2017年、多くの期待を集めてローンチされた ads.txt。その目的は、パブリッシャーが承認していない広告在庫販売やドメインスプーフィングといったアドフラウド(広告詐欺)に対抗することだった。しかし、ads.txが抱える大きな欠陥が最近のフラウド業者のターゲットになっているという事実が明らかになった。
ads.txt ファイルが正しく施行されているかどうか、パブリッシャーたちの戦いは継続中だ。
2017年、多くの期待を集めてローンチされた ads.txt。その目的は、パブリッシャーが承認していない広告在庫販売やドメインスプーフィングといったアドフラウド(広告詐欺)に対抗することだった。しかし、2月の第2週、ダブルベリファイ(DoubleVerify)は、ads.txが抱える大きな欠陥が最近のフラウド業者のターゲットになっているという事実を明らかにした。
パブリッシャーたちはこのニュースを受けて不安を持っているものの、驚いてはいない。バイイング側も責任を果たすように呼びかけている。
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ads.txt の現実
「アドフラウドに対抗するために歓迎された措置が ads.txt だったが、現実にはデザイン上の不透明性によって歪められたマーケットが抱える症状を絆創膏で治療しようとしているだけだ」と、ガーディアン(The Guardian)の最高収益責任者であるハミッシュ・ニックリン氏は言う。「より根本的に透明なシステムが存在しない限りは、アドフラウドや悪い慣習は存在し続けるだろう。バイヤーとセラーがプログラマティックに関して透明性の高い証明システムを通じて取引をすれば解決するかもしれない」。
取材に応じてくれたパブリッシャーの情報源によると、ads.txt はフラウド行為の量を抑制する助けにはなったと考えられているようだ。導入されて以来、在庫を誰が再販売しているのかパブリッシャーが監視する力は強くなったと、例を挙げて説明してくれた。ads.txt が導入されたときには、まったく知らない企業から ads.txt ファイルに追加して欲しいというリクエストが1日に5件は来るようになったと、とあるデジタル・メディア・パブリッシャーは語る。いまではその数は1週間に1件に減ったという。「私たちの在庫を再販してサヤ取りをしようとする会社が主だった。会社の素性が判らない限りは、こういったリクエストはすべて無視した。また素性が分かる会社であることは非常に少ない」。
ads.txt をサポートする在庫から購入すると公言するエージェンシーの数は増えている。しかし、ads.txt をサポートしている在庫のみを購入しているのが実際にどれくらいかという点では、パブリッシャーたちは懐疑的だ。実践すると、購入できる量が理論上は減ってしまうからだと、取材に応えてくれたパブリッシャーの情報源は回答した。昨年10月、DIGIDAYリサーチは、アメリカにおいて ads.txt を導入しているパブリッシャーの数と ads.txt の在庫のみを購入するエージェンシーの数には、大きな差があると明らかにした。
「パブリッシャーの誰が ads.txt を導入していて、バイイング側の誰がそれを採用しているかを比べたら面白い結果になるだろう」と語ったのは、英国の新聞企業のエグゼクティブのひとりだ。バイイングのスケールが抑えられてしまうため、この方法( ads.txt の在庫のみを購入する)は行っていないと認めたエージェンシーがいくつかあると彼は言った。「バイイングとセリングが両方揃って取り組んでいるという目標に関して、まだまだ先は長いと示唆している。これは私にとっても悩みのタネだ」。
効果を高めるために
しかし、エージェンシーのなかには ads.txt の在庫のみを購入するという点に関して、強硬なところもある。エッセンス(Essence)のEMEAプログラマティック部門責任者であるマット・マクインター氏は、「我々が活用するサプライチェーンにおける自信を増すために、未承認のセラーからのプログラマティック購入をすべて排除することができるDSPだけを使うと、明確な判断を下している」と語った。電通イージス(Dentsu Aegis)のプログラマティック・アクティベーション部門責任者であるサイモン・ハリス氏は先週、ひとつの記事を投稿した。エージェンシーやパブリッシャーたちに対して、ads.txt をいかに最大限活用するかを伝える内容だった。そこでは在庫スケールの問題についても言及されていた。
