英DIGIDAYは、ロンドンのシャルロット・ストリート・ホテルにあるレストランバー「オスカー(Oscar)」で、フォーブスメディア(Forbes Media)の最高製品責任者(CPO)であるルイス・ドボーキン氏と面会した。同社のオフプラットフォーム戦略、欧州の成長、フェイクニュースなどについて話を聞いた。
フォーブスメディア(Forbes Media)の最高製品責任者(CPO)であるルイス・ドボーキン氏はロンドンに来る前、パリに短期間滞在していた。パリではフォーブスの新しいwebアプリを披露したほか、欧州での普及が遅れ気味な同社のネイティブアド製品「ブランドボイス(BrandVoice)」について話をしたという。
また、パリでの滞在は、地元のタクシードライバーを相手に自分のフランス語能力を確かめるチャンスでもあった。ドボーキン氏は1年前からフランス語を勉強している。勉強をはじめたのは仕事上の理由だけではない。「引退したら、妻と出会ったのはユーロスターのなかだったと語れるような、エレガントな英国人男性になりたい」と、ドボーキン氏は話した。
フォーブスの新しいモバイルサイトは、数カ月以内に公開される予定だ。このサイトは、Googleが力を入れているプログレッシブwebアプリとして作られている。そのため、カード式になっており、読み込み速度が速い。また、Androidのホーム画面にも追加可能だ。ページの読み込みにかかる時間は0.8秒で、実験ではサイトの滞在時間が2倍になったという。
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英DIGIDAYは、ロンドンのシャルロット・ストリート・ホテルにあるレストランバー「オスカー(Oscar)」でドボーキン氏と面会した。フォーブスのオフプラットフォーム戦略、欧州の成長、フェイクニュースなどについて話を聞いた。
――製品をこのようなデザインにしようと決めた理由は何ですか?
私は、ネイティブコンテンツアプリというものを信じていません。米国人が利用しているニュースアプリの数は平均で1.5個です。したがって、彼らがフォーブスのアプリを利用することは決して考えていない。しかし、これ(新しいモバイルサイト)はまるでアプリのように利用できます。動作が速く、ビジュアルに優れている。
Forbes.comは、おそらく5年以内になくなります。やや大げさな見方かもしれませんが、かなりの数の読者がForbes.com以外の場所で、フォーブスを見つけるようになるでしょう。いまのところ、記者の基本的な仕事は記事を書くことです。しかし私は、彼らの仕事を5つにしたいと考えています。テキスト記事を作成するのと同じくらい簡単に、グラフィックやGIFや写真を作成できるようになってほしいのです。したがって、記者はいままでと異なる考え方をする必要があります。ただし、これには時間がかかるでしょう。変化するのは簡単ではありません。
――そこからどのようにマネタイズするのでしょうか?
このカードは、コンテンツマーケティングとネイティブアドに適した形で作られています。ディスプレイ広告には適していません。カードベースのものでディスプレイ広告を見たくはない。記事の画面にアクセスしているときならまだOKですが、スワイプしているときに目にしたくありません。

フォーブスのモバイルウェブアプリは0.8秒で読み込まれる
――記者にいままでと異なる考え方をしてもらうために、どのようなことをすればいいのでしょう?
この数カ月間、当社は3人の若いプロデューサーに、すべてのコンテンツをカードベースのシステムに作り替える仕事をしてもらいました。そのため、いまは彼らがほかのスタッフに手順を教えられます。カードはCMSで作られており、インスタグラムやFacebookに直接送信すれば、それぞれのプラットフォームで問題なく利用できます。すべてをフォーブスのサイトに呼び戻していた時代は終わりました。
――事例を教えていただけませんか?
当社は現在、サブブランドのラグジュアリー旅行サイト「パスポート(Passport)」の構築に取り組んでおり、このブランドの下で、独自のインスタグラム向けポッドキャストやニュースレターなどを作る予定です。「パスポート」の全エコシステムのうち、Forbes.comが占める割合は20%に過ぎず、残りはすべてほかのプラットフォームです。そのため、広告主はさまざまな種類のメディアを利用できるようになります。ユーザーをForbes.comに誘導する必要がなくなります。
――フォーブスはほかと比べて、オフプラットフォーム戦略の採用が遅れているというわけではない?
私の信条は「旬のものを追いかけない」ことです。ほかのパブリッシャーは、10名体制のチームを作ってSnapchat(スナップチャット)やインスタグラムを追いかけています。しかし私は、10名体制のチームではなく、効率的で規模を簡単に調整できるチームを作っています。
10名のチームを作った人たちはいまになって、「いやあ、困ったことになった」と考えていることでしょう。しかも、そうしたチームのメンバーには対価が支払われていません。我々は適切な時期が来るまで待っていたのです。それが遅れているように見えるのであれば、そう言わせておけばいい。
――フォーブスは、Snapchat向けに独自の「30アンダー30(30歳未満、有望な若者たち)」を作成・公開しました。Snapchat「ディスカバー(Discover)」のパートナーになりたいと考えていたのですか?
