英紙ガーディアン(The Guardian)が運営するYouTubeメインチャンネルの登録者が100万人に到達した。同紙によれば、調査ジャーナリズム、ドキュメンタリー、解説動画をはじめとする、これまでに配信した長尺動画の総再生時間は10億分に達しているという。
英紙ガーディアン(The Guardian)が運営するYouTubeメインチャンネルの登録者が100万人に到達した。同紙によれば、調査ジャーナリズム、ドキュメンタリー、解説動画をはじめとする、これまでに配信した長尺動画の総再生時間は10億分に達しているという。
新聞社にとって、人々が見たがる新しい動画の制作は容易なことではない。しかし、新規の若いオーディエンスにリーチするためには(ガーディアンのYouTube動画視聴者の半分以上は34歳未満)、これを無視するわけにはいかない。
「編集の観点から見た(YouTubeの)印象は、ほかとは異なる場所だった。彼らが提示する条件でオーディエンスと出会うための場所だった」と語るのは、同紙のビジュアルジャーナリズム部門でエグゼクティブエディターを務めるクリスチャン・ベネット氏だ。「そこは、人々が動画を見にやってくる場所だ。したがって問題は、そこでのガーディアンのルック&フィールはどうあるべきなのか、ということだ」。
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責任あるリーチとジャーナリズム
ガーディアンの代表的な動画の一例として、ベネット氏は「『黒人であるためには黒人に見える必要はない』:オハイオ州の小さな町が抱える複雑な人種的アイデンティティ(‘You don’t have to look black to be black’: The complex racial identity of a tiny Ohio town)」をあげた。この7分の動画は1カ月前に投稿され、これまでに100万回以上の視聴回数を獲得している(2019年9月16日現在)。コメント欄を見れば、意見が分かれる難しいトピックの扱いに対して、ガーディアンがいかに注意を払ったのかがわかると、ベネット氏はいう。
「ポイントは大きな数字を追いかけることではない。責任あるリーチとジャーナリズムだ。我々はそれを誇りに思っている」と同氏は語る。「人々が大きな関心を寄せるのは、優れた調査ジャーナリズムだ。それを新たなオーディエンスに届けることが大切なのだ」。
YouTubeが安定した広告収入を生み出せることを示す証拠の数が、Facebookのそれを上回りはじめた。これを受けて、パブリッシャー各社はここ数年、自社のYouTubeコンテンツ戦略の強化に取り組んできた。YouTubeは2016年、ニュースパブリッシャーの怒りを鎮めるための一助として、プログラム「プレイヤー・フォー・パブリッシャーズ(Player for Publishers)」を導入した。このプログラムに参加したパブリッシャーは、YouTubeのプレイヤーを自社サイトで使用し、広告売上を自社で管理できる。その売り上げもすべて自分たちのものとなる。プレイヤー・フォー・パブリッシャーズに参加して以来、ガーディアンは過去2年間、YouTubeをビジネスの中心に据えてきた。
平均の約3倍のエンゲージ
以降、同紙はさまざまな動画を制作してきた。「ウェストミンスターではないどこか(Anywhere but Westminster)」は、イギリスの政治がロンドンの政治家以外の人々にどのような影響を及ぼしているのかに焦点を当てたシリーズもので、これまでに約140万回の視聴回数を獲得している。性的人身売買ドキュメンタリー「ザ・トラップ(The Trap)」は約600万回、解説動画「ブレグジットは本当に実現するのか?(Is Brexit definitely going to happen?)」は約48万2000回の視聴回数をそれぞれ獲得している。こうした動画のほとんどはほかのプラットフォームでも公開されているが、これだけの視聴回数を稼げるのは、長尺動画向けのサービスを提供するYouTubeだ。たとえば、「ザ・トラップ」のFacebookにおける視聴回数は6万6000回だった。男性に影響を与える諸問題について取り上げる全6回のシリーズ「現代の男らしさ(Modern Masculinity)」は、ガーディアンがYouTube向けに制作した最初のシリーズもので、こうしたシリーズものは今後も続々と登場する予定だと、ベネット氏は話す。
