メディア業界では、寄稿者(コントリビューター)ネットワークが流行っては廃れる。しかし、インフルエンサーマーケティングが流行し、パブリッシャーが自らのプロパティでのエンゲージメントを高める方法を模索するなか、影響力のある有名寄稿者が再び求められており、企業やニュースパブリッシャーでは新しい役職も生まれている。
メディア業界では、寄稿者(コントリビューター)ネットワークが流行っては廃れる。しかし、インフルエンサーマーケティングが流行し、パブリッシャーが自らのプロパティでのエンゲージメントを高める方法を模索するなか、影響力のある有名寄稿者が再び求められており、企業やニュースパブリッシャーでは新しい役職も生まれている。
Quartz(クオーツ)は5人から成る「Quartzプロ・コミッティ(Pro Committee)」を持つ。このチームの役割は、Quartzのモバイルアプリに見解や解説を寄稿する人を探し、勧誘することだ。ワシントン・ポスト(The Washington Post)の「WPブランドスタジオ(WP BrandStudio」は最近、企業幹部や専門家、権威者を集め、ネットワークを構築する人材を雇った。このネットワークは「コレクティブ(Collective)」と呼ばれ、ブランドスタジオのコンテンツの作成、配信に協力する。ニュースパブリッシャーであるAxios(アクシオス)には、「エキスパート・ボイシーズ(Expert Voices)」に参加するサブジェクト・マター・エキスパート(Subject Matter Expert:SME)を勧誘・管理するフルタイムの従業員が2人いる。エキスパート・ボイシーズは1年前に立ち上げられた招待制の寄稿者ネットワークだ。
肩書は異なり、パブリッシャー組織のさまざまな部署に存在するものの、これらの人材の役割はおおむね同じ。影響力のある人を探し、パブリッシャーの活動範囲に投入し、パブリッシャーとライター双方が恩恵を得られる共生関係を築くことだ。
Advertisement
購読者の獲得のために
オーディエンス開発コンサルタントのミーナ・シルベンガダム氏は「より洗練されたインフルエンサー戦略だ」と話す。「単なるあからさまなマーケティングではなく、人々が本当に製品と関わっていることを証明しようとしている。皆がエンゲージメントや対話を重視しはじめており、『どうすれば読者に価値をもたらすことができるのだろう?』と自問している」。
高いレベルでは、こうした新たな役割はオーディエンス開発やコミュニティ管理の部類に入る。かつてパブリッシャーはこれらについて、Facebookをはじめとするサードパーティのプラットフォームでのエンゲージメントを高める手段と捉えていた。
しかし最近、パブリッシャーはむしろ、自社のプロパティにオーディエンスを引き込むことに関心を持っている。インフォメーション(The Information)などのパブリッシャーはすでに、高名な人物による鋭い解説がコミュニティの構築、さらには、購読者の獲得へとつながることに気付いている。
Quartzプロ・コミッティ
だからこそQuartzには、毎週アプリ上で会話に参加するQuartzプロが70人近くもいるのだ。Quartzプロ・コミッティの5人はモバイルアプリの中と外で、共有されたニュースに関する会話を良い方向へと導いてくれるであろう人物を探している。チームは月に一度ミーティングを開き、Quartzプロの候補者について話し合っている。
Quartzプロはリチャード・ブランソン氏からロジャー・マクナミー氏まで、各分野の有名人や成功者で構成され、彼らのなかでの知名度を上げるチャンスを与えられている。Quartzプロの解説はアプリのトップに表示され、Quartzのコミュニティチームがプロたちに、参加しやすいと思われる記事やディスカッションのリンクを定期的に送る。
Quartzのアプリでほかのプラットフォームよりはるかに多くのオーディエンスを構築したプロもいる。たとえば、スタンフォード大学の政治学教授フィリップ・リプシー氏はQuartzアプリで7万5000のフォロワーを獲得しているが、Twitterのフォロワー数は1400だ。ベンチャーキャピタリストのアリソン・バウム氏はQuartzアプリで9万3000人以上から支持を得ているが、TwitterとMediumのフォロワー数は合わせて1200人だ。
WPブランドスタジオ
パブリッシャーはこうしたインフルエンサーに時間と労力の対価を支払っていないため、より大きなプラットフォームのオファーは十分に良いものであるべきだ。ある意味、パブリッシャーの編集作業に対する敬意のようなものだ。Axiosのコミュニケーションマネージャー、ミーガン・スウィアトコウスキー氏は「いつか彼らを情報源として使う可能性があるため、報酬を支払うことはない」と話す。また、大手プラットフォームへの参加はある意味、有償の仕事というよりブランド構築の機会と位置づけられている。
WPブランドスタジオを率いるアニー・グラナットスタイン氏は「パネルディスカッションの司会を務めたい理由と記事を寄稿したい理由は同じだ」と説明する。
45人から成る専門家グループであるコレクティブの場合、ブランドスタジオがクライアントのために作ろうとしているものについて、専門家は助言から制作への直接参加まで何でもできる。ブランドスタジオに送られてくる提案依頼書、ワシントン・ポストが専門知識の確立を目指すテーマなどを基準に、コレクティブの責任者が専門家の人選を行う。
インフルエンサーと同等
エッセンス(Essence)の北米VPとしてメディア・アクティベーションを担当するジーラ・ウィレンスキー氏によれば、影響力のあるオーディエンスを誇示することは、広告主に印象を残したい新興メディア・プロパティの助けになるという。特に、ほかのプラットフォームで多くのフォロワーを獲得している人物の場合、識者はインフルエンサーマーケティング戦略と同等の効果があると、ウィレンスキー氏は話す。
ただし、長期的に見ると、影響力のある読者を得ることは、広告代理店が顧客の予算をどこに投じるかをそれほど左右しないようだ。このことについてウィレンスキー氏に質問してみたところ、「有名ブランドにとっては、おそらく答えはノーだろう」という答えが返ってきた。「ターゲットオーディエンスのデータの方が重要だ」と同氏は語った。
Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)