パブリッシャー各社が厳しいデジタル市場で読者から収益を得る方法を思案するなか、その多くが活路を見出しているのが、地方のスポーツニュースだ。そのため、「デジタルニュースの未来は、広告よりも読者からの収益にある」という命題への、重要なテストケースとしてスポーツニュースが浮上している。
厳しいデジタル市場において、パブリッシャー各社が読者から収益を得る方法を思案するなか、地方のスポーツニュースの多くが、サブスクリプションに活路を見出している。とりわけ熱心で関心度の高い読者の注目が集まる分野だ。そのため、「デジタルニュースの未来は、広告よりも読者からの収益にある」という命題に対する重要なテストケースとして、スポーツニュースが浮上している。
この分野の最有力企業が、年会費48ドル(約5000円)のサブスクリプション制を敷く、アスレティック(The Athletic)だ。同社によると、加入者数は10万人にのぼり、最近もエレベーション・パートナーズ(Elevation Partners)がリードする2000万ドル(約21億円)の投資ラウンドを終えたばかりだ。資本金は総額3000万ドル(約31億円)に達したという。
ほかにも、DKピッツバーグ・スポーツ(DK Pittsburgh Sports)や創刊7カ月のボストン・スポーツ・ジャーナル(Boston Sports Journal)が挙げられる。年間購読料は最高で35ドル(約3600円)だ。オースティン・アメリカン・ステーツマン(Austin American-Statesman)が2015年に立ち上げたペイウォール型のスポーツサイトのフックエム(Hook ‘Em)は、昨年第3四半期に1万6000人のデジタル加入者を獲得し、料金は親会社が発行するものとセットで週3.99ドル(約420円)だという。
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これらの企業の成長を見ても、広告ではなく、消費者からの収入に注力したいと考えるパブリッシャーにとって、後押しとなる兆候がある。
無料では立ち行かない
今年3月、ワシントンDCに焦点を当てた会員制サイト、ザ・スポーツ・キャピトル(The Sports Capitol)を共同設立したひとりであるトッド・ディーバス氏は、「我々の業界で非常に明白なことは、無料であることがビジネスモデルではない、ということだ」と話す。
会員制デジタルスポーツサイトという考え方は、新しいものではない。たとえば、ディーバス氏は2012年の時点でワシントン大学のサッカーとバスケットボールチームを対象にした有料のiOSアプリをリリースしている。有料の地方ニュースというマーケットは通常、地理的な制限があるが、スポーツの場合、その地を離れた人でも故郷のチームへの関心は継続するため、また事情が違う。たとえば、DKピッツバーグ・スポーツの加入者基盤の48%がペンシルバニア西部以外の場所で暮らしている。フックエムの全国的なオーディエンスもまた、ローカル紙で売ることのできないアメリカン・ステーツマンの広告販売を支えている、とアメリカン・ステーツマンのゼネラルマネジャー、スティーブ・ドーシー氏はいう。
スポーツニュースの購読者は、契約更新率が高いことも分かっている。アスレティックの共同創始者は、自身のパブリケーションでの更新率は90%を超えると話す。
外国人ファンを求め、アスレティックはFacebookを使った宣伝とリターゲティングを行うとともに、新規購読者紹介してくれた会員向けにAmazonポイントで10ドル分を進呈するといった紹介キャンペーンを実施している。Twitterの広告で力強いスタートを切ったDKピッツバーグ・スポーツは、いまではFacebookの有料広告とモバイルアプリのダウンロードを利用し、購読を促進している。
オーディエンスへの奉仕
新しい会員制スポーツサイトは、読者からの収益拡大という課題を抱えることになる。ほかのサブスクリプション型のパブリッシャー同様、彼らもまた広告支援型の大手既存企業との競合や顧客獲得コスト、解約、そして同業者同士の競争に直面する。彼らのコンテンツフォーマットは、ゲーム後のリアクションのごとく迅速に、競合他社よって簡単に模倣されてしまう。
一番良いのは、彼らが読者に奉仕することで成功する、という形だ。試合後に行われるニュースカンファレンスのペリスコープ(Periscope)やプライベートなポッドキャストへのアクセスを提供するようなサイトは少ないが、ほとんどのサイトがシンプルで上質な中身の濃い特集や解説の執筆に注力している。アスレティックのチーフコンテンツオフィサーのポール・フィッヒテンバウム氏は、同社がすべての記事の下部に一問一答式の専用欄を設け、読者からフィードバックを受けており、それを参考に編集の方向性を決めている、と話す。
「我々の意図はオーディエンスに奉仕することだ。そして、我々は彼らが望むものを知っている」と、フィッヒテンバウム氏はいう。「我々はホットテイクにも、アグリゲーションにも興味がない。動画は、いま我々のレーダーにはひっかかっていない。オーディエンスがそれを求めていないのだ」。
1000人で採算が合う
直接フィードバックを受ける方法は、ほかにもある。ボストン・スポーツ・ジャーナル(Boston Sports Journal)の創設者であるグレッグ・ベダード氏は、キックスターター式のシステムの採用を検討していると話した。そうすれば、ジャーナルのスタッフとニュースを、支払う意思のある人々が十分いるかどうかによって決定することができる。「レボリューション(ボストンのサッカーチーム)のニュースに登録する人が1000人ほど集まれば、採算がとれるだろう」と、ベダード氏は語った。