パフォーマンスに注力する、インフルエンサーマーケの現状 :「いまなおワイルドウエストだ」

ブランドン・ビリンガー氏は、空き時間を利用して、子育てブログ「ルーキーダッド(The Rookie Dad)」を運営している。何百万人というフォロワーがいるわけではない。インスタグラム(Instagram)に1300人ちょっといるだけだ。しかし同氏は、チャーブロイル(Char-Broil)やデイブ・フォー・メン(Dove for Men)、Facebookといったブランドと仕事をしてきた。フォロワー数1万人以下のビリンガー氏は、いわゆる「ナノインフルエンサー」のひとりだ。コラボレーションするインフルエンサーの選択に対して、より微妙なアプローチをブランド各社が取りつつあるいま、インフルエンサーマーケティングの変化から恩恵を受けているのが、ナノインフルエンサーなのだ。

「もはやフォロワー数がすべてではなくなっている」と、ビリンガー氏は語る。「ブランド各社はいまも、『いいね!』をいくつ獲得しているかといった、お決まりの指標に目を向けてはいる。しかし、私が見てきた限りでは、フォロワーが何人いるかということは、もうそれほど気にしていないようだ」。

単にフォロワー数をアピールすれば、インフルエンサーがマーケティング契約を獲得できる時代は過ぎ去った。インフルエンサーマーケティングの効果に対する透明性の向上を求めるマーケターたちは、より多くの指標を用いて、より真剣にインフルエンサーを品定めするようになっている。

インフルエンサーたちは何年ものあいだ、フォロワー数をアピールすれば、ブランドとの契約を獲得できた。その一方で、マーケターたちは成否のトラッキングに苦戦していた。インフルエンサーのフォロワーが投稿に反応したかどうかはわかったが、アフィリエイトマーケティング契約を除けば、どのインフルエンサーが売上の向上に貢献したのかを明らかにするのは難しかった。そしていま、マーケターたちはインフルエンサーマーケティング戦略に対する、より洗練されたアプローチを求めるようになっている。単に一番人気を選ぶという時代の先に進もうとしているのだ。企業とエージェンシー、インフルエンサーはいま、支払い率を決定するためのさまざまな指標(エンゲージメント率や販売数といったパフォーマンスベースの指標はもちろん、投稿に注がれた労力のレベルや、コンテンツの質など)を検討している。

何年も前からインフルエンサーマーケティングに投資してきたマーケター、とくにD2C(Direct to Consumer:直販)ブランドにとっては、そうするのがすでに当たり前になっているかもしれない。しかし、大手消費財ブランドなど、購入経路のトラッキングに苦戦している一部のレガシー企業にとっては、フォロワー数や投稿数を単に考慮することからの脱却は、過去2年間ではじめてのことだった。エージェンシー関係者らによれば、こうした変化はまだ世界標準ではないものの、誰と協働し、どのように報酬を支払えばいいのかを判断すべく、より多くの指標に目を向けるようになっているという風潮は、一般的になりつつあるという。

インフルエンサーエージェンシー、ビレッジマーケティング(Village Marketing)の創業者であるビッキー・シーガー氏は、これに先立つのが、いまなおインフルエンサーに一番人気のアプリだというインスタグラムの、フィード投稿を上回るインスタグラムストーリーズ(Instagram Stories)の台頭だと述べる。およそ10億人がインスタグラムを毎月利用し、5億人がインスタグラムストーリーズを毎日利用している。「インスタグラムストーリーズには、フィードよりもはるかに高いトラッカビリティ(追跡可能性)がある。理由は単純だ。ストーリーズなら、リンクを貼っておけば、閲覧者にスワイプアップしてもらえるからだ」と、シーガー氏は話す。企業各社はこのところ、トラッキングとコンバージョンデータを重視するようになっているという。「クライアントに対しては、我々は現在、取り組みにおけるインスタグラムでの比率を、90%をストーリーズ、5~10%をフィードにしている。購入に関しては、すべてストーリーズに移動させている」。

