何かをひとつ制作し、そこから何度も収益を得る。これはハリウッドで長年成功してきたビジネスモデルだ。デジタル・エンターテイメント企業たちは、このモデルをYouTubeなどのプラットフォームのために制作した大量のビデオに適応させようと試みている。
何かをひとつ制作し、そこから何度も収益を得る。これはハリウッドで長年成功してきたビジネスモデルだ。デジタル・エンターテイメント企業たちは、このモデルをYouTubeなどのプラットフォームのために制作した大量のビデオに適応させようと試みている。
バイアコム・デジタル・スタジオ(Viacom Digital Studios)やポケットウォッチ(Pocket.watch)は、YouTubeで1回パブリッシュしたビデオをSnapchat(スナップチャット)やHulu(フールー)、Amazonプライムビデオ(Amazon Prime Video)に配給することで収益を得る、つまりシンジケーションを行っている。ジューキン・メディア(Jukin Media)、ザ・ヤング・タークス(The Young Turks)、テイストメイド(Tastemade)もまた、彼らがこれまでに制作したビデオを集めて、彼らのOTTアプリやYouTube TV、プルートTV(Pluto TV)といった動画プラットフォームで、24時間ストリーミングチャンネルを作り上げている。
「完全に注文品であるようなコンテンツを制作せず、ひとつのコンテンツをより多く配給すればするほど、経済的には良くなる」と、バイアコム・デジタル・スタジオのプレジデントであるケリー・デイ氏は言う。
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ジューキン・メディアはこの考えに基づいて効率的に設立された。ユーザー発信のビデオ権利を買収したり、テレビプロデューサーやその他の企業にライセンス貸出をすることで利益を生むようになったのだ。1年半前、ジューキン・メディアはビデオをパッケージングする知識と経験を活かし、彼らのコメディブランドであるフェイルアーミー(FailArmy)のプログラム開発に取り組んだ。そこからさらに、動物を中心に据えたザ・ペット・コレクティブ(The Pet Collective)というリニア放送のストリーミングを加えている。プルートTV、XUMO、AmazonのTwitch(ツイッチ)、自社のプラットフォームといった広告対応の場所に配給することで、再パッケージされたコンテンツ群は彼らが持つ5つのYouTubeチャンネルよりも大きな収益を上げている。「猫に残酷(な例え)だけど、猫のビデオがひとつあったら、その猫から30回違う方法で毛皮を獲得するようなものだ」と、ジューキン・メディアのCEO、ジョナサン・スコグモ氏は語る。
持続可能なビデオモデルを生み出す
幅広いエンターテイメント業界のなかでは、こういったメディア会社が行っていることは、まったく新しいことではない。Facebook Watch(ウォッチ)の番組をSnapchat上で再配信して収益を上げることはサインフェルド(Seinfeld:アメリカで人気のコメディ)をケーブルテレビで再配信したり、Hulu上で全話ライセンス貸出するのと、そう違わない。しかし、Facebook Watchの番組がSnapchatでシンジケーションされるということ、YouTube動画がストリーミングTVチャンネルとしても機能するということは、デジタル動画市場が成熟し、テレビスタイルの視聴者に繰り返し見てもらうシリーズプログラムという体系に近づいたことを意味している。
こういった転換が起きたことにより、YouTubeやFacebookではマネタイズできなかった一度限りのビデオをシリーズ化することで、プラットフォームが欲しがるコンテンツへと再利用できるようになった。また、制作が高価なシリーズ形式のコンテンツに新しい収益源を生み出すことができている。
テレビネットワークたちが古い番組をライセンスし、24時間放送のスケジュールを埋めているのと類似して、デジタル動画プラットフォームたちは、過去のコンテンツを掘り出して、オーディエンスに見せても良いという態度を取りはじめている。それによって、プラットフォーム上にオーディエンスをキープしたいという考えだ。
