スポーツ専門「サブスク商品」を作る、米・地方紙らの試み

新聞社の多くがデジタルのサブスクリプションサービスを展開するようになってしばらく経つ。各社の次の課題は、独立したサブスク商品を長期的収益に結びつけることだ。

アスレティック(The Athletic)が成功し、スポーツファンは有料であってもスポーツ報道を欲していることが判明した。これを受けて、スポーツ報道を独立したサブスク商品として展開する新聞社が増えている。スポーツ限定のサブスクは全体版よりも低価格に設定されており、スポーツニュースを一般報道に頼っていたスポーツファンなどから支持を集めているのだ。同分野に参入しているのはハースト(Hearst)やマクラッチー(McClatchy)、ダラス・モーニングニュース(The Dallas Morning News)などだけでなく、2018年に創設したデイリー・メンフィアン(Daily Memphian)といった新しいパブリッシャーも参入している。

たとえば、マクラッチーはスポーツパス(SportsPass)という商品を2018年8月にローンチしており、現在同社が抱える30市場のうち10市場で展開している。スポーツパスは現在、各市場のスポーツコンテンツに30ドル(約3200円)で無制限にアクセスできる商品が中心となっているが、同社は同コンテンツのさらなる拡張を検討している段階だ。マイアミ・ヘラルド(Miami Herald)でマネージングディレクターを務めるリック・ヒルシュ氏によると、同社はたとえば記者による電話インタビューのFacebook独占生放送などを検討しているという。

「独占コンテンツを加入者に提供していきたい。スポーツの内情に本当に意味で踏み込むような体験だ」と、同氏は語る。

新規獲得は自社チャネルで

スポーツのデジタル商品は全体版よりも大幅に安い場合が大半だ。そのため、たとえばアスレティック(The Athletic)のカスタマー獲得にとって極めて重要な役割を演じてきたFacebookといったプラットフォームで加入者を募るのが難しくなっている。

代わりに従来のニュースパブリッシャーは、新規カスタマーを集めるためにペイウォールやメールといった自社ツールやチャネルを用いている場合が多い。

来月にはダラス・モーニングニュースのウェブサイトが動的なメーター制課金を導入する。同社は傾向モデルを活用してスポーツ関連の2商品、スポーツデイHS(SportsDay HS)とスポーツデイ(SportsDay)の潜在顧客を特定し、より安価なペイウォールを適用する予定だ。

ダラス・モーニングニュースは2017年にスポーツデイHSをローンチした。同社のデジタルマーケティング運用およびエンゲージメント部門のディレクターを務めるマーク・フランセスクッティ氏によると、それ以降、スポーツ系サブスク2商品だけでペイウォールコンテンツを閲覧した全オーディエンスの3分の1を占めているという。また、高校スポーツをあつかうスポーツデイHSの方が若干オーディエンス数は多いとのことだ。(具体的な加入者数については、フランセスクッティ氏は明かしていない)。

アスレティックの優位性

新聞社が地元のスポーツを報道するサブスクコンテンツを作るにあたって、基本的にアスレティックとの競合は避けて通れない。ベンチャーデータベースのクランチベース(Crunchbase)によると、アスレティックはVCから8950万ドル(約96.5億円)を調達しており、多数の市場において人気の高いスポーツ分野のトップ記者をすでに雇用している。2017年のニューヨーク・タイムズ(The New York Times)のインタビューで、アスレティックの共同創設者、アレックス・マザー氏は戦略について率直に次のように明かしている。

「地元紙がすべて撤退するまで待つ。彼らは赤字を垂れ流し、我が社が最後まで生き残るだろう」と、同氏は語り、次のようにも述べている。「常に地元紙の最高クラスの人材を引き抜こうと試みている。彼らの事業は極めて厳しいものになるだろう」。

競争は今後さらに激化する見込みだ。今年2月に米ヤフースポーツ(Yahoo Sports)はMLBチームのニューヨーク・メッツ(New York Mets)と提携した有料のデジタルサブスク商品、クイーンズ・ベースボール・クラブ(Queens Baseball Club)のローンチを発表している。米ヤフースポーツはMLBとNBAとのフランチャイズ契約による複数商品を展開していく予定で、同商品はそのさきがけだ。

ユーザー体験も大きな焦点

新聞社もポッドキャストなど、新しいコンテンツによる加入者増加を試みてきた。またさまざまな独占コンテンツが登場し、加入者増へとつながっている。フランセスクッティ氏によると、たとえばスポーツデイHSの加入者増に貢献している主要コンテンツは、選手やチームの成績情報やスケジュール、スコア、ランキングなどだという。

パブリッシャーがサブスクしか提供していない企業と比べて不利なのが、ユーザー体験だ。たとえば、アスレティックは一切の広告を排除している。

ライオン・パブス(LION Pubs)のエグゼクティブディレクター、クリス・クルーソン氏は「パブリッシャーのウェブサイトは、カスタマーのことだけを考えて構築されているわけではない」と、指摘する。「実験は良いことだし、収益としても追求すべきなのは間違いない。だがカスタマーを前面に押し出さない限り、その効果は限定的になってしまうだろう」。

またパブリッシャーは販促や割引についても慎重に検討する必要がある。たとえば、ダラス・モーニングニュースのスポーツデイで一番人気の販促は、特定チームや選手との関連商品だ。最近同社は年間41ドル(4400円)のサブスク商品を提供したが、これはMBAチーム、ダラス・マーベリックスの元スター選手でキャリアを通じて背番号41を背負ったダーク・ノビツキー氏にちなんでいる(ノビツキー氏は今年春に現役を引退している)。

マクラッチーの成功事例

マクラッチーのデジタルオーディエンス開発担当バイスプレジデントを務めるグラント・ビレア氏は、今年前半に行われた米DIGIDAYのイベントでスポーツパスは10市場で合計で「数千」の加入者を獲得していると明かしている。獲得した加入者の大半はメーター制課金に加入しているという。

スポーツシーズンの開幕が近づいていることが、マクラッチーのサブスクの更新にも良い影響を及ぼすと考えられている。たとえばマイアミ・ヘラルドでは、昨年のNFLシーズンが開幕する8月前に大量の加入者を獲得している。ヒルシュ氏はこれについて「アメフトのシーズンがはじまる8月は、敗者が生まれない時期だ」と表現している。

Max Willens(原文 / 訳:SI Japan)