インフルエンサー契約の選別に用いられる正確な指標は、エージェンシー、インフルエンサー、そして企業によって異なる。とはいえ一般的にいって、フォロワー数と投稿数は、かつてほど上位を占めているわけではない。マーケターは、タレントエージェンシーを介してインフルエンサーと話し合い、投稿ごとのレートについて交渉する一方で、インフルエンサーが注ぐ労力のレベルや、制作するコンテンツのタイプを考慮に入れている。また、エンゲージメント率やCPE(1エンゲージメントあたりのコスト)、一般的にアフィリエイトプログラムを通じて追跡される売上やアクションをインフルエンサーのコンテンツが促進しているかどうかに目を向けるマーケターもいるかもしれない。

「『あのインフルエンサーはフォロワーが50万人いるし、コンテンツも素晴らしい』だけでは、我々は満足しない」と、シーガー氏は語る。「2年前のインフルエンサーマーケティングならそうだったかもしれないが、いまはもう違う。『50万人いるフォロワーのうち、10万人にインスタグラムストーリーズを見てもらいたい。スワイプアップ数やステッカーのタップ数を追跡するし、私のブランドに関するコンバージョン数も追跡する』。これがいまのインフルエンサーマーケティングだ」。

考慮すべき指標の増加

インフルエンサーマーケティングの初期においては、インフルエンサーの投稿に基づく購入意図の追跡は不可能に近かった。インフルエンサーが情報の拡散に貢献していることはマーケターにもわかっていたが、誰と、なぜ協働すべきなのかを明らかにするのは簡単ではなかった。だからこそ、フォロワー数の多いインフルエンサーが成功したのだ。それは数のゲームだった。できるだけ多くの人々の前にメッセージを置くために、フォロワー数のいちばん多いインフルエンサーを見つけるのだ。しかしこれが、ボットを使ったフォロワー詐欺やフェイクエンゲージメントへとつながった。もし数がすべてなら、その数をごまかして、よりいい結果を得ようとしても不思議はない。

初期におけるインフルエンサーマーケティング効果のトラッキングは、多くの場合、アフィリエイトマーケティング契約(売上に結びついた数に基づいて報酬が支払われる)に基づくものだった。こうした売上はリンクやコードを介して追跡され、インフルエンサーには各売上の一部が支払われた。アフィリエイト契約はいまなお健在だが、その一方で、マーケターはほかの指標を使って、従来型のメディアバイを介して行われるインフルエンサーマーケティングを測定できるようになっており、これによって、その状況は変わりつつある。

こうした指標が加わることで、契約はより複雑化した。しかしこれによって、企業(とくに新たなチャネルへの参入に手間取りがちなレガシー企業)にとっては、不透明なインフルエンサーの状況も掴みやすくなりつつある。企業各社はいま、マーケティング予算の観点から、これを「アドオン」ではなく「マスト」と見なすようになっている。今後、契約が変化していけば値付けも変化すると、シーガー氏は語る。CPMにはばらつきがあるが、通常は10ドル(約1080円)前後だという。たとえば、フォロワーが10万人いるインフルエンサーであれば、1投稿あたり1000ドル(約10万8000円)を受け取る計算になる。

「概して、この新たな報酬体系はインフルエンサーとブランド間に透明性の向上をもたらしうる」と、ディジタス(Digitas)でアソシエイトコンテンツディレクターを務めるケン・ハルバックス氏はメールのなかで述べている。「インフルエンサーとの関係においては、測定がしばしば盲点になっている。ブランドやエージェンシーが入手できるのは、インフルエンサーが進んで提供するデータに限られているからだ。もしインフルエンサーがパフォーマンスベースの報酬モデルを進んで受け入れるのであれば、インフルエンサーに関するデータにもっとアクセスできるようになり、その結果、信頼の度合いも上昇する。同様に、インフルエンサーもこの報酬モデルに加わると、その成功にもっと本気で取り組むようになる」。

マーケターがインフルエンサーにこれまで以上にお金をかけるようになると、インフルエンサーの有効性が強調されるようになる。アスパイアIQ(AspireIQ)が先日発表した、インフルエンサーマーケティングの現状に関するレポートによれば、マーケターの84%がインフルエンサーマーケティングを年に1回以上行っており、79%が常時のインフルエンサーマーケティングを計画、または実施しているという。企業各社は今年、マーケティング予算の大部分をインフルエンサーに投じてニュースになっている。そのなかの1社がエスティローダー(Este Lauder)だ。CEOのファブリツィオ・フリーダ氏は今年、同社はマーケティング予算の75%をデジタルとインフルエンサーに投じると語り、トップニュースになった

