アトランティック、サブスクリプションへの移行を延期

2017年12月、雑誌のレガシーパブリッシャーであるアトランティック(The Atlantic)はメーター制課金の導入が間近だと語っていた。その数カ月前に同社は会員プログラムのマストヘッド(Masthead)を立ち上げており、あっというまに数千人の会員を集めていた。それを受けてアトランティックの経営陣は数カ月で本格的なペイウォールを導入できると踏んだのだ。

そのためには解決すべき問題がいくつか残されていた。顧客に請求する料金や、ペイウォールの高さなどだ。いずれにせよ、当時のプレジデントであるボブ・コーン氏は次のように語っていた。「ペイウォールを廃止して10年。新しい形のペイウォールが作られるだろう」と。

それから1年以上が経過したが、ペイウォールはいまだに作られていない。立ち上げのはっきりとした時期も不明なままだ。そして同社は、いまでは料金やペイウォールの高さといった課題でなく、構想の段階にまで立ち戻っているようだ。

導入に慎重な姿勢

アトランティックは現在、どのような商品であればサブスクリプションに登録したいと思うかについてオーディエンスにアンケートを行っている。この調査はアトランティックを読むことをカスタマーに習慣づけさせる目的で立ち上げられた、同社の本格的な定性調査プログラムの一貫だ。

こうした習慣づけの戦略は、消費者からの収益を追求するパブリッシャー各社のあいだで普及しつつある。アトランティックはさらにエンジニアやデータサイエンティスト、プロダクトマネージャーを必要としており、2019年の後半には新たに消費者から収益を得る形の商品を投入できると予測しているものの、その商品の具体的な形についてはまだ見通しが立っていないという。

メーター制課金の計画を変更したのは事前テストの結果によるものかとの問いをコーン氏は否定し、次のように語った。「計画の変更は、当時は実装に必要なレベルの人材がいなかったと判明したためだ。いまは当時と比べ物にならないほど研究を重ねている」。

業界全体の現状

アトランティックの発表から1年が経過し、消費者からの収益を考えるパブリッシャーが増え、ペイウォールは大きく普及した。その結果、大半のパブリッシャーにとってサブスクリプションはうまくいかないのではないかと危惧する観測筋もあらわれた。それに伴い、まだペイウォールを市場に投入していないパブリッシャーにとってのハードルもまた高くなっている。

アメリカン・プレス・インスティテュート(American Press Institute)の読者収益部門でディレクターを務めるグウェン・バーゴ氏は、競争の激しい市場で特別な何かを作り出すには大変な労力が必要であり、アトランティックが研究を重ねているのは正しいアプローチだと指摘し、次のように分析する。「間違いなく、現在のトレンドは無料から有料への移行だ。そして移行を成功させるには確実に価値のあるコンテンツを作る必要がある。移行には、いわば前払いの賭け金が必要だ。だから慎重に取り組まなければならない」。

コーン氏は、アトランティックは何かのきっかけがあってオリジナルのペイウォール計画を停止したわけではないと主張する。「2018年春に、いちばん根本となる部分から組み立てていこうという結論に至った。正しい方法で導入するのに与えられるチャンスは1回きりだと気づいたのだ」。

100名の新規採用

この決定は、アトランティックの過去14カ月における雇用にも表れている。2月に、アトランティックは100人という大規模な雇用を行い、社員を430人に増やす計画を発表した。これは当時の社員の3割以上にあたる数で、発表当時にアトランティックには既存の役職にも29人の募集を行っていた。

コーン氏によると、これまでに同社全体で78人が雇用され、商品チームの規模は倍になった。この雇用によってエンジニア、オーディエンス開発、データサイエンス、設計、成長、消費者収益といった部門が50人前後にまで増えたという。

さらに同氏は、当時のアトランティックでは大規模な投資が先延ばしになっていたため、より高度な消費者からの収益戦略を実施するにはさらにリソースが必要になると明かしている。コーン氏によると同社は2019年までにさらに50人を雇用する予定で、そのうち3分の1は商品部門に配属される。

広告&イベントは順調

また昨年のアトランティックの売上高は13%増で、印刷広告以外の分野はすべて2桁成長となったという。斜陽の印刷部門の広告ですら、10%の成長を達成している。イベント事業の成長率は実に30%だ。

消費者からの収益がアトランティックの収益のうちどれくらいの割合となるかは不明だ。同社の広報担当はマストヘッドの現在の会員数についても明かさなかった。だが、その人数は「比較的に少ない」ものの初年度の会員プログラムとしては、「リテンション率は業界標準よりも高い」という。また同広報担当は、消費者からの収益がどれくらいになるかについても言及を避けている。

Max Willens(原文 / 訳:SI Japan)