もちろん、コンテンツはいつ見ても楽しめるものでないといけない。グループ・ナイン・メディア(Group Nine Media)といった会社は、自社のオリジナルコンテンツをプラットフォームに売り込むときに、契約にパッケージングの一部として付け加えることができる付録として過去のコンテンツを使っている。「ボタンを一度クリックするだけで、これだけたくさんのコンテンツをあげられますよ」といえることは、非常に大きな競争優位となっている」と、グループ・ナイン・メディアの最高ネットワーク・IP管理責任者であるミッキー・マイヤー氏は言う。
Snapchatがディスカバー(Discover)機能を2015年に導入した際、アプリはソウルパンケーキ(SoulPancake)のようなエンターテイメント会社から動画をライセンス取得し、スナップ(Snap)チャンネルを運営していた。その後、Snapchat限定のオリジナルコンテンツを求めるようになる。しかし、今年初頭には、限定ではないコンテンツも受け付けるようになった。これは、すでに存在しているオーディエンスや新しいオーディエンスをプラットフォーム上にキープすることが目的だろう。たとえば、スナップはバイアコム・デジタル・スタジオにコンタクトをとり、BETのラッパー・シリーズ「レイト・ザ・バーズ(Rate the Bars)」をシンジケーションしないかと持ちかけた。これによって、アフリカ系アメリカ人オーディエンスにアピールのが狙いだと、デイ氏は言う。そして、ヴィアコム・デジタル・スタジオは、YouTubeやFacebookでもともと配信されていた10から12の番組を、Snapchat上でも配信できるように縦方向に変換して配信するという契約を結んだ。「スナップ社はYouTubeやFacebook Watchでオーディエンスを獲得している最近のフォーマットを理解し、「私たちもアクセスできないか」と、アプローチしてきている形だ」と、デイ氏は言う。
配信のオプションはたくさんある
子ども向けのエンターテイメント会社ポケットウォッチも同様に、他のプラットフォームで成功が証明された番組から利益を得ている。彼らが擁する5つのYouTubeチャンネルが抱えている1万ほどのビデオを再パッケージし、Hulu上でのシリーズ物として配信するという契約を今月頭に発表したのだ。「この番組がYouTubeのようなプラットフォームでは大きく成果を出すと常に分かっていた。そしてその成果を見れば、コンテンツがHuluやAmazonのような企業にとっても価値があることが分かる」と、ポケットウォッチのチャンネル部門シニア・バイスプレジデントであるデーヴィッド・ウィリアムズ氏は言う。
プラットフォームがデジタルメディア企業のビデオライブラリーを求めているだけではない。メディア企業自体も自分たちのコンテンツを配信する方法を増やしたいと思っている。たとえばポケットウォッチ、BuzzFeed、そしてキン・コミュニティ(Kin Community)は、Amazonが提供するAmazonビデオダイレクト(Video Direct)機能を使ってAmazonプライムビデオ上で動画を配信している。そして、Amazonのサブスクリプションや広告収益から、一部を得ているのだ。「彼らは(持っているコンテンツを)どうにか活用しないといけないのが現実だ。これらのコンテンツが何百時間も存在するような状態へと、マーケットが成熟したという要因はあるだろう。そんななかで、YouTubeで小さい額のマネタイズをするだけに留まるのか、チャンネルへと送り込む方法を見つけるのか、見極めないといけない」と、コンサルティング企業マナット・デジタル(Manatt Digital)のマネージング・ディレクターであるユーニス・シン氏は言う。
過去のビデオを再パッケージして配信するチャンスが出てきたことで、企業たちは制作コストを再検討している。ポケット・ウォッチはいま、ドラマ性の強いシリーズ物を開発している。最初はYouTube上でリリースされる予定だが、すでに「3話ごとに完結っぽくすることで、再パッケージしてのちほど(22分や30分の尺のエピソードとして)再編成して、別のプラットフォームで配信できるようにするにはどうすれば良いか」検討していると、ウィリアムズ氏は語った。
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Tim Peterson(原文 / 訳:塚本 紺)