タブーラ(Taboola)が特別買収目的会社(SPAC)を介した株式公開の予定を発表した。これにより、パブリッシャーがタブーラからの売上にさらに依存するような形で、同社は事業を拡大できるようになるだろう。パブリッシャー各社はいま、そうした関係の拡大に不安の芽を感じている。
2020年、デジタルパブリッシャーの広告ビジネス全体が大きな打撃を受けた。これを受けて一部のパブリッシャーは、コンテンツレコメンデーションプラットフォームのTaboola(タブーラ)から得る売上に慰めを見出すようになった。
しかしここにきて、Taboolaが特別買収目的会社(SPAC)を介した株式公開の予定を発表した。これにより、パブリッシャーがTaboolaからの売上にさらに依存するような形で、同社は事業を拡大できるようになるだろう。パブリッシャー各社は、Taboolaが収入源であることにより、自社サイトのユーザー体験の質が低下していることを認めている。その関係は依然として良好であるものの、パブリッシャー各社はいま、この難題への対応に追われている。
アメリカ国内大手ニュースパブリッシャーの2人の売上担当幹部から話を聞いたところ、Taboolaのコンテンツレコメンデーションが2020年に生み出した売上は、一貫して安定した状態を維持したと、彼らは述べた。同プラットフォームがマネタイズできるサイトトラフィックの増加によるところが大きいという。
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Taboolaは、SPACを介した株式公開で5億4500万ドル(約572億円)を調達する予定だ。1月25日に行われた発表のなかで同社は、2021年に「AIや、eコマース、テレビ、デバイスメーカーなどのR&D成長戦略」に1億ドル(約105億円)超を投資するつもりであると述べた。
「注目すべき2020年の実績」
米DIGIDAYが話を聞いた売上担当幹部の1人は、同氏が勤務するパブリッシャーはTaboolaとのパートナーシップにより、特にほかの収益パートナーと比較して「注目すべき2020年の実績」を残すことができ、2021年も好スタートを切れたと話す。なお、同幹部は、比較した提携先については、どこか詳細を明らかにしなかった。
別の売上担当幹部は、プリントとデジタルの両方を手がけるパブリッシャーに勤務している。同氏によれば、「他社とのそれと違い、2020年もTaboolaとのビジネスが後退することはなかった」という。こちらも「他社」の詳細については明らかにされなかった。Taboolaは「2020年も我々に大きな売上をもたらしてくれた」と、同氏は語る。Taboolaを活用することで同パブリッシャーが得た総売上は、具体的な数字こそ明らかにされなかったものの、2019年よりも20年のほうが大きかったという。
巨大デジタルニュースサイトとして「我々が目を光らせるのは、トラフィックの急増が生じるタイミング」であり、それがTaboolaによってもたらされる売上の増加と相関しているかどうかを確認していると、1人目の売上担当幹部は語る。Taboolaが成長するにしたがって、これらのタイミングに合致するその能力だけでなく、より高いリターンでそれを遂行する能力も高くなっている。「どちらも我々にとって非常に大きな価値を持っている」と、2人の幹部は口をそろえる。
両氏とも、自社の総広告売上の何%がTaboolaによるものなのかについては明かそうとはしなかった。
パートナーとしてのTaboola
パートナーとしてのTaboolaが、今後もビジネスに利益をもたらすことは折り紙つきである。だがその一方で、自社の売上に対するTaboolaの貢献と、ユーザー体験と広告体験に対するコントロールの維持とのあいだで、うまくバランスをとることの必要性を両幹部は強調する。2人目の幹部がいうように、売上を得るためにTaboolaに依存しすぎれば、自社サイトのユーザー体験が損なわれ、その「広告体験も安っぽいものになってしまう」かもしれないからだ。
多くのパブリッシャーのページ下部に表示されるTaboolaのフォトギャラリーと「マインドレス広告」は、「ユーザー体験としてはベストとはいえない」と、2人目の幹部は語る。
「多くのほかのパブリッシャーと同じように、我々もこう考えている。我々はTaboolaにどこまで依存していいのか、どこまで頼っていいのかと」と、1人目の幹部が付け加える。だからこそ、彼らはTaboolaが提供するレコメンデーションプロダクトを選ぶことに「注意深くなっている」のであり、「Taboolaがパブリッシャーのプラットフォームでどこまで販売・管理を行うのか」を警戒しているのだ。Taboolaが先日ローンチした「タブーラ・ストーリーズ(Taboola Stories)」は、その一例だ。これをパブリッシャーのホームページやモバイル記事に埋め込めば、コンテンツレコメンデーションをバーティカルフォーマットで提供できるようになる。
