現在、非白人の美容インフルエンサー兼クリエイターは大勢いる。彼女らはようやく、美容業界のさまざまな企業から目を向けられ、イメージキャラクターとして起用されようになった。南アジア系、中東系、混血の美容クリエイターは、東アジア系のインフルエンサーに続き、最近になってその需要が急増している。
美容業界のクリエイター兼インフルエンサーのディピカ・ムティヤラ氏がYouTubeで動画を公開しはじめたのは、3年近く前のことだ。その目的は、美容に関するアドバイスやヒントを南アジアの女性たちに提供することだった。
「私のような見た目の南アジア人女性にとって、この市場には欠けているものがあると考えた」と彼女はいう。ムティヤラ氏の読みは正しかった。彼女は当時、褐色の肌の女性が赤い口紅を使って目の下のくまを目立たなくする方法を説明した動画を投稿し、1060万以上のビューを獲得したのだ。それ以来、彼女が獲得したソーシャルリーチの数は、さまざまなプラットフォームを合わせると35万を超えている。
現在、ムティヤラ氏のような非白人の美容インフルエンサー兼クリエイターは大勢いる。彼女らはようやく、美容業界のさまざまな企業から目を向けられ、イメージキャラクターとして起用されようになったのだ。南アジア系、中東系、混血の美容クリエイターは、東アジア系のインフルエンサーに続き、最近になってその需要が急増している。これには、化粧品やスキンケア製品のメーカーが肌の色合いや濃淡に言及することが普通になりつつある状況も大いに関係している。
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バングラデシュ系アメリカ人のインフルエンサー、ナデラ・ヌール氏も、こうしたトレンドを象徴する1人だ。彼女は最近、老舗のスキンケアプランド、オーレイ(Olay)と「フェイスエニシング(Face Anything)」キャンペーンで提携し、ニューヨーク・コレクション(New York Fashion Week)で同ブランドのステージに出演した。ヒジャーブを着用するスーダン系アメリカ人インフルエンサー、シャード・バタル氏も、ナチュラルヘアやナチュラルメイクに関するビデオブログを定期的に公開し、YouTubeで20万人の登録ユーザーを獲得。また、ボビイブラウン(Bobbi Brown)やトゥフェイス(Too Faced)といった化粧品ブランドと提携している。もちろん、美容インフルエンサーから有名企業家となったフーダ・カタン氏も忘れてはならない。彼女が設立したフーダ・ビューティ(Huda Beauty)は10億ドル(約1120億円)の企業価値があるとフォーブス(Forbes)は報じている。
インスタグラムの影響力
インスタグラム(Instagram)はこのトレンドを実感している。その原因は、フェンティ(Fenty)のような美容ブランドの成功だけにあるのではない。「インスタグラムの優れた点はインクルーシブ(包括的)なコミュニティであることだ」と、インスタグラムでファッションパートナーシップ担当ディレクターを務めるエバ・チェン氏はいう。「あなたが15歳で、どこかの小さな町に住んでいて、『私のような見た目の人は誰もいない』と考えていたとしよう。それでもあなたは、見た目や住んでいる場所にかかわらず、自分と同じような人を(インスタグラムで)見つけることができるのだ」。
カタン氏もこの意見に同意する。「ソーシャルメディアは、『美しさ』に対する我々の固定観念を間違いなく破壊している。いまの時代、人々は非常に多くの異なる美に触れている。いろいろなチャネルが、色、形、サイズが大きく異なるさまざまな種類の美を支持し、養護するために利用されているのだ」と、彼女は語った。
バングラデシュ人やムスリムのことをよく話題にするヌール氏は、見合い結婚に強く反対し、異人種間の結婚を支持し、ネットいじめを批判しながら、美容に関するアドバイスを提供している。そんな彼女にとって、美容ブランドが語りかける相手やその方法を変える動きは、いままさに進行中の出来事だ。「我々は長いあいだ、多様性と包括性を実現する責任をファッション業界に押し付けていた。だが実際には、美容業界とその業界にいるCEOや創設者が、少年や少女の、そして大人の男性や女性の美に対する考え方を形作っていたのだ」と、彼女はいう。
「我々は、恐れることなく生きる道を選んだ女性たちを応援したい。あなたはこういう人だとかそういう人だなどとレッテルを貼るようなことはしたくないのだ」と、オーレイの北米担当シニアマネージャーで、ヌール氏を起用したサラ・ディーペンブロック氏は述べている。
美を定義する存在