チューブラーラボ(Tubular Labs)のデータによれば、ガーディアンは過去1年間、動画本数を大幅に増やすことなく、YouTubeの視聴回数や登録者の増加、エンゲージメントで進歩を遂げている。むしろ同紙は、1分尺の動画の制作本数を減らしている。1分尺の動画は、2017年9月~2018年9月の期間において、アップロードされる本数がもっとも多い動画だった。反対に、20分を超す動画の制作本数は倍増しており、その総数は315本に達している。
チューブラーラボのデータによれば、ガーディアンのYouTubeメインチャンネルのエンゲージメントレート(コメントや高評価)は7月、YouTubeの平均の約3倍にまで成長している。この好成績により、ガーディアンは同月、YouTubeのトップニュースチャンネルの仲間入りを果たした。
YouTubeを利用するメリット
シンデン・メディア・コンサルティング(Sinden Media Consulting)の創業者ベン・シンデン氏は「質の高い長尺コンテンツのための場所は、依然としてYouTubeだ。そこでは長い視聴時間とブランドイマージョン(ブランドへの没入という意味)が達成されつつある」と話す。
YouTubeのもうひとつのメリットは、動画の「賞味期限」が長いことだと、ベネット氏は話す。ニュースパブリッシャーの場合、こうした賞味期限の長さは常に享受できるものではないという。YouTubeでは一般的に、視聴の50%は最初の24時間には獲得されない。それに対してニュースサイトの場合、視聴の80%は最初の24時間に獲得される傾向がある。
ガーディアンには、YouTubeと自社サイト向けの動画の制作を専門とする、8人からなる動画チームがいる。うち2人は、YouTube向けコンテンツの管理・制作に重点的に取り組む要員として、Googleが運営するデジタル・ニュース・イニシアティブ(Digital News Initiative)からの資金を使って採用された。同紙のマルチメディアチームには、AVプロジェクトに取り組む40人以上のスタッフがいる。YouTubeは2018年7月、ニュース産業をアシストし、信頼性の高いニュースを同プラットフォームに呼び込むために、2500万ドル(約27億円)を投じると発表。サポート要員を採用したり、パブリッシャーのチームづくりを手伝ったりするだけではない。この資金により、YouTubeのニュース機能も順次改善されるという。その一例が、ホームページへのニュース速報棚の追加だ。
トレードオフと競争力の確保
ガーディアンによれば、具体的な数字こそ明らかにされなかったが、YouTubeは同紙の売上の促進にも貢献してきたという。かつてのガーディアンは、自由にマネタイズできる自社サイトにユーザーを呼び込み、動画を見てもらうことに重点を置いていた。だが、自社サイトでYouTubeプレイヤーを使用するということは、ガーディアンがYouTube動画の広告売上を管理できるということを意味している。ユーザーがその動画をYouTubeで見ようと、自社サイトで見ようと。そして、その売上をYouTubeと分け合うのではなく、自分のものにできるということを意味している。
その裏には問題も潜んでいる。パブリッシャーが単独では十分な売上を得られず、それがレートの低下を引き起こしかねない場合、プレイヤーは動画広告の埋め戻しでGoogleを頼る。それを考えると、広告売上を自分のものにしつつ、プレイヤーを保持しなくてもいいというコストは、ある程度のコントロールをプラットフォームに譲ることとのあいだでバランスを取る必要がある。また、コンテンツカタログをオフプラットフォームで構築するということは、ユーザーがパブリッシャーのサイトを直接訪れる理由を減らすことにもつながりかねない。
「数年前のローンチ当初は、パブリッシャー各社は(プレイヤー・フォー・パブリッシャーズに対して)やや慎重だった。長所と短所があるからだ」と、ロイター・インスティチュート・デジタル・ニュース・レポート(Reuters Institute Digital News Report)でエディターを務めるニック・ニューマン氏は語る。「ちょっとしたギャンブルだった。そこには正真正銘のジレンマもあった。多くがYouTubeのビジネスを助けたくはなかったのだ」。
そのトレードオフは検討を要するが、ニュースパブリッシャーが競争力を保つためには、ユニークな人気動画が必要だと、ニューマン氏は付け加えた。
Lucinda Southern (原文 / 訳:ガリレオ)