多種多様な収入源を確保することの大切さを両幹部は口にする。「ひとつのバケツにすべてを入れるのは非常に危険」なのだ。
新たな資金調達で何をするか
「Taboolaは、非侵襲的な方法で、読者をつなぎとめてマネタイズする方法を、どうすればパブリッシャーにもっと提供できるかを、常に考えている」と、TaboolaのCEO、アダム・シンゴルダ氏は語る。「新たなオーディエンスのエンゲージメントを高め、マネタイズする方法については、パブリッシャーが決めることだ」。
2人のパブリッシャー幹部によれば、少しずつではあるが、Taboolaのウィジェットに表示される広告の品質を、パブリッシャーがコントロールできるようになってきているという。一例をあげると、もしこれら広告の一部に問題があれば、それにTaboolaは「すぐに対処」してくれると、2人目の幹部は話す。この種の依頼を行う頻度も徐々に減ってきているという。
株式公開の一環として、Taboolaが大きな期待を寄せていることのひとつは、「提携するパブリッシャーのニーズを強化し、ライターに向けたエディトリアルツールをさらに拡大し、自社のAIへの投資を継続して、サーキュレーションをさらに向上できるようになること」と、シンゴルダ氏は話す。
この新たな資金調達でTaboolaが何をするのかについての詳細は依然として不明だ。その一方で、この「軍資金」を得ることで、Taboolaはやがて、よりパブリッシャーのデジタル広告ビジネスにとって欠かせない存在になっていくのではないかと、2人のパブリッシャー幹部は考えている。この軍資金で、同社がライバル企業のOutbrain(アウトブレイン)との合併を再度試みる可能性は十分にある。あるいは、パブリッシャーに提供するアドソリューションを増やすことで、彼らの広告エコシステムにおける存在感をさらに高める可能性も十分にある。
Outbrainとの合併の失敗
昨年、TaboolaとOutbrainの合併が失敗に終わったことに対し、両幹部はともに安堵の言葉を口にする。
「おかげで両サイドのライバル関係は維持された。Taboolaが唯一の選択肢になることを、私は望んでいない」と、1人目の幹部は語る。
「もし実現していても、パブリッシャーには何の利益ももたらされなかったと思う」と、2人目の幹部は付け加える。そうでなければパブリッシャーの広告価格を押し上げる競争が低下することによって、「CPM価格の圧縮につながっていただろう」。
合併をめぐる推測はさておき、Taboolaがパブリッシャー各社との関係を広告インベントリー(在庫)のほかのソースへ拡大することに熱を上げていることは確かなようだ。Taboolaは1人目の幹部のパブリッシャーにさまざまなサービス提供の話を持ちかけるようになっていると、同氏は述べる。これらのサービス提供では、通常はヘッダービディングと関連する「インベントリーの、より従来型の広告バナータイプ」がいろいろと試され始めているという。
Taboolaがパブリッシャー各社との協働の拡大に目を向けていることは、シンゴルダ氏も認めている。同社は今後、「インタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau:IAB)の広告バナーエリア」への進出を目指すのではなく、「インストリーム体験」にフォーカスしていくという。
「ショートフィードになる可能性もあるし、ロングフィードになる可能性もある。そこに含まれるのは、エディトリアルレコメンデーションやペイドレコメンデーションだ」と、同氏は語る。Taboolaは、ホームページや記事中のプレースメントなどのエリアで「採用されて、成功をおさめている」という。
Taboolaが辿るかもしれない道
Taboolaが辿るかもしれない道のひとつは、メディア企業との既存の関係を活用して、データプロダクトを開発することだと、2人の幹部は推測する。このデータプロダクトにより、パブリッシャーは広告売上を得るために、同プラットフォームへの依存度をさらに高める結果になるかもしれないという。Taboolaによれば、同社のレコメンデーションプラットフォームは毎月、約5億人のデイリーアクティブユーザーに向けて、1兆件以上ものレコメンデーションを提供しているという。
「Taboolaは我々のページからオーディエンスに関するデータを大量に集めている。Cookieが廃止されたら、Taboolaはどうやってデータプロダクトを開発するのだろうか?」と、1人目の幹部は語る。「我々のページ内に占めるTaboolaのピクセル数の割合は高い。ほかの多くのパブリッシャーについてもそうだ」。
「Taboolaのレコメンデーションは、何千とまではいわないが、何百というパブリッシャーの、すべてのページの下部にもれなく表示されている」と、2人目の幹部は付け加えた。
[原文:Publishers worry Taboola’s SPAC funding could make them more dependent on its ad revenue]
SARA GUAGLIONE(翻訳:ガリレオ、編集:長田真)