英 ガーディアン 、次期CEOが直面する「綱渡り」

ガーディアン(The Guardian)の現CEOであるデビッド・ペムゼル氏は来年4月よりも前、どこかの段階で現職を離れ、プレミアリーグ(the Premier League)のチーフ・エグゼクティブになる予定だ。彼の後継者を待ち構えているもっとも大きな課題は何かについて、とある英国メディア業界人はうまくサッカーにたとえている。それはプレミアリーグは、(チャンピオンの地位を)勝ち取るよりも、守るのが難しい、というたとえだ。

ペムゼル氏のもと、ガーディアン・ニュース・アンド・メディア(The Guardian News & Media)は今年、損益分岐点を達成した。これは20年に渡り、大きな借金を何度も繰り返してきてのことだ。ペイウォールを固めることをせず、一度限りの寄付から定期的な寄付へとシフトすることで、読者からの直接収益をさらに増やすという野心的な戦略には懐疑的な声も挙がったが、この戦略変更が正しかったことを証明した形だ。

近年、ガーディアンが見せたイノベーションもさることながら、3年間をかけた損益分岐点を達成するための取り組みは、ペムゼル氏のもとで行われた積極的なコスト削減戦略も駆動となっていた。新聞の大きさはベルリナー判からタブロイド判へと縮小され、ロンドンのキングス・クロス地区にある本社の近くに建設予定だった3万平方フィートのイベント・スペース計画も停止された。これらすべて、コストを20%削減するためだ。

いま、削減できる脂肪ははるかに減っている。

「まず最初の段階は、ビジネスの首根っこを掴んだ状態で、『我々はビジネスであり、それを謝る必要はない』と宣言することだ」と、エンダーズ・アナリシス(Enders Analysis)のパブリッシングとテック部門ディレクターでありCEOのダグラス・マケイブ氏は言う。

次のステージにはふたつの非常に異なるビジネスモデルのあいだでバランスを取るという複雜なジレンマを抱えたものになる、とマケイブ氏は言う。ふたつのビジネスモデルとは、お金を払う読者と、お金を払わない読者のマネタイズ、だ。

また3年前と比べて、パブリッシャーたちを囲む環境が優しくなっているわけでもない。GoogleとFacebookはいまだ、オンラインにおける広告支出を圧倒的に支配しており、ニューススタンド収益は全体的に破滅的な減少を見せている。新しいプライバシー関連の規則やブラウザ側からの変更によってトラッキングが制限されており、サードパーティのCookieを使った広告主へのオーディエンス販売はさらに難しくなっている。

「2016年から施行されてきた戦略を通じて、我々はグローバルなメディア分野における現在進行系の課題に対応することができるような、より読者からの収益が大きく、よりデジタルで、より国際的なビジネスの基盤を作ってきた。我々の戦略は成功を見せているものの、業界全体でニュースパブリッシャーすべてに対して、今後も大きな課題や変動が待っていることは明らかだ。我々は財務上のサステナビリティを維持するための明確な戦略を持っている」とガーディアン・メディア・グループ(Guardian Media Group)の広報担当者は述べた。

英DIGIDAYは、業界関係者、広告バイヤー、そして現従業員や元従業員とのインタビューを通じて、新しく就任するCEOがどのような課題に直面するか、考察した。

共同戦線

広告エグゼクティブ出身でマーケターとなったペムゼル氏は、ガーディアンのコンサルタントとして仕事をしたあとに、2011年に最高マーケティング責任者になった。彼はすぐに2015年にアンドリュー・ミラー氏を退けてCEOの地位に就いた。1年後、当時就任したばかりの編集長キャサリン・ヴァイナー氏とともに、3年間で財務上、採算が取れた状態へと転換するための計画を始動した。

ビジネスについて、エディトリアル部門、そしてコマーシャル部門両方に情報を伝えるときにペムゼル氏とヴァイナー氏が「共同戦線」のごとくプレゼンテーションをしたことを、現従業員も元従業員たちも称賛していた。ペムゼル氏はまた、CFOであるリチャード・カー氏とも同様に、両部門に対して財務報告を毎四半期、内部向けプレゼンテーションを行った。これは旧体制は見られなかったことだという。内部関係者たちは、新しいCEOの下でも同じレベルの財務透明性が継続して欲しいと願う。

