デジタル動画が一般的になったいま、動画広告の扱いには一層の注意が必要だ。余計な手間や時間をオーディエンスに強いる、ユーザー体験を損なうような動画広告が増えているからだ。モバイル環境において、動画広告の効果を高めるには、どのようなポイントに注力すべきなのか? ふたりのスペシャリストへの取材から探っていく。
デジタル動画が一般的になったいま、動画広告の扱いには一層の注意が必要だ。
なにしろ、いまやデジタルメディア接触の主戦場はスマートフォン。投影されるのは、手のひらほどの小さなスクリーンで、しかもタイミングは、ちょっとしたスキマ時間であることが多い。そんななか、余計な手間や時間をオーディエンスに強いる、ユーザー体験を損なうような動画広告が増えている。
こうした状況に対して、株式会社サイバーエージェントの加藤徹氏は、「スマートフォンの動画広告も、一人ひとりのユーザーに適した商材、適した表現、適したタイミングで配信していく世界になっていく」と指摘する。同氏は、サイバーエージェントグループのスマートフォン動画広告ネットワーク「LODEO(ロデオ)」のプロダクト責任者だ。
その一方、「スマートフォンにおける動画広告では、いかに最初にユーザーのアテンションを引くかが重要。そのためにはクリエイティブの考え方として抑えるべきポイントがある」と、フェイスブック ジャパンでクリエイティブストラジストを務める栗山修伍氏は語る。同氏は、モバイルファーストをいち早く実現してきたFacebookにおいて、最適な広告クリエイティブ戦略の立案、及びデザイン開発を行っている人物だ。
モバイル環境において、動画広告の効果を高めるには、どのようなポイントに注力すべきなのか? ふたりのスペシャリストへの取材から探っていく。

LODEOの加藤氏(左)と、Facebookの栗山氏(右)
「嫌われない広告」
まず、考えなくてはいけないのは、「嫌われない広告」ついてだろう。というのも、先述したとおり、スマートフォンのモニター画面は狭く、通信容量も限られている場合が多い。モバイル環境には、このような制限があるにも関わらず、本質的な広告効果を顧みない、接触回数だけを追い求めたマーケティング施策が、いまだ後を絶たない。
「広告に対する嫌悪感は、ある一定のレベルに達している」と、LODEOの加藤氏は指摘する。「ユーザーと関連の少ない広告が配信されることだけでなく、ミスクリックを狙うような広告手法や、大容量の動画広告が強制的に再生されることへのユーザーの抵抗感なども、マーケターは考慮しなければならない」。
それに対して、CISCOがまとめたグローバルモバイルデータのトラフィック予測では、2021年までにインターネット上のコンテンツに占める動画の割合は78%に達すると、Facebookの栗山氏は補足する。「だからこそ、タッチポイントにおいて、ユーザーが見たくないコンテンツが流れてこないようにすることが大事だ」。
ユーザー理解の重要性
そこで、重要になるのが、ユーザー理解だろう。接触できたオーディエンスを深く知ることで、その人に対してより適切な広告を選別して、配信することができるからだ。
「ユーザーと広告のマッチングについて、プラットフォームと広告配信ネットワークにはアプローチの違いがある」と、LODEOの加藤氏は指摘する。プラットフォームであるFacebookの長所は、ユーザーIDに紐付く、個々のユーザーの行動履歴の分析。その一方、広告配信ネットワークは、配信面、すなわちメディアごとのユーザー行動を解析し、面ごとのパフォーマンスを見ていくことで、ユーザーにとって自然な広告体験ができるクリエイティブは何かを考えるというアプローチだ。
「たとえば、最近ではレシピ動画のサイトやアプリが流行っている。その利用シーンにおいてユーザーは、夕飯のレシピを探すことに集中しているはずだ」と加藤氏は、ユーザー理解について説明する。「そのタイミングでペットフードの広告を掲出することは、ユーザーが自然に広告を受け入れられるかという観点からあまり良いとはいえない」。単純なブランド毀損の回避だけでなく、アドネットワークで起こりがちな質的なミスマッチングも避ける必要があるということだ。
