新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、多くのパブリッシャーがポッドキャスト制作に投資しているが、音声メディアもまた、現在の経済状況がこの業界全体に及ぼす圧力と無縁ではいられない。だが、パブリッシャーが手掛けるポッドキャスト事業は、明るい話題になる可能性がある。
メディア業界では多くの企業がレイオフや採用減を発表するなど、厳しい冬を迎えている。新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、多くのパブリッシャーがポッドキャスト制作に投資しているが、音声メディアもまた、現在の経済状況がこの業界全体に及ぼす圧力と無縁ではいられない。
だがパブリッシャーが手掛けるポッドキャスト事業は、明るい話題になる可能性がある。メディアエンターテインメント企業のアイハートメディア(iHeartMedia)、テンダーフットTV(Tenderfoot TV)、日刊紙のニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)などの企業が、ポッドキャストはこの苦境のなかでも成長できるメディアであると考え、担当チームを拡充している。
ロイター・ジャーナリズム研究所(Reuters Institute for the Study of Journalism)が2023年1月10日に発表した年次報告書「ジャーナリズム・メディア・テクノロジー動向予測調査2023」(Journalism, Media, and Technology Trends and Predictions 2023)によると、300人を超えるメディア業界のリーダーたちに「2023年に前年よりも多くのリソースを投入する分野は何か」と尋ねたところ、72%がポッドキャストとデジタルオーディオにもっとも注力すると回答したという。
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ポッドキャストチームの縮小
2020年12月以降、ポッドキャストの求人は2022年5月にピークを迎えた(求人情報サイト「Indeed」[インディード]調べ)。求人内容に「ポッドキャスト」という言葉が含まれる求人件数は、2020年12月には262件だったが、2022年5月には442件になった(総求人数100万件あたり)。しかし、2022年夏以降は求人数が減少し、同年12月には307件にまで落ち込んだ。前月比でもっとも下げ幅が大きかったのは6月から7月にかけてで、416件から343件まで減少している。Indeedのサイトでタイトルに「ポッドキャスト」が含まれる求人数も同様に減少し、2022年5月の21件をピークに、12月には14件となっている。
総合情報サービスのブルームバーグ(Bloomberg)やバルチャー(Vulture)のレポートでもとくに、衛星放送会社のシリウスXM(SiriusXM)、音楽配信サービスのSpotify(スポティファイ)およびその傘下のギムレットメディア(Gimlet Media)とパーカストスタジオ(Parcast studios)、ポッドキャスト配信のエーキャスト(Acast)、CNN、NPRといった大きな組織におけるポッドキャストチームの縮小について触れている。
このところのレイオフを経験した企業は、慎重なアプローチをとっているようだ。メディア企業インサイダー(Insider)とヴァイスメディアグループ(Vice Media Group)の求人ポータルサイトによれば、現時点ではオーディオメディアやポッドキャストの求人はない。CNNのポータルにはポッドキャスト部門の求人が1件掲載されているが、これはシニアレベルのもので、給与範囲が18万3000ドル(約2370万円)から34万700ドル(約4430万円)のオーディオ・エグゼクティブプロデューサーについての募集だ。
メディア企業ベッチェス・メディア(Betches Media)のCROであるデビッド・スピーゲル氏は、ここ数年盛んに行われているポッドキャスト事業への投資は「派手な浪費」だとしている。「実際のところ、これらの投資のどれひとつとしてほんとうに必要なリターンを上げていない」と同氏はいう。「今は金利が上昇し、経済は少々不透明で、広告市場もやや不安定。だからこそ、わざわざ200万ドル(約2億6000万円)もの費用をかけて何かに手を出すべきではないのかもしれない。今の時代の流れとして、こういうビジネスはもう少し賢くなければならない。経済がこんな状態のときには、誰だってそうあらねばと思う」。
アイハートメディア・デジタルオーディオグループ(iHeartMedia Digital Audio Group)のCEOであるコーナル・バーン氏は、「ポッドキャストを採算度外視でやっている企業とそうでない企業の間には歴然とした差があり、今後もそれは続く」といい、「2023年は、収益を上げている企業に大きな注目が集まるだろう」と付け加えた(2022年第3四半期の同グループの収益は2億5400万ドル[約330億2000万円]で、前年比23%増。ポッドキャストによる収益は前年比42%増の9100万ドル[約118億円]、調整後EBITDAは17%増の7万8317ドル[約1019万円]だった)。
パブリッシャーは、依然としてポッドキャストの成長に期待
バーン氏によれば、アイハートメディアは現在も人材採用を続けているという。ポッドキャスト業界が縮小しているという最近の報道について質問された同氏は、「そうした報道には少々困惑している」と答えた。「われわれがとらえている現実とはまったくかけ離れているという印象だ」と述べ、「採用活動の減速はない。まだ成長は続いているし、その成長を支えていく」と付け加えた。
より小規模のメディア企業も、2023年は事業を拡大する計画だ。テンダーフットTVの共同設立者でありプレジデントのドナルド・オルブライト氏によれば、同社はこの3カ月でプロデューサー、エディター、マーケティングおよびリサーチ担当者など6人を新たに採用し、さらに今後数カ月の間にさらに1~2人を雇う予定だという。テンダーフットTVと、別のあるメディア企業(その幹部は匿名を条件に情報の共有に同意した)は、2023年はポッドキャストの配信を2倍にする計画だといい、また後者企業の幹部はそれらの新しい番組に対応する目的でスタッフを増員する予定だと話している。「スピードを緩めるつもりはない」とオルブライト氏はいう。
2023年1月、多くのメディア企業がポッドキャスト関連の新規求人情報を掲載した。たとえばボックス・メディア(Vox Media)は1月第二週、同社が毎日配信している番組「Today Explained」を担当する給与20万ドル超(約2600万円超)のエグゼクティブプロデューサー職の求人を掲載した。
老舗パブリッシャーも音声メディアに力を入れる
ニューヨーク・タイムズやウォールストリート・ジャーナルといった老舗パブリッシャーも、オーディオメディア担当チームを増強している。1月第二週、ニューヨーク・タイムズは7人の新規採用を発表したが、そのほとんどは看板番組「The Daily」のスタッフだ。また2022年12月に新設された同社の新しいオーディオアプリを担当するプログラミングチームには、ポッドキャスト番組「Opinion Audio」を担当していた2人が昇進して、新番組の開発と開設を担当することになった。
ニューヨーク・タイムズはまた同じ1月第二週に、2020年に買収したポッドキャスト制作会社シリアルプロダクションズ(Serial Productions)で新番組の開発を担当する開発エディター職の求人を掲載した。さらに同社は、2022年の中間選挙の直前情報を報道するために政治番組「The Run Up」を復活させたが、これを2024年の大統領選挙に向けて率いていくプロデューサーも募集している。
ウォールストリート・ジャーナルは最近、ポッドキャスト事業に関連して、ニュースオーディオ番組のヘッド(注目の給与範囲は14万ドル[約1820万円]から45万ドル[約5850万円]だ)や、毎週配信の特集番組や深く切り込む談話形式の報道番組シリーズの開発・立ち上げ・制作を担当するチームでその管理を行うエグゼクティブプロデューサー、新規に毎週配信のインタビューシリーズを開発し開設するオーディオ番組のホスト兼プロデューサーのほか、オーディオ番組プロデューサーについても多くの求人情報を掲載している。
[原文:Some publishers’ podcast teams are still growing as they hedge their bets on the medium in 2023]
(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)