ロイター(Reuters)は2021年に向けて、ハイブリッド型のイベント展開を計画している。これまでの8カ月間に培ったバーチャルイベントの知見を活かして開催・運営するとともに、同社はこのイベントを各地域とのネットワークをさらに深める手段にしたいと考えている。
ロイター(Reuters)は2019年10月、FCビジネスインテリジェンス(FC Business Intelligence)を買収し、イベント事業に参入した。買収当初、同社は2020年中に70の業界カンファレンスを予定し、準備に着手していたが、コロナ禍によりイベントの大半が中止に追い込まれる事態となった。
同事業はロイターイベント(Reuters Events)と改名され、新たな収益源だけでなく、将来動向をはじめ、ユーザーへ各種業界に対する優れた分析と情報を提供し、年間を通した持続的な連携を期待されていた。だが、同時期にイベント事業を予定していたほかのメディア企業と同様、計画の練り直しに取り組まざるを得なくなった。
そこで同社は3月に1万5000人が参加したバーチャルカンファレンスの「アイフォーファーマ・バルセロナ(Eyeforpharma Barcelona)」を皮切りに、急ピッチでバーチャルへの移行を進めている。しかし、バーチャル化への転換が進んでるにもかかわらず、実はロイターが開催・運営するイベント参加者のエンゲージメントは高水準を維持している。同社の最高マーケティング責任者で、ロイタープロフェッショナル(Reuters Professional)のマネージングディレクターも務めるジョシュ・ロンドン氏は、「これまで62のバーチャルイベントを開催し、世界の93%の国から参加者が集まった。今年の1月から10月までに開催されたイベント参加者数は、昨年比で1400%増にもなっている」と語る。
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また、同社は参加者の満足度について、次のイベントで必ず向上させるべく、イベント終了後に「緻密な調査」を行い、改善点だけでなく、参加者にとって特に有益に感じたコンテンツや話題についても何千時間もかけて分析しているという。その結果、イベント後のアンケートに回答した参加者の9割が、「良かった」または「非常に良かった」と評価しているという。
「イベントは各種のコミュニティにおいて、その会社が大きなプレゼンスを発揮する最適な手段だ。ビジネス情報を伝えるという側面で言えば、バーチャルか否かという「フォーマット」はある意味でそこまで重要ではない」と、ロンドン氏は語る。「イベント自体だけでなく、イベントとイベントのあいだにおいてもコミュニティとの結びつきを喚起できる。だからこそ有料のイベントに人が集まるのだと言える」。
参加者同士の人脈づくりが重要
現在、同社は来年1月に予定されている「ロイターネクスト(Reuters Next)」という4日間のカンファレンスをはじめ、大規模イベント3つの準備を進めている。特に「ロイターネクスト」は、各分野のリーダー企業になることに主眼を置き、さまざまな業界から既に2万5000人の参加者が登録済みで、これまででも最大規模のイベントとなる予定だ。無料参加および699ドル(約7万3000円)の有料オプションという2種類の参加方法が用意されており、後者の場合は懇親会をはじめ、参加者同士の人脈づくりの機会が多数設けられている。
また、同じバーチャルイベントでも「米国洋上風力発電(U.S. Offshore Wind)カンファレンス」や「米国細胞および遺伝子治療(Cell & Gene Therapy USA)カンファレンス」といった特定分野に向けて深く掘り下げたイベントも開催している。
「洋上風力発電カンファレンスの参加者は、明確に関心を持っている。それだけに、求められるエンゲージメントおよび価値値も高い」と、ロンドン氏は語る。
バーチャルイベントプラットフォームのスプラッシュ(Splash)でCEOを務めるベン・ハインドマン氏は、これらのようなニッチなバーチャルイベントを行うことのメリットとして、関心のある人だけが参加することにより効率良くコミュニティを醸成できること、パブリッシャーやイベントスポンサーにとって1対1で参加者と向き合い、つながりを作れるまたとない機会となることを挙げている。
同氏はまた、「お互いに信頼できるコミュニティであれば、参加者はよりオープンに打ち解けた話し合いができる」と語る。
来年はハイブリッド型のイベント展開
ロイターは2021年に向けて、ハイブリッド型のイベント展開を計画している。これまでの8カ月間に培ったバーチャルイベントの知見を活かして開催・運営するとともに、同社はこのイベントを各地域とのネットワークをさらに深める手段にしたいと考えている。
現在、ハイブリッド型を実現しようと取り組んでいるパブリッシャーは多い。収益およびエンゲージメントというふたつの側面で魅力的だからだ。特にスポンサーにとっては、営業担当者にとって非常に重要な1対1のネットワーキング獲得の機会になるだけでなく、オンラインイベントのKPIや参加者の詳細データを把握できるという大きなメリットがある。
また、ロンドン氏はハイブリッド型イベントについて、「参加者にとってのネットワーク作りと適確なコミュニティの醸成。このふたつが組み合わさっている点がとりわけ重要だ」と指摘する。
各業界の最前線に従事するプロフェッショナルにとって、毎年恒例のカンファレンスという単発イベントは必要なく、連続性のあるイベントの開催が期待されている。そのニーズを満たすべく、オンラインのいつでもアクセスして有益な情報やプログラムを入手できる長所と、直接対面できるというオフラインの長所とを組み合わせたハイブリッド型カンファレンスにこそ価値があるというのが同氏の見解だ。
「情報を得るために毎年8つの都市をめぐるという人は少ないだろう。近くで開催されるリアルイベントに出席しつつ、バーチャルでほかのカンファレンスの情報を取得するというアプローチのメリットは大きい」。
「ハブアンドスポーク」モデルの導入
実際、ハイブリッド型の導入によって、ロイターは特定の国や地域をターゲットにしつつも、世界規模でイベントを開催できるようになっている。
同社は、「ハブアンドスポーク」モデルを導入し、グローバルなネットワーキングイベントとなるカンファレンスを、今後世界中で開催していく予定だ。
ハインドマン氏は「ハブアンドスポークモデルは、これから多く見られるようになるはずだ」と語る。同モデルのイベントは、地域を超えた世界の500以上の会場に分かれて、合計5000人規模の参加者で開催するものも登場するのではないかと予測する。
これにより、参加者は自身のスケジュールに合わせて、講演をはじめ世界中のコンテンツを視聴できるだけでなく、各会場にて同業者と直接会うことも可能になる。
ロンドン氏は次のように語る。「コロナ禍であらためて確認できたことのひとつが、『我々は社会的な動物である(ソーシャル・アニマル=人間は、他人と関わることで社会を形成する動物であるという考え方)』ということだ。そして、これからのイベント事業においても、この事実は揺るがないだろう」。
[原文:‘The format is secondary’ How Reuters Events will drive global and local engagement on- and off-line]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:長田真)