サブスタック(Substack)は、独立系パブリッシングの新たな救世主だ。サブスクリプション型ニュースレターのプラットフォームを運営し、新種のジャーナリスト起業家に希望を与えている。
サブスタック(Substack)は、独立系パブリッシングの新たな救世主だ。サブスクリプション型ニュースレターのプラットフォームを運営し、新種のジャーナリスト起業家に希望を与えている。
CEOのクリス・ベスト氏は米DIGIDAYのポッドキャストで、「サブスタックには、Netflixの全コンテンツの料金より高い金額(つまり月額料金)を、たったひとつのニュースレターに支払っている人々がいる」と述べている。「娯楽1時間当たりの料金、読みもの1ワード当たりの料金などと考えた場合、これは全く理にかなっていない。何か新たなトレンドがきているに違いない」。さらに同氏は、人々はデジタル広告費を支配してきたソーシャルメディアプラットフォームから「心を取り戻したがっている」と付け加える。
サブスタックが始動した2017年当時、配信していたのはシノシズム(Sinocism)というニュースレターのみだった。しかし、この中国をテーマにしたビル・ビショップ氏のニュースレターは、初日に10万ドル(約1059万円)超を売り上げた(サブスタックの取り分はサブスクリプション売上の10%)。
Advertisement
「ライターたちはサブスタックを利用することで、現在よりもはるかに多く、安定した収入を得られる」とベスト氏は強調する。「コロナ危機がはじまってから、多くのパブリッシャーが広告売上の激減に見舞われている。一方、サブスクリプション売上のある人々は安定している。なぜなら、彼らは価値を提供し続けられているからだ」。
サブスタックはライターたちをサポートするためのプログラム、サブスタックディフェンダー(Substack Defender)の試験運用も開始した。ベスト氏によるとこれは、「形式ばったレターヘッドの下に、脅し文句を書き連ねた弁護士からの恐ろしい手紙」に怯える、ジャーナリストのための支援なのだという。
多くの場合、このような手紙は絶大な効果を発揮し、弁護士の主張が正当かどうかを見分けられないライターを怖気づかせることができる。しかし、それでは健全なジャーナリズムは実践できない。訴訟や外部の圧力に恐れを感じ、ジャーナリズムを実践できていないライターたちを支援するプログラムが、サブスタックディフェンダーなのだ。
以下に、同氏へのインタビューの一部をお伝えしよう。なお、発言の意図を明確にするため一部に若干の編集を加えている。
Subscribe: Apple Podcasts | Stitcher | Google Play | Spotify
サブスク料金の下限「月額5ドル」の理由
「サブスタックをはじめてすぐ、多くのライターが直感的に、料金を破格の安値に設定しようとしていることに気付いた。『1ヵ月50セント(約53円)くらいが妥当だろう』などという人が大勢いたのだ。しかし、それでは取引手数料すら支払うことができないし、とにかく安すぎる。自分を過小評価しすぎだ。料金を請求する気があるのなら、最低でも月額5ドル(約530円)は請求しなければならない。そこで、『ただ楽しみたい一般読者のために何かを書くのであれば、月額5ドル~10ドル(約530円〜1060円)くらいがちょうどいい』と、ライターたちに伝えることにした。そして、仕事に役立つから読む、経費で落とすという人々のために何かを書くのであれば、もっと大きな金額を請求すればいい。また、我々はファウンディングメンバーシップという料金体系も用意している。もしその気があれば、ライターとして、ニュースレターの存在を心から求める人々に、通常の年会費の4倍もする特別なサブスクリプションを提供できる。ファウンディングメンバーは着実に増加している。ニュースレターへの関心は高く、多くの人が喜んで料金を支払っているようだ」。
法的リソースと資金を提供
「サブスタックディフェンダープログラムは、我々のお気に入りだ。人々がメディア事業を立ち上げるときに心配することのひとつは、『誰かに訴えるといわれたらどうすれば良いのか?』という問題だ。残念ながら、世間の権力者たちはジャーナリズムで批判されたとき、その事実を巧みに利用し、ライターやジャーナリストを個人攻撃する。『ジャーナリストとして明らかに重要なことを法の範囲内で書いたのだが、形式ばったレターヘッドの下に脅し文句を書き連ねた恐ろしい手紙が弁護士から届いた』といった具合にだ。なぜこうしたことが起きるのか。それは権力者にとって効果的な手段だからにほかならない。法的な脅威を与えれば、多くの場合、ジャーナリストたちを簡単に黙らせることができる。だがそれでは、ジャーナリズムが抑え込まれてしまう。いまでは多くの人が怖気づき、独立したジャーナリズムを実践することに消極的になっている。サブスタックディフェンダーの最大の目的は、フリーランスのライターに、自分で何かをはじめる場所を与えることだ。重大な不正についての訴訟の費用を支援し、精力的な弁護の手助けを行い、ジャーナリストに脅迫状を送ることは代償を伴うということを、世間に示したい。そうすることで、サブスタックだけでなくもっと広い意味で、フリーランスのジャーナリストが大胆に活動できる環境をつくりたいと考えている」。
好きな文章に喜んで対価を支払う人が増えている
「サブスタックには、Netflixの全コンテンツの料金より高い金額を、たったひとつのニュースレターに支払っている人々がいる。娯楽1時間当たりの料金、読みもの1ワード当たりの料金を考えた場合、これは全く理にかなっていない。何か新たなトレンドがきているに違いない。そして、それはサブスタックに限った話ではなく、広範なトレンドだ。人々は心を取り戻したがっている。現在のメディアの状況を支配しているのは、ソーシャルメディアのフィードで何が人気があるかだ。しかしそれを決めるのは、そうしたフィードの背後にあるアルゴリズムだ。アルゴリズムは中毒性を最大化するよう作られている。そこで多くのクリックを獲得して勝者となることは、必ずしも自分が求める姿でないという認識が、広がっているのだ」。
PIERRE BIENAIMÉ(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:村上莞)