コンテンツ消費スピード
動画広告の「見せる工夫」について栗山氏は、「ユーザーのコンテンツ消費スピードを考慮する必要がある」と述べる。Facebookのデータでは、同社サービスのモバイルユーザーは、デスクトップユーザーの1.5倍の消費スピードで、自分に興味のない情報からは即座に離脱していくという。「いかに『見てもらえる広告』を作るかが、我々の注力ポイントだ」。
たとえば、広告主が実際に、テレビCMのクリエイティブをFacebookやInstagramの動画広告へそのまま流用するケースは多い。だが、流用するにしても、コンテンツの消費スピードを考慮して、一部手を加えた方が効果は高いと、栗山氏は語る。
「テレビCMは最後にメインメッセージをもってくることが多い。だが、スマホの場合、最初にメインメッセージを置き、アテンションを集めることが何よりも肝要だ。なぜなら『興味がない』と思った瞬間にユーザーは離脱する」。

「広告への嫌悪感は、一定レベルに達している」と、LODEOの加藤氏
成功するスマホ動画広告
以上の観点を踏まえ、スマートフォンに最適な動画広告とはどういうものか。ふたりの話を統合して、整理してみた。
1. 最適なフォーマットを選ぶ
「スマートフォン利用時は、テレビ視聴時のように目で見て耳で聞くだけでなく、指を動かす。体感しながら広告に触れていく要素がある」と、モバイル環境における動画広告のポイントについて、加藤氏は指摘する。「広告との出会い方において、体感やインタラクションという意味で、いかにユーザーのアテンションを引くか。フォーマットの開発は重要だ」。
LODEOの加藤氏が、ひとつの最適解として提示するのが「タテ型動画広告」だ。タテ型映像特有の没入感をユーザーに与えることで、広告に接触した体験の価値を最大化できるという。「スマートフォンのスクリーンと同じサイズのタテ型広告フォーマットは、専有面積の大きさから、ブランドリフトの優位性がユーザーへのサーベイからも確認できている」。
LODEOの広告は、接触した人とそうでない人を対象にサーベイを行い、結果を分析。ドメインに対してもっともブランドリフトの高いクリエイティブ、広告を配信しているという。
それに対して、Facebookの栗山氏は、重ねてテレビCMのそのままの流用について、注意を喚起する。「ヨコ型で作られたテレビCM向けの素材を、スマートフォン向けにタテ型トリミングしても、商品やタレントが切れてしまうことがある」。
これは決して、専用のクリエイティブをイチから構築しなくてはいけないということではない。テレビCMで用意した素材を、適宜組み換え、手を加えるだけでも、効果的なモバイル環境向けの動画広告を作ることはできるという意味だ。
2. タッチポイントに留意
たとえば、ソーシャルメディアを経由して、「記事単位」でニュースメディアに来訪し、動画広告に接触するユーザーは、当然ながら「記事の内容を読みたい」という目的を持っている。つまり、「広告に対して、どちらかというと非寛容で、関係ないと思われたときの離脱のスピードが早い」と、加藤氏は分析する。
一方、ニュースメディアなどのモバイルアプリで動画広告に接触するユーザーは、「アプリを開いて、面白いニュースを探す」という、ザッピング感覚に近い傾向がある。すなわち、広告に対して比較的寛容な傾向があることが、データからも読み取れてきているという。
「つまり、ユーザーの目的に合わせて『クリエイティブを変える』というアプローチが大切だ。たとえば、ニュースサイトへの記事単位の流入に対しては、短く簡潔な動画広告、逆にアプリでは、じっくり丁寧に伝える動画広告が有効になる」。
3. 「親指を止める」工夫を用意
