パブリッシャーのあいだで、データを多用サードパーティベースのオーディエンスターゲティングからの揺り戻しが起きているようだ。昨今パブリッシャーたちは、コンテクスチュアルデータツールをより賢く活用し、コンテクスチュアル広告売上をコントロールできるようになってきている。
パブリッシャーのあいだで、データを多用するサードパーティベースのオーディエンスターゲティングからの揺り戻しが起きているようだ。昨今パブリッシャーたちは、コンテクスチュアルデータツールをより賢く活用し、コンテクスチュアル広告売上をコントロールできるようになってきている。
コンテンツが読まれる文脈に合わせて広告を表示する、コンテクスチュアル広告は、より繊細なものへと進化している。これは、ブランドセーフティを巡る論争の影響で、アドテクツールがページを分類する際、単純なキーワードではない、より詳細な手法が求められるようになったためだ。
パブリッシャーはコンテクストベースのアドテクツールを独自開発し、ファーストパーティデータのセグメントと組み合わせている。実際、インサイダー(Insider)は米DIGIDAYが開催した7月のDIGIDAY+ TALKSで、自社のファーストパーティデータプラットフォーム、サーガ(Sága)を「ステロイドで強化されたコンテクスチュアルツール」と表現した。また、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times:以下、NYT)も2018年以降、独自のコンテクスチュアル広告製品を5つ開発。現在は、そのうち少なくとも1製品を使用したキャンペーンが、常時100以上走っているという。
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データ管理プラットフォームを提供するパーミューティブ(Permutive)の共同創業者、ジョー・ルート氏によれば、コンテクスチュアルデータとCRMレコード、メールアドレスなどのファーストパーティデータ識別子を組み合わせ、新規のオーディエンスを想定したセグメントを作成するパブリッシャーもいるという。
「パブリッシャーはコンテクスチュアル広告を補強し『コンテクスチュアルプラス』と呼んでいる」と、ルート氏は話す。「そして、他者にデータを提供するのではなく、彼ら自身がデータを使用する機会を得ている」。
エコシステムに残される唯一の光
パブリッシャーはこれまでも、PMP(プライベート・マーケット・プレイス)など、コンテクストを意識した取引を展開し続けてきた。しかし、ブラウザや規制当局がサイト間におけるトラッキングの取り締まりを開始したため、あらゆる環境、特にiOS環境で、バイヤーからの需要を生み出さなければならなくなった。オーディエンスデータベースのトラッキングが困難になれば、コンテクスチュアルデータはエコシステムに残される唯一の光となり、広告主とベンダーも活用せざるを得なくなるだろう。
しかし、ここで懸念される点がひとつある。それは、コンテクスチュアル広告がもたらす売上は、オーディエンスターゲティングに取って代われるほどのものではないということだ。コンテクスチュアル広告には制約があり、ラストクリックのアトリビューションモデルでは機能しない。それでも、一部のパブリッシャーは、コンテクスチュアルに流れ込む広告主からの支出規模は今後大きくなるのではないかと考えている。
PwCと、広告業界団体のISBAが5月に発表した報告書によると、大手パブリッシャーにとっての大手広告主(もっとも厳格なホワイトリストを持ち、オープンマーケットプレイスを監視する最高レベルのテクノロジーに投資する広告主)が、いまでもなお無数のWebサイトに広告を出稿していることがわかっている。
ニュースUK(News UK)で、顧客データと商業部門の責任者を務めるベダ・アイデミル氏は「多くの出稿はまだ、依然としてオーディエンスターゲティングだ。ほとんどの広告主は、まだ『コンテクスト』を購入しようとは思っていない」と話す。「しかし、オーディエンスデータを活用したセグメンティングとリターゲティングが困難、あるいは不可能になれば、支出は一気にコンテクスチュアル広告へと向かうことになるだろう」。
「非常にワクワクしている」
実際、その兆候はすでに見えはじめている。NYTは、新型コロナウイルスに起因する景気後退の影響で、広告売上の減少に見舞われたが、コンテクスチュアル広告は機能している。広告イノベーション担当 シニアバイスプレジデントのアリソン・マーフィー氏によれば、第2四半期、広告売上が44%減少したにもかかわらず、コンテクスチュアルベースのプロダクト5つは上半期、2019年の1年分に匹敵する売上を記録したという。インプレッションの取引量に関しても、上半期、コンテクスチュアル広告はサードパーティデータベースのターゲティングと同等だったという。1年前は、全体の約15%にすぎなかったにも関わらずだ。このコンテクスチュアル広告のツールが対応しているのは、プログラマティックギャランティードとプログラマティックダイレクトのみで、オープンマーケットプレイスでの取引は制限されている。
「広告主の需要が高まっている証拠だ。非常にワクワクしている。我々のチームは現在、市場でクライアントの教育を続けている」とマーフィー氏は話す。
通常、ターゲティングのために参照するパラメーターが増えるほど、料金は高くなり、それは5割増しになるケースもある。しかしNYTは、企業の経営幹部など、需要が大きいセグメントを除き、コンテクスチュアル広告ツールの価格を、オーディエンスターゲティングツールと同等に設定している。そのためマーケターたちは、価格で判断することなく、純粋に目的に合っている方を選択できるという。
マーケターからの需要が高まれば、パブリッシャーはコンテクスチュアル広告売上の流れをもっとコントロールできるようになるだろう。
詳細な成果はまだ見えない
いまのところオープンエクスチェンジでは、「パブリッシャーのページはサードパーティのベンダーによって読み取られ、コンテクストに基づいた購入の決定は、これらの仲介業者によって行われている。つまり、パブリッシャーから情報提供やコントロールは受けていないということだ」と、前出したニュースUKのアイデミル氏は語る。将来、このようなやり方は減少するかもしれない。というのも、ユーザー同意やデータ漏えい、サードパーティCookieの廃止といった問題によって、中間業者の締め出しが起こっているためだ。
またサードパーティベンダーはまず、エージェンシーに情報を提供するため、パブリッシャーのなかにはまだコンテクスチュアル広告の成果を詳細に把握していない企業もあるようだ。「『賞金』の額は、まだわかっていない状態だ」と、アイデミル氏は付け加えた。
[原文:‘Supercharging contextual’: Publishers eye potential for contextual ad revenue growth]
Lucinda Southern(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:村上莞)