パブリッシャーにとってブランデッドコンテンツは手間がかかる割に利益の低い「商品」だ。しばしば編集部門とセールス部門の摩擦の要因ともなってきた。コロナ禍によってブランドの支出は厳しくなり、ブランデッドコンテンツへの投資は減少。今後のパートナーシップに期待し、小規模なキャンペーンを引き受けている状態だ。
2020年初め、イギリスの専門誌パブリッシャーであるデニス・パブリッシング(Dennis Publishing)は、自動車メーカーやサイクリング専門家、金融ブランドなど、中核となる顧客基盤を超えて新しいビジネス分野の様々な顧客にリーチすることで、年内にブランデッドコンテンツスタジオを30%成長させる見込みだった。だが、ほとんどのパブリッシャーと同様に、パンデミックによりそうした成長目標にブレーキが掛かった。
唯一不変なものは不確実性となった今、顧客たちはこれまで成果を上げてきたもっとも信頼できる関係を強化したがっている。有効な成果物や利益を明らかにするのに比較的長い時間が掛かるブランデッドコンテンツには、それが特に当てはまる。
ブランデッドコンテンツ売上高は最大40%低下
「支出は逐一、精査されている」と、オート・エクスプレス(Auto Express)やカーバイヤー(Carbuyer)のような専門誌を抱えるデニス・パブリッシングのCRO(Chief Revenue Officer)、ジョナサン・キッチン氏は語る。「自動車やサイクリングのような、これまで結果を示してきた比較的長期のパートナーシップに取り組んでいる。顧客が望む結果が得られそうなコンテンツに関する2、3の提案が、すぐにリーチや反応につながった。リスクの大きい提案は見ていない。自社の事業に専念するのが大事だ」。
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デニス・パブリッシングは、ブランデッドコンテンツ売上高が前年比で横ばいになると見ている。核となる専門分野があり、明確に定義された情報収集に積極的なオーディエンスのおかげで、ブランド向けに販売しやすくなっているのもその理由のひとつだ。
ブランデッドコンテンツとネイティブ広告でパブリッシャーを手助けしているテック企業のポーラー(Polar)によると、全体的に見ればパブリッシャーのブランデッドコンテンツ売上高は今年20~40%減少するという。多くのパブリッシャーはデジタル広告売上高の最大40%をブランデッドコンテンツから得ていることを考慮すると、これは受け入れがたい予測だ。
何百ものパブリッシャーで構成されたポーラーのパブリッシャーネットワークを通じて展開されたキャンペーン数は、4月に前月比で22%の減少となった。6月、7月が横ばいなので、まだ回復には至っていない。
「2月の時点では、どのパブリッシャーも10~20%の範囲で売上成長計画を立てていた。こうした計画の一部はブランドからの投資を見込んでいたが、今ではもう得られない。投資を新たなスキル開発や異なるタイプのコンテンツにあてるつもりだったパブリッシャーもあるが、これらの『イノベーション予算』は消えてしまった。現在の予算を見直すか、ほかのどこかで見つけなくてはならない」と、ポーラーのCEOを務めるクナル・グプタ氏は話す。
対応に追われるパブリッシャー
サブスクリプションのようなパフォーマンスベースの読者からの直接的な収益源の急増や、プログラマティックマーケティングの激変と比べて、ブランデッドコンテンツの広告売上高の見通しは、それほど明確ではない。パブリッシャーは、何がうまくいくのかについては明敏だ。費用が高くつく撮影での薄利といった問題や、複雑化するコンサルティング販売プロセス、リードタイムの増加、編集とセールスのあいだにある緊張は悪化してきた。
新型コロナウイルスの副次的影響により、デニス・パブリッシングは従業員のリストラ後にブランデッドコンテンツの販売を複数のカテゴリーに分散してきた。営業チームが製品群を販売するには効率的だが、分散すると専門知識が乏しくなる。そうした懸念に対応するため、チームにさらに教育やトレーニングを提供したり、セールスチームとコンテンツ配信チーム間のミーティングを増やしたり、ワークフローを分析したり、プロジェクト管理ツールであるジラ(Jira)の利用を拡大したりしている。
パンデミックの騒乱が続くなか、料金が2万5000ドル(約270万円)未満である比較的短編のブランデッドコンテンツキャンペーンが増えてきた。小規模のタイムリーでターゲットを絞ったコンテンツは、料金は安くなり、回転が速くなるが、コンテンツ配信チームを少ない金のために多忙にしておくことになる。ニュースUK(News UK)は7月下旬、昨年立ち上げたブランドスタジオ、サンズ・ソーシャル・スタジオ(The Sun’s Social Studio)に続いて、タイムズ・ソーシャル・スタジオ(The Times Social Studio)をローンチした。タイムズ・ソーシャル・スタジオは、Facebookやインスタグラム、YouTubeを利用するニュースUKのオーディエンスにリーチしたい顧客向けに、ニュースルームの動画をクイック編集する機能を提供している。
低調なブランデッドコンテンツ
匿名を希望するある世界的なニュースパブリッシャーは、顧客側のキャンペーンに関与する人々の数が増え、プロセスにかかる時間が長くなり、利益が少なくなってきたと指摘する。いずれにせよ、高い料金に見合うようにハイクオリティなサービスを提供しなければならないので、ブランデッドコンテンツキャンペーンはパブリッシャーにとって利益率の低いプロジェクトだ。パンデミック中にパブリッシャー(とプラットフォーム)はブランデッドコンテンツの料金を10~20%下げたが、その他のメニューについては下げ幅が40~50%だ、とポーラーのグプタ氏はいう。
市場調査会社であるメディアレーダー(MediaRadar)の調査によると、広告主数百社がネイティブ広告をやめたため、同フォーマットへの支出は2月の4000万ドル(約43億円)から3月末には2300万ドル(約24億円)に半減し、2019年から31%減少したという。
また、ブランデッドコンテンツのキャンペーン数が減少したため、さらに価格は低下した。通常、全国および地域の広告主のためにブランデッドコンテンツキャンペーンを展開している米国のある一流ニュースパブリッシャーは、全国的な広告キャンペーンが今では地域キャンペーンの規模になっていると冗談を言った。なお、全国キャンペーンは、地域キャンペーンよりもかなり料金が高い。
パブリッシャーのブランデッドコンテンツスタジオが成熟してきた一方で、より大手のパブリッシャーは、マージン管理をしやすくするため1キャンペーン当たり6~10万ドル(約640万〜1000万円)の最低料金を導入した。新型コロナウイルスの影響によりそうした基準はなくなり、パブリッシャーは第4四半期にもっと規模の大きいパートナーシップに成長することを期待して、比較的小規模なキャンペーンを引き受けている。
だが、ポーラーによると、当面は料金が15万ドル(約1600万円)を超える長編の派手なマルチメディア広告はほとんどないという。とはいえ、デニス・パブリッシングには、年末までに2つの比較的大きなプロジェクトが入ってきたことで、そうした状況が変化し始めているという希望もある。
[原文:‘That innovation budget has gone’: Publishers adapt to thwarted branded content studio growth]
LUCINDA SOUTHERN(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:分島 翔平)