また、クリエイティブについては、「最初の1〜3秒のあいだにブランドメッセージや、フックとなるメッセージを入れた方が、最終的に想起しやすい傾向が、データから表れている」と、加藤氏は語る。栗山氏もこれに対して、「ユーザーが興味を持つ、つまりスクロールしている『親指を止める』瞬間をいかに作るかという点に集中してクリエイティブを作ることが大事だ」と同意した。
さらに、スマートフォンの動画広告には独特の「リズム感」が重要だと、栗山氏は続ける。特に心臓の鼓動に近い、エイトビートのリズム感を持ったクリエイティブは、見続けられる傾向があるという。「これを我々は『エイトビートフリクエンシー』と呼んでいる」。
「音声についても同様だ。テレビCMと違って、スマーフォンの動画広告は音声オフが基本。字幕スペースも限られており、『親指を止めさせる』ために、その入れ方にもさまざまな工夫が必要となる」。

「『興味がない』と思った瞬間にユーザーは離脱する」とFacebookの栗山氏
今後、めざす方向性
モバイル環境における動画広告も日々進化している。最先端を行くふたりも、さらに前へ進んでいかなくてはいけない。2018年におけるチャレンジは、どこにあるのだろうか?
「2018年に注力するのは、Instagram」だと、栗山氏は話す。2017年、同サービスの月間アクティブアカウントは2000万を突破し、「インスタ映え」は新語・流行語大賞となった。
「Instagramは、クライアントからクリエイティブのハードルが高いとのイメージを持たれがちだ。だが、ユーザーの利用目的も変わってきた。以前は、アーティスティックな写真などの人気が高いサービスとして捉えられていたが、いまはそれだけに留まらず、より気軽にユーザーの日常を見る・投稿するプラットフォームとなっている。そのため、広告表現もよりカジュアルになった。2018年は、その事実を踏まえ、より多くの広告主にInstagramの利用を広めていきたい」。
LODEOの加藤氏は、優良なコンテンツと優良な広告のマッチングを設計することに取り組んでいるという。「具体的には、広告に対するエンゲージメントの変数(接触しているメディア・広告枠、動画視聴時間、フリクエンシー、接触クリエイティブ)を機械学習に取り込み、広告想起などブランドリフトに関わる指標と、どんな相関性があるのかを明らかにしている」。
これは、LODEOが発表した「Brand Lift Optimizer(ブランドリフトオプティマイザー)」機能のことを指す。動画広告の評価は、広告主も関心が高い。LODEOでは、ひとつの指標として「視聴時間」が広告想起に相関性があると提示している。
「たとえば、このメディアでは、こんなユーザーが、こんなブランドの広告に接して視聴時間がどれくらい延びそうだ、というのが機械学習で明らかになる。『Brand Lift Optimizer』は、第一弾の機能として広告想起の最大化ができる」と、加藤氏は語る。「それらに磨きをかけて、1ビューの価値を、さらに高めていくことにしっかりと取り組んでいきたい」。
▼加藤徹
株式会社サイバーエージェント
アドテクスタジオ LODEOカンパニー責任者
新卒で人材系企業に入社。2004年、中途でサイバーエージェントに入社。インターネット広告事業部門の営業局長、メディア局長、ソーシャルメディア局長を経て、2014年アドテク本部にてゲーム関連プロダクトを立ち上げ。2016年に動画広告ネットワーク「LODEO」の責任者に就任。
▼栗山修伍
株式会社フェイスブックジャパン
クリエイティブショップ クリエイティブストラテジスト
大学を卒業後、イタリア・ミラノにてデザインの修士号を取得。帰国後、ブランド戦略に関わる数多くのアートディレクションに従事。楽天株式会社ブランドマネジメント室 室長、9,INC設立を経て現職。Facebook, Instagramにおける最適な広告クリエイティブ戦略の立案、及びデザイン開発を行う。
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Written by 広告制作チーム
Photo by 渡部幸和