大手デジタルサッカーメディアのGOALは先頃、人気サッカーゲームシリーズ「FIFA 21」の最新バージョン内で、同社のアパレルラインの販売を開始した。広告以外の新たな収益源という意味はもちろん、自社が有するIPを最大活用し、コミュニティの醸成と新たなファン獲得に繋げようとする意図もある。
世界最大のデジタルサッカー(もしくはフットボール)メディアとして知られるGOAL(ゴール)は先頃、人気サッカーゲームシリーズ「FIFA 21」の最新バージョン内で利用できるバーチャルクロージングラインを投入した。同社が次に目指す場所――それは、ゲーム内コマースだ。
7月以降、「FIFA 21」のプレイヤーはサッカーにインスパイアされたGOALのライフスタイルブランド、GOALSTUDIO(ゴールスタジオ)のコレクションを自身が利用するアバターに着せられるようになった。コレクションには、Tシャツ、パーカー、サンダルといった同ブランドの人気商品だけでなく、3〜5人制のストリートサッカーで対戦できるVolta(ヴォルタ)モード限定のデジタルアパレルも含まれる。これらの衣類は、ゲーム内のさまざまな目標をクリアするか、試合をプレイして獲得できるゲーム内通貨Voltaコインで購入することで、アンロックできる。
「メディアビジネスの常道から外れる」
バーチャルコレクションはいまのところVoltaコインでしか購入できないが、今後、現金やカード決済が可能になる日が来ることも考えられる。この動きの背景にあるのは、ゲームをオンラインブランディング、さらにはセールスの主要チャネルと見る潮流だ。GOALは現在、広告以外の有効な収入手段を探っており、FIFAシリーズはもちろん、ほかのゲームにおいてもバーチャルグッズが大きな収益源になりうると見ている。
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「我々のコアビジネスは依然としてコンテンツの商品化であり、だからこそこうした動きは不可欠だ」と、GOALの親会社フットボールコ(FootballCo)のプレジデント、ステファノ・ダナ氏は語る。「エージェンシーを介するメディアビジネスという常道から積極的に外れ、エレクトロニック・アーツ(Electronic Arts)といったゲームメーカーとの業務提携の可能性を探ることが、事業の長期的維持には極めて重要となる」。
事実、今回の動きにより、エレクトロニック・アーツとのあいだに新たなビジネスチャンスが生まれたと、ダナ氏は言い添える。氏によれば、具体的な内容はまだ明かせないが、両社は間もなく、来年発売予定の「FIFA」新シリーズに関する協議に入るという。「もしも我々がメディアビジネスばかりを考えているパブリッシャーだったら、こうした類のビジネスは手にできていなかったろう」。
さらなる収益機会につながる
コマースとしての展望は別にしても、このパートナーシップはすでにアパレル分野における優れたマーケティング戦略として機能しており、現在のところ韓国で大成功を収めている。その人気の後押しを受け、GOALSTUDIOは今年前半、Kリーグのチーム、大邱(テグ)FCとオフィシャルサプライヤー契約を結んだ。
「GOAL史上初めて、オーディエンスデベロップメントに純粋にフォーカスしている」とダナ氏。「それはつまり、サッカー界における特定コミュニティの開拓を意味する。コンテンツを取引通貨として利用し、さまざまなタッチッポイントを通じて、サッカー界におけるあらゆるファンのニーズを見いだし、満たしていきたい」。
多くのメディア企業と同じく、GOALは自身のIP(知的財産)を柔軟な形で管理運営する術を探っている。この戦略はコミュニティの醸成に有用だ。新分野への自社IPの適用は、新たなファン層を取り込む機会を創出する。そして、ひとつのファン層の獲得はほかのファン層に食い込むための踏み台となり、そこからさらなる収益機会が生まれる。この収益機会の上位にくるのが、ゲーム内購入だ。
「アプリ内購入はすでに1000億ドル(約11兆円)市場だ。パブリッシャーにとっては間違いなくメインストリームであり、世界中のゲームプレイヤーに広く受け入れられている」と、ゲーミング広告テックベンダー、アドミックス(Admix)CEOのサミュエル・ヒューバー氏は指摘する。「ただし、これまで見てきたかぎり、いずれのアクティベーションも1回限りのものでしかない。シンプルなバナーのスケーラブルな表示でさえ、いまだ新奇といえる。非標準的なフォーマットでのコマーシャルアクティベーションはいうまでもない。標準からもっとも遠いフォーマットは広く受け入れられるまでにもっとも時間がかかる、ということだ」。
広告の場としてのゲームの可能性
とはいえ、ゲーミング人気は急速に高まっており、広告主は自社広告を打つ場として、ゲームの潜在力を測りはじめている。
実際、ゲーム内アクティベーションをバナー広告購入と同程度に手軽なものにするツールが、現在、アドミックスといった企業によって開発中だ。また、GOALなどの企業は上述のとおり、競合他社に先んずるべく、エレクトロニック・アーツといったゲームメーカーとの提携の活用に乗り出している。
[原文:Soccer media business Goal is exploring in-game commerce]
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)