こうしたトレンドは、プロクター・アンド・ギャンブル(The Procter & Gamble)の社内調査でも明らかに見られるものだ。同社によれば、ソーシャルメディアが美を定義していると答えた女性の割合が84%に達していたという。したがって、ヌール氏が抱える100万人のインスタグラムフォロワーと58万5000人を超えるYouTube登録ユーザーが、オーレイにとって魅力的だったことは間違いない。「彼女のオーディエンスは、彼女が語ることを信用しており、彼女はあらゆる女性にとって、自分がなれるかもしれない女性像を体現する存在だ」と、ディーペンブロック氏は話す。「それが私たちの狙いだった」。
ヌール氏は、オーレイブランドに関心を抱く人を増やす役割も果たしている。ヌール氏は9月、ニューヨーク・コレクションでのオーレイのショーの動画をシェアしたが、その投稿は21万2000ビューを獲得した。一方、同じプラットフォームでオーレイのフォロワーは13万9000人にとどまっている。オーレイは具体的な数字を明らかにしていないが、「新たな女性が私たちのブランドにエンゲージしはじめている」とディーペンブロック氏は語っている。
エージェンシー各社も、オーレイが求めているような多様性の拡大に関する意識と関心が、最近になって高まっていることに気づいている。タレントの管理や採用を手がけるソーシャライト(Socialyte)では、アイリーン・カーン氏、タニア・サリン氏、ウェンディー・グエン氏などさまざまな人種のコンテンツクリエイターを登録しており、非白人の割合は75%に達している。だが、特に肌の色合いに関して多様性や包括性が求められるようになったのはごく最近のことだと、同社のプレジデント、ベカ・アレクサンダー氏はいう。
「ブランドはかつて、キャンペーンに起用する人のうちひとりを非白人のインフルエンサーかクリエイターにするよう求めていただけだったが、いまではその数をもっと増やしたいと考えている」と、彼女はいう。「黒人女性をひとり起用すれば多様性を打ち出したキャンペーンとみなされるといったような、汎用的なアプローチはもはや存在しない。うわべだけの平等主義は通用しなくなっているのだ」。
経済的トレンドとも同調
こうした動きは、より大きな経済的トレンドと歩みを一にしている。セリグ経済成長研究センター(Selig Center for Economic Growth)が2017年に発表した多文化経済レポートによれば、黒人、アジア人、アメリカ先住民の購買力をすべて合わせた金額は、2016年の時点で推定2兆2000億ドル(約246兆円)で、2000年から138%増加したという。実際、マイノリティーは米国で購買力をもっとも急速に拡大しているグループだ。
この状況がビジネスチャンスであることは間違いない。動画広告とインサイトのプラットフォームを提供するピクサビリティ(Pixability)によれば、美容ブランドがYouTubeで多様性を強調する動きはますます拡大しているという。2017年には、美容ブランドの動画のうち、非白人のセレブ、モデル、メイクアップアーティストを起用した動画の割合は20%を超えていた。2018年には、25%の動画が非白人のインフルエンサーやセレブを起用したものになると見られている。
アレクサンダー氏によれば、こうしたトレンドをよく示しているのが、ソーシャルライトがある匿名の高級美容ブランドとともに取り組んだファンデーションキャンペーンだったという。そのクライアントは、「肌の色の濃いさまざまなインフルエンサーを起用して、より多くの濃色系の製品を提案したい」というものだった。そこで、半年にわたって人選を進め、拡充された濃色系のファンデーションの色とモデルの肌の色がマッチするようにした。その結果、アフリカ系、パレスチナ系、混血(アフリカ人とアメリカ人、アメリカ先住民とフィリピン人、パレスチナ人とプエルトリコ人など)をはじめ、多様な人種の人々が選ばれたという。
従来のやり方の終焉
「美容業界は変化し、聞く耳をもつようになっている。(ごく最近まで)私のような女性は、彼らの目にも耳にも入っていなかった」とヌール氏はいう。彼女は、トゥフェイスやタルト・コスメティックス(Tarte Cosmetics)といった美容ブランドとも仕事をしている。8月には、フィリピン人インフルエンサーのハート・ディフェンサー氏やソマリア人インフルエンサーのオソブ氏とともに、タルトのファンデーションシリーズ「アマゾニアンクレイ(Amazonian Clay)」の顔として起用された。「私にとっては、インターネット上に存在していること自体が活動になる」と彼女はいう。「なぜなら、褐色の肌の少女、プラスサイズの少女、ムスリムの少女の存在を見せることがとても重要だからだ。私たちがここにいるということを」。
バタル氏もこうした考え方に同意する。「いままでのやり方ではもはやうまくいかない」と、彼女はいう。「私は文字どおり、普通のムスリムの黒人女性として、ソーシャルメディア上で自らの生活をシェアしている。その大きな理由は、自分自身の物語を作り、若い少女たちにどんなことでもできると感じてもらいたいからだ。たとえ彼女たちの見た目が、ほかの少女たちと違っていても」と、バタル氏は語った。
Priya Rao(原文 / 訳:ガリレオ)