンション(Intelligent Tracking Prevention)、Firefoxにはエンハンスト・トラッキング・プロテクション(Enhanced Tracking Protection)、Microsoft Edgeにはエンハンスト・トラッカー・プリベンション(Enhanced Tracker Prevention)といったアンチトラッキング機能が装備されている。一方、UC BrowserやBrave(ブレイブ)、Opera Mini(オペラ・ミニ)、Adblock Browser(アドブロックブラウザ)などのモバイルブラウザは、デフォルトで広告をブロックするようになっている。
「広告ブロックのタイプに多様化が見られるようになってきた」と、ブロックスルーCEOのマーティ・クラツキー=カッツ氏は語る。たとえば、アドブロッカーの使用を観察するために同社が以前用いていたリサーチ方法(オープンソースブロックリスト「EasyList」からのダウンロード数で推測)では、Firefoxのブロッカー(「Disconnect.me」ブロックリストを使用)は、ユーザーが「厳格(strict)」設定を選んでいる場合、キャプチャーされない。全般的に「ダークマターが増えている」と、クラツキー=カッツ氏は語る。なかには、発見されないように設計されているアドブロッカーもあるという。
その一方で、オーディエンスプロジェクトの調査は、広告に対するユーザーの考え方が変わりつつある可能性を示唆している。たしかに、回答者の約半分がウェブサイト広告に対して否定的な見方を示してはいる。だが、アメリカではそのような回答者は2018年の42%から2020年の47%へと増加しているものの、イギリスなどの国々では57%から54%へと減少している。
「この同時期にアドブロッカーはアドフィルターへと進化した。今日のアドブロッカーの大半は、ユーザーエクスペリエンスを尊重している広告を通している」と、ウィリアムズ氏は語る。「これはつまり、セッションも広告も増えているが、ユーザーを──そしてアドブロッカーさえも──悩ませる広告は減っているということだ。それはよいことではないだろうか」。
[原文:‘The inevitable maturation of the industry’: Desktop ad blocking is past its peak]
LARA O’REILLY(翻訳:ガリレオ、編集:長田真)