フラウド行為を解決するための万能薬が存在しないことは、経験のあるデジタルマーケターやパブリッシャーであれば理解していることだ。しかし、ads.txt がその効果を少しでも高めるためには両方からの努力が必要だと、パブリッシャーやエージェンシーの情報源たちは語った。「(パブリッシャーたち)は特に再販をするサプライサイド・プラットフォーム(SSP)のパートナーたちの、取引に参加する業者の審査や収益提供に関する責任を追求すべきだ」と、マクインター氏は言う。
フラウド対策を研究するオーガスティン・フー氏によると、必要な努力はほとんどがバイイング側にあるとのことだ。ドメインの名前を越えた範囲までバイヤーたちが詳細に審査しない限りは、ads.txt を悪用したフラウド行為は続くだろうと、彼は考える。誠実なパブリッシャーのドメイン名がads.txt ファイルに現れたとしても、セラーIDを偽るよりもドメイン名を偽ることのほうが簡単である以上、それはフラウド業者である可能性はある。「エージェンシーたちはDSPにセラーIDをレポートに含めるように要求する必要がある。今日の(広告配置)レポートではドメイン名しか表示されない。これでは本物と偽物が混ざってしまい区別することができない。セラーIDが表示され、ドメインの ads.txt に沿って正しいIDかを確認できれば料金を誰が受け取ったかを証明できる」と、彼は言う。
ads.txt ファイルにどの会社が含まれるか、DSPとエージェンシー・バイヤーたちがしっかりと審査していることの証明をパブリッシャーたちは求めている。「 ads.txt を回避する方法はたくさん存在する。パブリッシャー側だけではこのフラウド行為を回避することはまずできない」と、大手新聞パブリッシャーのエグゼクティブのひとりは語ってくれた。「DSPに、アカウント番号やセキュリティIDにより注意を払ってもらう必要がある。そしてSSPに対しても、パートナーとして誰を含むかを厳しく選んでもらう必要がある」。
次の未来に向けて
エージェンシーたちが推し進めている ads.txt の次世代版に ads.cert というものがある。これを活用すれば、理論上は在庫をスプーフィングしたり、パブリッシャーからの承認無しに再販売することが難しくなる。しかし業界で広く採用されるまでは時間がかかるだろう。リアルタイム入札フレームワークの次世代バージョンの一部としてやって来るからだ。
そのため、フラウド行為を取り締まるための努力は継続されなければいけない。業界団体である信頼できる説明責任グループ(Trustworthy Accountability Group:以下TAG)は、2月12日にひとつのプログラムをローンチした。ヨーロッパの海賊サイトで自分たちの広告が流れた場合に広告主やエージェンシーたちに通知が行くというものだ。プログラムはプロジェクト・ブランド・インテグリティ(Project Brand Integrity)と呼ばれ、違法な、盗まれたコンテンツとブランドが関連してしまうことを防ぐことが目的となっている。アメリカでも同様の取り組みは行われてきた。それによって海賊版コンテンツサイトにおけるインプレッション数は2年間で90%以上削減された。TAGによると、その結果、海賊サイトにおけるプレミアムブランド広告主による広告は、すべて削除されたとのことだ。
TAGは、海賊行為対策ソフトウェアのベンダーであるホワイトブレット(WhiteBullet)に、違反行為を行うサイトにおける広告のモニタリングと記録を委託している。TAGはその情報を広告主とエージェンシーへと伝える。
ロンドン市警察知的財産犯罪部門とユーロポールはこのプログラムの啓発を行い、遵守するブランドやエージェンシーのサポートとなるとのことだ。ロンドンの担当部門は長年に渡って、広告主やパブリッシャーの業界団体と協力して海賊サイトが広告主の気付いていない所で得る広告収入を削減しようと取り組んできた。その結果、2016年に開始されて以来、1800以上の海賊サイトが閉鎖されたと、彼らは発表している。
Jessica Davies(原文 / 訳:塚本 紺)