2020年は、多くの地方新聞社にとって苦汁を飲んだ年となった。コロナ禍の影響で紙の新聞広告のニーズが減少し、収益に大きな打撃をもたらしたのだ。しかし、デジタル広告への需要は増加。実際、中国新聞と埼玉新聞社のデジタル広告事業は大きく成長している。
2020年は、多くの地方新聞社にとって苦汁を飲んだ年となった。コロナ禍の影響で紙の新聞広告のニーズが減少し、収益に大きな打撃をもたらしたのだ。
だが、デジタル広告への需要は増加した。実際、中国新聞のデジタル広告事業は今期大きく成長し、社内で「売上増加率が非常に目立つ状態」だという。埼玉新聞社も、デジタル広告全体の売上が、前年度比約2倍に跳ね上がった。
「紙の新聞広告に加えて、中国新聞デジタルにも出稿する広告主が増えた。なかには、『今後、新聞広告はデジタルを中心に出稿するつもりだ』と話す広告主もいる」。中国新聞社 営業本部 メディア開発室の園部貴之氏は、同社におけるデジタル広告事業の成長背景をこう述べる。また、埼玉新聞で経営改革本部経営企画室兼 デジタル推進室部長兼 クロスメディア局デジタル事業部長を務める加藤理智氏には、「コロナ禍における情報需要の高まりから、ページビュー数が大幅に増加したことが、デジタル広告事業の成長に大きく寄与した」と話す。
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前年比2倍の成長も
今期、中国新聞社全体の売上は、昨年に比べ減少する見込みだ。しかし、はじめて緊急事態宣言が発令された2020年4月、中国新聞デジタルのページビュー数は前年同月の7倍以上に跳ね上がり、それに伴いデジタル広告による収益は伸長。5月以降もページビュー数は上下しつつも、高い水準を維持し続けているという。
園部氏は「コロナ不況により、広告単価はおよそ3割低下した。しかしそれ以上に、ページビュー数やインプレッション数が増加したことにより、デジタル広告の収益が伸びた」と述べる。また、同社では現在、プログラマティック広告と純広告を扱っているが、そのいずれも好調だという。
埼玉新聞社でも同様の傾向が見られた。加藤氏によると、2020年度上半期、デジタル版埼玉新聞のページビュー数は、コロナ禍における情報需要の高まりから大幅に増加。デジタル広告収益は前年比の2倍にまで成長しているという。
AnyMind Group(エニーマインドグループ)にて、テクノロジーとインテリジェンスで持続可能なメディアビジネスを支援し続けるメディアグロースカンパニー、FourM(フォーエム)で、両社を担当する八子優介氏は以下のように述べる。「我々が支援しているほかの地方紙クライアントも、3〜4月をピークにページビュー数が大きく伸び、その後もベースラインは下がっていない。それに伴い、多くの地方紙のデジタル広告事業が成長傾向にある」。
社内外で高まる期待
一方では、広告主の期待値も高まっている。中国新聞社では「紙の新聞への出稿だけでなく、デジタル広告にも興味を示す広告主が増えた」と園部氏。「現状の広告枠数で足りるのか? と心配になるくらい、問合せを受けている」。
加えて、社内における期待値も上がっている。「2020年は、収益目標を当初の2倍にする上方修正を行った」と園部氏。その背景には、高い成長率を記録したことに加え、同社のデジタル広告事業は、2019年にスタートしたばかりだという事実がある。園部氏は「当初の予想を大幅に上回る結果を残すことができたことが、高評価に繋がった」と述べる。
また、八子氏によると「ほかの地方紙でも同様にデジタル広告事業への期待度が高まり、人員の配置転換が行われるケースも増えてきている」という。「当社としても、デジタルならではの良さを探し続け支援していくことで、各媒体社の良きパートナーとしてこの流れを加速させていきたい」。
なお中国新聞社は2019年、3カ年計画として、紙の購読とデジタル版のサブスクリプションを両立させる「コンテンツ課金(有料会員の増加)」「デジタル広告」、そして同社の媒体を活用したグループ企業への「送客ビジネス」という、3つの事業を強化する方針を提示している。デジタル広告事業は、それに伴い2019年に実施された、中国新聞デジタルのリニューアルと同時に取り組みがスタートした。
これからの動向
こうした需要の高まりから、地方新聞各社が今後デジタル広告事業をこぞって強化していくことも考えられる。中国新聞社と埼玉新聞社はどうか。
中国新聞社は、同社がいまもっとも注力している、コンテンツ課金を最優先にしつつ、バランスを取りながらデジタル広告事業を強化していくという。「広告は市況感に左右され易いため、安定して継続的な収益をもたらすコンテンツ課金を優先していきたい」。
一方、デジタル版のサブスクリプションを展開していない、埼玉新聞社の加藤氏は「サイトの課金化は、ストック型ビジネスとして大変魅力を感じる。しかし、ニュース市場の競争が激しく、十分な有料会員を集めることは難しい」と述べる。「今のところ、サブスクリプション事業を展開する予定はない。デジタル広告事業をさらに強化し、収益を拡大できるよう努めていく」。
Written by 村上莞
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