後継者選びは進行中であり、ガーディアン・メディア・グループの候補者選別委員会は、「幅広い」候補者を評価している最中だと広報担当者は述べた。

ガーディアン内外での推測では、社内の候補者にはふたり、論理的に考えられる。ひとりはガーディアンに2016年に参加した元Google社員であるアナ・ベイトソン氏だ。彼女は現在成長しようとするメンバーシップ戦略を率いた人物であり、2017年には最高顧客責任者に就任した。もうひとりはエヴェリン・ウェブスター氏だ。彼女は米国に住む英国人であり、ガーディアンのアメリカとオーストラリア部門を運営している。どちらも小さいものの、利益を出しながら成長している。世界規模での収益は2015年から2016年の間に2倍に伸びた。そして最新の財務年度でも、苦しんだはじまりの時期を克服しつつある。ガーディアンに参加する前、ウェブスター氏はタイム社(Time Inc.)のエグゼクティブ・バイスプレジデントであり、IPCメディア(IPC Media)のCEOも務めたことがある。

英国エグゼクティブ人材検索企業マーティン・トリップ・アソシエイツ(Martin Tripp Associates)のファウンダーであるマーティン・トリップ氏は、(ガーディアンの新CEO選定には関わってはいない)外部の候補者に関して、メディア経験がある人物が好ましいものの、経験がなくともそれだけで失格とはならないだろう、と語った。高給に慣れているエグゼクティブたちにとっては、ガーディアンでの給料はたじろぐものかもしれない。ペムゼル氏の2018年から2019年にかけての総給与は70万6000ポンドだった(約990万円)。

「ガーディアンでの仕事を使命感を持って取り組めるタイプの人々をこのモデルは引き寄せるだろう。もしくは、キャロリン・マコール氏(2006年から2010年におけるガーディアンのCEO)にとってそうだったように、はじめて最高エグゼクティブの役職に付く人にとっても魅力的だろう」と、トリップ氏は言う。

収益の多様化

財務上の採算を取ることがガーディアン再生の第1段階であったとすれば、第2段階は財務上の安定性を確保することだ。

ガーディアンの経営モデルはユニークだ。利益はザ・スコット・トラスト・リミテッド(The Scott Trust Limited)基本財産基金に投資され、ガーディアンのジャーナリズムの独立性を維持している。この3年間の取り組み以前には、ガーディアンは資金を使い、借金を繰り返しており、基金に頼るペースは継続維持できるものではなかった。現時点でのガーディアンのターゲットは、調整済み営業キャッシュフロー(ネット)が2500万ポンドから30万ポンド(約35億円から約42億円)という基金が長期間において生み出すと予想される平均運用益を越えないことだ。

収益の多様化は、この戦略において重要になるだろう。ガーディアンは2022年までに有料会員を200万人に達するという目標を設定した。2019年3月までの12カ月のあいだに、ガーディアンは65万5000人の定期有料サポーターと30万人の1回ごとの寄付者を集めた。ガーディアン・メディア・グループが2018年から2019年にかけて得た収益2億2450万ポンド(約316億円)のうち、読者収益は28%を占めた。これは2015年から2016年における18%から増加している。

彼らのウェブサイトのグローバル・トラフィックの数字はこの2年間で上下を見せている。コムスコア(Comscore)のデータによると、2017年12月ではユニークビジター数は7600万人、2018年11月がピークで9300万人という数字を見せている。

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広告を表示しない毎日更新される有料サポーター向けのアプリ、通常のアプリにプレミアムクラスの開設など、ガーディアンは有料サポーターに提供する価値を増やそうとサブスクライバー限定のプロダクトを次々にローンチしてきた。新しいローンチはデジタルに限らない。昨年、国際ニュースを扱う週刊の雑誌をローンチしている。

