ここ数年のデジタルメディアの大きな特徴として、巨大オーディエンスの生成に取り組む新興メディア企業の存在がある。主にベンチャー投資によって進められていた巨大オーディエンス構築ビジネスにはしかし、ひずみが見えはじめている。
エコノミスト・グループ(Economist Group)のプレジデント、ポール・ロッシは、この動きに対して傍観者の態度を守ってきた。エコノミストでは、読者層は大きければ大きいほどいいという考えには乗ったことがない。しかし、お金を払ってくれる読者となれば話は別である。
「長期的な視点でものごとを考えれば、別のビジネスモデルが見えてくる」と、ロッシ氏は米DIGIDAYに語った。「エコノミストでは、広告と同程度の収益を定額制から得ているため、巨大オーディエンスを指向する流れに巻き込まれずに済んでいる」。
ここ数年のデジタルメディアの大きな特徴として、巨大オーディエンスの生成に取り組む新興メディア企業の存在がある。主にベンチャー投資によって進められていた巨大オーディエンス構築ビジネスにはしかし、ひずみが見えはじめている。
エコノミスト・グループ(Economist Group)のプレジデント、ポール・ロッシ氏は、この動きに対して傍観者の態度を守ってきた。エコノミストでは、読者層は大きければ大きいほどいいという考えには乗ったことがない。しかし、お金を払ってくれる読者となれば話は別である。
「長期的な視点でものごとを考えれば、別のビジネスモデルが見えてくる」と、ロッシ氏は米DIGIDAYに語った。「エコノミストでは、広告と同程度の収益を定額制から得ているため、巨大オーディエンスを指向する流れに巻き込まれずに済んでいる」。
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定額制モデルは過去のものではない
パブリッシャーたちはいま、広告への依存を軽減しようと必死になっている。デジタル出版の「ヒッピー」による「コンテンツは無料であるべき」というムーブメントに多くのパブリッシャー(媒体社)が追従したのち、主要な(または補助的な)収益源としての定額制(サブスクリプション)が見直されるようになった。コンテンツ無料化の動きの根拠となったのは、Webによりパブリッシャーはアナログメディアの何倍もの読者にリーチできるので、読者の数で定額制収益の損失を補えるという考えだ。しかし、そう都合よく物事は運ばなかった。
「多くのメディアがすべて無償で提供する道を選択してきたが、いまになって、これが非常に難しいモデルだとわかってきた」と、ロッシ氏は述べている。「ガーディアン(Guardian)では、有償コンテンツという言葉をどうしても言い出せないでいる。我々の信条は常に、自分たちが価値を生み出している部分から収益を引き出さねばならない、というものだ。人々は、1時間のエンターテイメントにお金を出すことを厭わない。それはどのプラットフォームでも同じはずだ」。
役に立たなかったベンチャー介入
そう遠くない過去には、ベンチャー投資家は「コンテンツ」という言葉を聞いただけでさっさと立ち去ったものだ。それがコンテンツビジネスに巨額を投じるようになり(多くの場合はプラットフォーム関連のビジネス)、新興企業に高い評価額がつけられ、また、それに見合うだけのリターンが期待される。通常、ベンチャー投資は10倍の投資回収率を望んでいる。5000万ドルの投資を受けたパブリッシャーは、5億ドルの(利益が見込める)ビジネスを育てなければならないわけだ。
媒体社は大盤振る舞いをやめるべき
与えるよりも取り上げる方が難しいのは、自然の理だ。コストベースが高いオリジナルなコンテンツを作っている野心的なニュース媒体社は、読者が無料で享受することに慣れてしまったコンテンツを、いまさら有償にしてもいいものか、というジレンマに陥っている。ロッシ氏は、パブリッシャーは勇気を出して自分たちが作るものの価値を守るべきだという。
「思い切って、コンテンツに金を払って欲しい、と主張すべき」とロッシ氏。「同時に、広告収益が減ることも覚悟しなければならない。有償化すれば、デジタルのページビューが減るのは必至だからだ。実行するには度胸がいる。しかし、やらねばならない」。
消費者の反乱「アドブロック」
ふたつの収益源があり、アドブロックのメインユーザーではないオーディエンスを有していても、ロッシ氏はアドブロック普及に拍車をかけている根本的な問題を心配しているという。パブリッシャーは、自分たちのビジネスモデルを大事にするあまり、読者をおろそかにしてしまったと同氏は指摘する。つまり、メディアが欲を出してしまい、ページを「大量にデータを使う邪魔くさい広告まみれ」にしてしまったのだ。うんざりしたユーザーたちは反乱を起こし、メディアは読者を大切にしなかった報いを受けている。
「一番心配なのは、消費者の行動だ」とロッシ氏。「広告に対する人々の態度が、大きく変わりつつある。これは技術がもたらした変化というより、広告に対する消費者の反乱なのだ。アドブロックはリアルな現象であり、今後も続いていく。最近の子供たちは、歩けるようになる前に(広告の)スキップができるようになっている」。
差別化の時代を迎えるデジタルメディア
デジタルメディアの成功は、主にオーディエンスの数によって決められてきた。多くの媒体社は、可能な限り多くのトラフィック、特にFacebookからのトラフィック生成に注力し、差別化は二の次だった。マイクロソフトの人種差別AI bot事件についての大量の重複記事を見ても想像がつくように、ビジターに金を払わせたり、アドブロックを解除させたりする必要に迫られた場合、大きな問題となるだろう。
「人々が価値を認める強力なコンテンツで差別化を図らない限り、すぐに別のコンテンツへとスキップされる」とロッシ氏。「これは実に大きな課題だ」。
「読者を選ぶメディア」で構わない
あらゆる人々に消費されるあらゆるコンテンツを扱うという考えは魅力的だが、大きな危険をはらんでいる。特に、プラットフォーム時代のいま、1億、2億といった数のオーディエンスにリーチできる可能性は、パブリッシャーにとっておいしい話だ。しかし、エコノミストにとって、裾野を広げるということは、そもそもエコノミストの価値の源であるブランドを犠牲にすることになる、とロッシ氏は語る。これは例えば、米国で対象となるエコノミストのオーディエンスは、最大でも3500万に留まるということだ。
「エコノミストは、米国で1億人に読まれるメディアになることはない。なるとしたら、それはエコノミストらしくないことを書くときだ」とロッシ氏。「エコノミストがマリファナ合法化のフィルムを出すとき、対象となるオーディエンスの数は限られている。NPR(ナショナルパブリックラジオ)でもダウントン・アビー(英国のドラマ)でも、オーディエンスが限られているのと一緒だ。エコノミストの価値を認め、対価を払うことを厭わない読者層には、限りがあると想定している」。
Brian Morrissey(原文 / 訳 片岡直子)