彼らが我々に打診してきたことは一度もありません。それに私は、利益を上げられないのであれば、参加したいとは思わない。イメージや評判というものは簡単には変わらないものです。フォーブスは、金持ちで髪の薄くなった白人向けのメディアだと思われています。しかし、フォーブスは5000万人のオーディエンスを抱えていて、その半分がミレニアル世代。2500万人の月間モバイルユーザーの80%が、24歳から34歳までの人たちだったのです。
――米国外でもメディアは成長していますよね。トラフィックの30%は米国外からのもので、そのうち15%が欧州からです。
当社は欧州に150名以上のコントリビューターを抱えています。彼らはトラフィックを欲しがりますが、現地のトラフィックを得るには、現地で起こっていることについて記事を書くのが最適な方法です。そこで数カ月前、当社は新しい奨励策を開始しました。欧州のコントリビューターに、もっと欧州向けの記事を書いてもらうことにしました。彼らには、欧州の人たちが関心をもっているトピックについて書いてもらいたい。
フォーブスのブランドコンテンツチャンネル「ブランドボイス」は少しずつ成長しています。「ブランドボイス」に参加しているブランドの数は、6年間で150社です。しかし、欧州のブランドについていえば、その数はまだ少ないのが現状です。
――何が障害となっているのでしょうか?
6年前、パブリッシャーがコンテンツマーケティングを提供するというアイデアを理解してもらえませんでした。誰にもです。また、銀行業界は規制のことを非常に気にかけています。そのうえ、欧州のブランドの多くは、特定の国のみをターゲットにしたがる傾向にあります。たとえば、あるスイスの銀行が、最初の1カ月間はスイスをターゲットに、その次の1カ月間はフランスをターゲットにするといった具合です。
我々はスケールを売りにしていましたが、彼らはローカルな展開を望んでいたのです。しかし現在、我々はその両方に対応できます。先のパリへの出張が終わってから、私はさらに2つのブランドと提携することを検討しています。
――それはどのようものになるのですか?
我々は英国に2名の記者を抱えています。しかし今後は、コントリビューターの数を増やす予定です。個人的には、英国ではコントリビューターをまとめる役割を担う人物が必要ではないかと考えています。私は最高売上責任者(CRO)のマーク・ハワードと緊密に連携しながら仕事をしていますが、2人とも欧州をフォーブスが展開していくべき地域として捉えています。
フォーブスのようなメディア企業の仕事は、優れたニュース体験を提供し、EU離脱後の英国、トランプ後の米国、何らかの動きが起きたあとのフランスについて、人々の理解を手助けすることです。ほかのパブリッシャーのサブスクリプションが増えているのも、読者がこの体験を求めているためです。
――フェイクニュースを避けたいと人々が考えているからでしょうか?
いまは大統領が、フェイクニュースとほかのニュースを混同している時代です。人々は、自分の気に入らないニュースがあれば、それをフェイクニュースだと言います。しかし実際には、アドネットワークをうまく利用してお金を儲けようという目的で作られたニュースをフェイクニュースといいます。自分が同意できない政治的意見のことではありません。
フェイクニュースが混在される状況を引き起こしているのは、歯が白くなるといった製品をサイト上で宣伝している、さまざまなコンテンツ配信プラットフォームです。フェイクニュースではないものが、フェイクニュースと同列に扱われている状況があります。このような状況がweb全体に広がっている。これには当社サイトも含まれます。多くのサイトにフェイクニュースが広がっている理由は、収益がもたらされるからです。奇妙な話ですが、これは事実です。
――なくすことはできないのですか?
ほかの収入源を見つけられれば、可能です。
――しかし、そうしたいと思ってないのでは?
私はいつも、新しい収入源を見つけたいと思っています。しかし、そうした馬鹿げたニュースをクリックしている人の数を知れば、ショックを受けるでしょう。
――それは、低俗な大衆におもねっていることにならないのでしょうか?
実に多くのサイトで、そのような状況が起こっています。そこらじゅうのサイトでです。好きではありませんが、必要悪だと私は考えています。
――フォーブスはトランプ大統領にどのように対応しているのでしょうか?
我々はこの3週間で、3つの方向から取り組みをはじめています。ドナルド・トランプ大統領は、自分が米国を再び偉大な国にできると言っている。そこで当メディアは「偉大さ」を州ごとに示す月間指数を作成することにしています。幸福度など、人々に強い印象を与えるデータを測定する予定です。
また、数週間以内に、トランプ大統領関連のポッドキャストを開始します。当社の記者の1人が、トランプ大統領の時代における消費者の活動に関する記事を書いています。彼らは、2016年には投票用紙を使って投票しましたが、いまは自分のお金を使って投票しています。「この紅茶はトランプ大統領の紅茶ですか? それなら、私は飲みません。これはトランプ大統領の銀製食器ですか? それなら、私は使いません」というふうにです。当社は、こうした消費者の行動を追いかけていくつもりです。
――フォーブスはトランプ氏と長年に渡って関係を築いてきましたね。
30年前から関係があります。
――2017年になって、何らかの反動に見舞われましたか?
いいえ、今年は何もありません。彼はいま、明らかにほかのものを追いかけています。トランプ大統領は、一般教書演説(大統領が連邦議会両院の議員を対象に行う演説)を行った翌日、セレブのゴシップを取り扱うTMZの創設者を自分のオフィスに呼びました。その目的がわかりますか?
――いいえ、理解しがたい話ですね。
私もそう思います。あなたのような人が米国にいるべきです。しかし、これは興味深いことです。常に思いもよらない結果が起こるからです。私と一緒に仕事をしているある人物は、こう言いました。トランプはメディアを殺そうとしているが、実際には助けていると。なんとも皮肉な話です。
LUCINDA SOUTHERN(原文 / 訳:ガリレオ)
Image:Courtesy of Forbes.