メディア業界が100億ドル(約1.1兆円)を超えるデジタル広告売上を得られるかどうかは、サードパーティCookieなしで機能する仕組みを見つけ出せるかどうかにかかっている。だが、業界の小規模パブリッシャーの多くは、デジタル広告売上を追い求めることに消極的だ。そればかりか、敗北主義的なアプローチを採っている。
メディア業界が100億ドル(約1兆1020億円)を超えるデジタル広告売上を得られるかどうかは、サードパーティCookieなしで機能する仕組みを見つけ出せるかどうかにかかっている。だが、業界の小規模パブリッシャーの多くは、デジタル広告売上を追い求めることに消極的だ。そればかりか、敗北主義的なアプローチを採っている。
米DIGIDAYが2021年第1四半期に調査したところ、小規模パブリッシャーの半数が、2021年末にサードパーティCookieの段階的な廃止が完了したあとは、広告以外の収益源への依存を高める計画だと回答した。この調査は、米DIGIDAYが114人のパブリッシャー関係者を対象に、Googleがデジタル広告エコシステムにもたらしている変化への対応について尋ねたものだ。
一方、年間売上が5000万ドル(約55億1000万円)を超える大規模パブリッシャーでは、広告以外の収益源への依存を高めると答えた割合は約30%だった。年間売上が1000万ドル(約11億200万円)~5000万ドルの中規模パブリッシャーでも、その割合はほぼ同じだ。
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小規模パブリッシャーの困難
メディアビジネスはここ数年、大規模パブリッシャーと小規模パブリッシャーで異なる様相を見せていた。そんななかで起こった今回の変化は、パブリッシャーがデジタル広告を持続可能な収益源に変えるべく続けてきた長く実りのない戦いを、ひそかに終わらせるものになるかもしれない。最初のバナー広告が販売されてから20年以上が経過したいま、デジタル広告はあまりにも競争が激しく、しかも複雑になった。そのため、小規模パブリッシャーは身を引き始めている。
回答者:パブリッシャー関係者114名
出典:Digiday Research 2021 Publisher Survey
ほとんどのパブリッシャーは、プログラマティック広告の最前線にとどまるために必要な人材を確保できないのが現状だ。また、彼らの多くが、市場で変化を続けるブランドセーフティやビューアビリティ(可視性)の基準に対応できるだけの開発リソースを持ち合わせていない。
大勢のダイレクト広告バイヤーを惹きつけるのに必要な規模を提供できるパブリッシャーはもはや存在せず、今後現れることもないだろう。
小規模パブリッシャーの多くは、紙媒体の広告に依存しすぎているとの批判をGoogleやさまざまな業界団体から受けてきた。だが彼らは、巨大な敵が大勢のロボット部隊を引き連れてきた銃撃戦の場に、ナイフを持って立ち向かおうとしていたことに気づいている。
「大手のテックプラットフォームや巨大パブリッシャーには、この荒波を切り抜けるだけのリソースがある」と、FTIコンサルティング(FTI Consulting)でシニアマネージングディレクター兼グローバルパブリッシングリーダーを務めるケン・ハーディング氏はいう。「それ以外の企業はみな、荒波に身を任せて得られる範囲のものを得ようとするだろう。(中略)うまく関与したところで得られるCPMが1.15ドル(約128円)なら、投資しようとは思わない」。
コロナ禍によって大打撃
多くの小規模パブリッシャーは、小さな収益基盤だったデジタル広告売上が成長していくのを、何年も期待を込めて見守ってきた。しかし、いまではその期待さえ薄れ始めている。ハーディング氏によれば、小規模パブリッシャーのデジタル広告売上は数年前から減少し始めていた。そこに昨年のコロナ禍が、かつてないほどの打撃を与えているという。
縮小する収益源を好転させるか、サブスクリプションのような分野に投資するしかないという状況に直面したとき、「問題は『コントロールできないものにどれだけ投資したいのか』ということだ」と、ハーディング氏は語った。
デジタル広告は、オーディエンス、パブリッシャー、広告主のあいだで軋轢を生むことが少ないため、理論的には販売しやすいはずだ。だがパブリッシャーは、とくに地域レベルで、自社のインベントリー(在庫)への関心を集めるのに苦労している。小規模な企業はいまも紙媒体の広告を買うだけで満足しているし、全国規模の企業は多忙を理由にたくさんの小規模パブリッシャーと取り引きするのを嫌がるからだ。
そして、これから起こる変化は状況をさらに悪化させるだろう。
LMCの会員企業による挑戦
「サードパーティCookieとターゲティングがなければ、競争できるだけの規模は得られない」と、ローカル・メディア・コンソーシアム(Local Media Consortium:以下、LMC)でCEOを務めるフラン・ウィルズ氏はいう。LMCは5000を超えるローカルニュースパブリッシャーサイトのために料金交渉を行っている業界団体だ。「彼らは必ずしもエンジニアやデジタル分野のエキスパートではなく、継続できるだけの時間もリソースもない」と、同氏は指摘する。
ウィルズ氏によれば、LMCの会員企業のあいだでは、デジタル広告管理業務から解放してくれるマネージドサービスを求める声が高まっているという。
LMCはそのような方向に向けた試験的な取り組みとして、「ネットパスID(NewsPassID)」という製品のパイロット版を2021年第1四半期にリリースした。これは、2021年後半にスタート予定の広告ネットワークにファーストパーティデータの基盤を提供するシングルサインオン製品だ。
ウィルズ氏によれば、複数のワーキンググループにこのパイロット版を一部の業務で利用してもらい、小規模で資金のない会員企業でもネットパスIDを簡単に実装できるようにする方法を探る予定だという。
大規模パブリッシャーも困難に
ただし、デジタル広告の難しさをもっとも強く感じているのが小規模パブリッシャーだからといって、彼らだけが救いを求めているわけではない。
「(デジタル広告が)あまりにも難しくなっているため、我々と提携する大規模パブリッシャーの数が増えている」と、カフェメディア(Cafe Media)の最高戦略責任者、ポール・バニスター氏は述べている。「すべてが困難に、しかもますます難しくなっている」。
[原文:The coming cookie changes will force some small publishers to give up on advertising altogether]
MAX WILLENS(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:長田真)