サムスン(Samsung)、ヴィジオ(Vizio)などのテレビメーカーは、過去数年、Amazonと特にロクが書いたガイドブックに従ってきた。そんな彼らが現在、コネクテッドTV(CTV)画面を巡るデバイスメーカーの優位性に挑戦し始めており、視聴者だけでなくストリーミングサービス、広告主からも注目を集めている。
テレビメーカーの感覚は鈍い。
Amazon、ロク(Roku)などのコネクテッドTV(CTV)デバイスメーカーはテレビ画面上でストリーミングサービスを配信し、広告を販売する大きなビジネスを築き上げてきた。サムスン(Samsung)、ヴィジオ(Vizio)といったテレビメーカーはこれを見て、過去数年間、Amazonと特にロクが書いたガイドブックに従ってきた。
そのテレビメーカーが現在、CTV画面を巡るデバイスメーカーの優位性に挑戦し始めており、視聴者だけでなくストリーミングサービス、広告主からも注目を集めている。
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「我々は2020年、スマートTVに注力する必要があると判断した。スマートTV利用の伸び率がロク、AmazonのFire TV(ファイヤーTV)、Apple TV、Android TVを上回っていたためだ。我々(の視聴者数)がもっとも成長しているサブセットは、スマートTVプラットフォームだ」と、あるストリーミング企業幹部は話す。
スマートTV躍進の理由
誤解のないように言っておくと、AmazonやロクのストリーミングスティックのようなCTVデバイスは今も、人々がテレビで番組や映画をストリーミングする主要な方法だ。ビデオ測定分析企業のコンビバ(Conviva)によれば、2020年第4四半期、全世界の人々が動画ストリーミングに費やした時間の49%をCTVデバイスが占めていた。一方、スマートTVの視聴時間は同四半期に157%増加し、視聴時間全体の17%を占めた。
しかし、スマートTVの視聴者数の増加は、必ずしもAmazonやロクの犠牲を伴っているわけではない。サムスン、ヴィジオ、LGは独自のスマートTVプラットフォームを運営しているが、TCL、東芝、ソニーなどのスマートTVはロクやAmazon、GoogleのCTVプラットフォームを利用している。その結果、コンビバによれば、Amazonとロクは合わせて、テレビ画面でのストリーミング視聴者数の50%を占めている。サムスンは11%、ヴィジオは3%だ。
スマートTVの視聴者数が増加した理由のひとつは極めて単純だ。コンビバのCEO、ビル・デマス氏は「人々が新しいテレビを購入するとき、そうしたテレビにスマートTV機能が搭載されている確率が高まっている」と説明する。しかし、購入したスマートTVにApple TVを接続し、NetflixやHuluをストリーミングするケースもある。つまり、スマートTVの視聴者数が伸びているもうひとつの重要な理由は、もはや外付けのCTVデバイスが不要なほどスマートTVプラットフォームが成長していることだ。そしてこれこそが、スマートTVメーカーが本当の意味でロクを手本にしているように見える部分だ。
あるエージェンシー幹部は「ロクが成功した要因は(ストリーミングスティックのような)従来からのデバイスのおかげだけではない。スマートTVに入り込み、11(のスマートTVブランド)に採用されていることも一因だ。だからこそロクは現在のような規模になったのだ」と分析する。
「『不動産』を所有している」
当然ながら、人々が番組を視聴できるよう、ロクはストリーミングサービスとも契約した。そして、サムスン、ヴィジオなどのスマートTVメーカーも同様の配信契約を次々と結んでいる。さらに、ロクのロク・ チャンネル(Roku Channel)やAmazonのIMDb TVをまねた広告付きの無料ストリーミングサービス、サムスンTVプラス(Samsung TV Plus)やヴィジオのウォッチフリー(WatchFree)を立ち上げ、視聴者を楽しませる番組だけでなく広告主に販売するための広告インベントリー(在庫)も手に入れた。
「自分たちが『不動産』を所有していることに気付いた先発者はヴィジオで、サムスンなどの他社もすぐに気付いた」と、2人目のストリーミング企業幹部は振り返る。
前述のエージェンシー幹部は、スマートTVメーカーの広告売り込みは「率直に言って、ロクやAmazonの売り込みとそっくりだ」と話す。そして、ロクやAmazonのときと同様、広告主の態度が軟化するまでにしばらくかかった。しかし、この1年、広告主の関心はヒートアップしている。
ストリーミングの視聴者数が増加し、従来型テレビやデジタル動画の広告主がCTVに焦点を合わせるなか、サムスンやヴィジオは販売チームを増強し、売り込みを練り上げてきた。自前のプラットフォームの視聴者数とスマートTVに組み込まれた自動コンテンツ認識技術で収集可能なオーディエンスデータを組み合わせたもので、視聴者がオプトインすれば、個々のテレビで再生された番組や広告を追跡し、その情報を広告ターゲティングに利用できる。
2人目のエージェンシー幹部は「彼らの大きな利点はGoogleと酷似している。データに配信を組み合わせたもので、その配信の規模が拡大している」と話す。
裏腹なストリーミング企業たち
メディア企業にとっては、規模は恵みにも呪縛にもなり得る。一方では、CTV配信者の競争が激化することで、Amazonやロクの優位性が希釈され、ストリーミング企業に利益をもたらす可能性がある。Amazonとロクはメディア企業とCTV配信契約を交渉する際、以前より強引になっている。Amazonやロクのプラットフォームで視聴できないストリーマーは視聴者数と売上に大きな影響が出ると認識しているためだろう。しかし、そのストリーマーにスマートTVプラットフォーム経由でアクセスできる人が増えれば、Amazonとロクの優位性はある程度低下する。
またその一方で、スマートTVメーカーもCTVデバイスメーカーと同じくらい強引になっている。たとえば、インフォメーション(The Information)によれば、NBCユニバーサル(NBCUniversal)のピーコック(Peacock)はAmazonやロクと同様、サムスンとの配信交渉でも膠着(こうちゃく)状態に陥っている。そのため、ストリーミング企業幹部たちはスマートTVメーカーの台頭を歓迎しながら、同時に新しい配信者の力を警戒している。
2人目のストリーミング企業幹部は次のように述べている。「パブリッシャーは配信の所有者ではない。そのため、どこに行くか、どのように行くかなど、誰かの言う通りにすることで恩恵を受けている。そして、ビジネスに破壊的な影響をもたらすのは誰かと常に注視しており、今回もその一例だ。『気にしなければいけない人が現れた。交渉しなければいけない企業が現れた』と、皆がいつも言っている」。
[原文:Smart TVs have become the new front in the connected TV platform battle]
TIM PETERSON(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:長田真)