「従来型メディアやオンラインディスプレイ広告の効果が衰えてきている。その一方で、インフルエンサーマーケティング市場に参入するマーケターが全体的に増えてきている」と、インフルエンサーマーケティングプラットフォーム、アイジア(Izea)の創業者でCEOのテッド・マーフィー氏は述べる。「平均レートは過去5年間、ブログを含むすべてのプラットフォームで上昇している。私が2006年にこの会社を立ち上げたとき、インフルエンサーにはブログ投稿1件につき5~10ドル(約540~1080円)支払っていた。それが、いまは約1400ドル(約15万円)だ」。

ワイルドウエスト

何年ものあいだ、インフルエンサーマーケティングは「ワイルドウエスト(開拓時代のアメリカ西部)」のような役割を果たしてきた。多数のインフルエンサー(AspireIQの調査から、インスタグラムだけで83万987人のインフルエンサーがいることがわかっている)が独自のレートを設定し、フォロワー数や投稿数、その投稿がもたらすであろうリーチに基づく報酬の支払いを、企業やエージェンシーに要求してきた。そのため、インフルエンサーへの支払い方法の基準を定めることは難しかった。いまなおワイルドウエストだと、エージェンシー関係者らは言っているが、考慮すべき指標の増加により、何に金を払っているのか、それが成果を挙げているのかといったことを、マーケターが把握しやすくなっている。

とはいえ、インフルエンサーマーケティングが、ほかのマーケティングチャネルに比べると、標準化からはほど遠いことも確かだ。

「わずかな経験で、この市場に飛び込む人々やブランドが後を絶たない。彼らの専門知識の欠如が起こす波紋が、こちらにもひしひしと伝わってきている」と、360iのプレジデントであるアビー・クラーセン氏はメールのなかで述べている。「たとえば、経験の浅い一部の交渉担当者は、インフルエンサーに報酬を払いすぎている。そうなると、それに続くのは、我々の業界全体に対するオフセットレート(値上げの圧力)だ」。

インフルエンサーマーケティングの標準化に関する問題のひとつは、それがエージェンシー内のどこに位置しているのか、どんなエージェンシー(PRなのか、デジタルなのか、ソーシャルなのか、メディアなのか)がクライアントに向けてインフルエンサーマーケティングを行なっているのか、専門の各エージェンシーと個別にインフルエンサーマーケティングについて検討することをクライアントが望んでいるのかどうか、といったことが、はっきりしないという点だ。「いろんなものが散乱している状態だ」と、インフルエンサーエージェンシーのスウェイ(Sway)でCEOを務めるダニエル・ワイリー氏は語る。

「いまなお、まさにワイルドウエストだ。とくに情報開示と支払いに関しては」と、マーフィー氏は述べている。「依然として、大小さまざまなブランドによる不正なインフルエンサーマーケティングが横行している。インフルエンサーマーケティングプラットフォームはコンプライアンスツールや自動化に投資してきたが、多くのエージェンシーが情報開示や透明性に関する米連邦取引委員会のガイドラインをあからさまに無視している。我々が行なったインフルエンサーに関する最新の調査では、インフルエンサーの28%が、スポンサードポストを開示しないようにマーケターから求められたことがあると回答している」。

エージェンシー関係者らは、インフルエンサーマーケティングの状況は今後も変化し続けていくと予想している。TikTok(ティックトック)の台頭により、マーケターの目に映るインフルエンサーマーケティングは今後1年間でよりいっそう不透明感を増すと、彼らは考えている。その一方で、登場が待ち望まれるインスタグラムのソーシャルコマース機能など、プラットフォームの新機能によって、マーケターの仕事は楽になると考えている人々もいる。

「(こうした新機能が)インフルエンサーコミュニティ全体にロールアウトされれば、状況は一変し、根本的な変化をもたらすだろう」と、クラーセン氏は述べている。「アフィリエイトネットワークそのものが時代遅れになるかもしれない。データへのこの新たなアクセスにより、歩合制のパートナーシップが従来型のインフルエンサーマーケティングエージェンシーやブランドのスタンダードになるかもしれない」。

Kristina Monllos (原文 / 訳:ガリレオ)