昨年の合計のうち40%と、広告は依然としてガーディアンの収益の大部分を占めている。ガーディアンのコマーシャル部門は全体像を見れており、「強く」「賢い」とバイヤーたちや業界の専門家たちは称えた。いくつかの分野には改善の余地があると、彼らは述べた。

「正直に言うと、ほかのパブリッシャーと比べるとガーディアンはエディトリアルと広告のあいだが分かれているので、そのフレキシブルさはなく、それが原因でビジネスを得られない瞬間というのはやって来るだろう」と、メディアエージェンシーのグッドスタッフ(Goodstuff)共同ファウンダーであるアンドリュー・スティーブンズ氏は言う。

200万人の会員数に向けて加速するにつれて、ガーディアンは価値あるユーザーデータの集まりを獲得するだろう。しかしバイヤーたちは、ガーディアンは競合他社と比べるとデータ関連のパートナーシップに積極的ではないという。Facebookとケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analytica)のスキャンダル、その前にはエドワード・スノーデンによるNSAの極秘情報の告発をすっぱ抜いたガーディアンであることを考えると理に適ってはいる。

メディアエージェンシーのトータル・メディア(Total Media)、マネージングディレクターであるトーマス・ラランホ氏は、「ほかのメディアアウトレットやパートナーとのよりイノベーティブな、ワクワクさせるパートナーシップを作ることが、ガーディアンが今後商業面で改善する可能性がある分野のひとつだ」と語った。ラランホ氏はパートナー例としてスポーツ関連の権利所有者を挙げた。

読者と広告主どちらにとっても、エディトリアルとコマーシャル部分が分かれていることはガーディアンを信頼するうえで非常に重要であると、ガーディアン・メディア・グループの広報担当者は述べた。広報担当者はまた、データをシェアすることでこの信頼関係をリスクに晒してしまううえに、長期的には意味のある価値をもたらさないと語った。彼はまた、ガーディアンが「常にスポーツジャーナリズムの質に基づいて収益を増やす方法を探している」と語った。ナットウェスト銀行(Natwest)がクリケット報道のスポンサーになり、ビザ(Visa)が女子サッカーワールドカップ報道のスポンサーになる、といったスポーツ関連での広告主とガーディアンのパートナーシップがある。

新しい希望

「希望は力だ」というメッセージを中心に据えて、ガーディアンは今年9月にグローバル・ブランド・キャンペーンをローンチした。ガーディアンにとっての希望は、この広告を見て読者たちがガーディアンのジャーナリズムにお金を払おうと思ってくれることだ。

その一方で、ガーディアンが各記事ページの末尾に設置している「コールトゥアクション(ガーディアンのジャーナリズムへの寄付を募るもの)」のメッセージでは、気候変動や米国における中絶の権利といった大きな注目を集める話題にフォーカスするようになっている。

よく見られるペイウォールの形ではなく、ウィキペディア(Wikipedia)のような寄付を求める戦略を採ったことで、通常のサブスクリプションを購入する金銭的な余裕がない読者でも無料で読めるようになっている。

「この『崇高な目的』が、優良メンバーたちが(自分がガーディアンを読めるというだけでなく)世界に与えている贈り物となっている」と「希望は力だ」のキャンペーンに取り組んだクリエイティブエージェンシーであるアンコモン(Uncommon)の共同ファウンダーであるニルズ・レナード氏は言う。ガーディアンがこのような種類のメッセージを伝える広告をもっと今後も作りたいと彼は考えている。

ふたつの異なる種類のオーディエンスに同時にアピールしようとすることは、すでに大きな怒涛の時期を過ごしてきた組織にさらに全体的な思考法の変化を求めることになる。エグゼクティブたちが入れ替わらなくとも、そもそもメディア業界では常に変化が訪れることは常態となっている。新しいCEOがさらに過激な働き方の転換をもたらすのでは、と従業員たちは懸念を持つだろう。

「ビジネスのカルチャーに課題を与えない形で構造的な変化をすることはできない。第1段階はその多くに取り組んだ。しかし、そこに底流する変化の必要性はまだ、止められていない」と、エンダーズ(Enders)のマケイブ氏は言った。

Lara O’Reilly(原文 / 訳:塚本 紺)