[ DIGIDAY+ 限定記事 ]サブスクリプションのスポーツアプリ、オトロ(Otro)はローンチから6カ月後にオーディエンスと収益源を増やすためビジネスモデルを変更した。ソーシャルメディア上でコンテンツを無料配信したところ良い反応を得られたことから、同社はペイウォールを廃止してデジタルコンテンツスタジオの立ち上げへと舵を切ったのだ。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]サブスクリプションは決して容易なビジネスモデルではない。
サブスクリプションのスポーツアプリ、オトロ(Otro)はローンチから6カ月後にオーディエンスと収益源を増やすためビジネスモデルを変更し、デジタルコンテンツスタジオの立ち上げを行った。
メディアから大きな注目を集めながら12月にローンチしたオトロは、スポーツファン向けに動画やサッカーのトップ選手による投稿を独占配信するアプリだ。オトロの売りはリオネル・メッシ選手やネイマール選手、デイビッド・ベッカム氏といった世界的なサッカープレイヤー17名による独占投稿コンテンツで、いずれのプレイヤーもマーケティングにおける莫大な影響力とソーシャルメディアのフォロワー数を有する。
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ソーシャルメディア上でコンテンツを無料配信したところ良い反応を得られたことから、同社はペイウォールを廃止してデジタルコンテンツスタジオの立ち上げへと舵を切った。オトロの最高クリエイティブ責任者を務めるクレア・マカードル氏は以前、バイアコム(Viacom)のコメディ・セントラル・インターナショナル・スタジオ(Comedy Central International Studios)でバイスプレジデントも務めた経歴の持ち主で、これは同氏にとっても馴染み深いビジネスモデルだ。
「設立から間もない企業として、この競争の激しい市場で生き残るために他社と異なるアプローチも積極的に試している。オーディエンスが求めるコンテンツを提供できるようにビジネスモデルを構築したい」と、マカードル氏は語る。「この市場が競争の厳しい市場というのは誰もが認めるところだろう。新規参入企業として、ほかの分野におけるトレンドを観察し、柔軟かつ身軽に調査するのもひとつのやり方だ」。
ビジネスモデルシフトの中身
オトロは今後も受動的な短尺動画を制作してソーシャルメディアで配信しつづけるとともに、長尺のドキュメンタリーやオリジナル番組をアプリやソーシャルメディア、放送局向けなどに配信していく予定だ。またコンテンツに関してインタラクティブな競争の要素を盛り込み、勝者には選手に関連した報酬を提供する。また無料配信に踏み切ったことでブランドコンテンツの提携も可能となり、プラットフォームでの配信による広告収益も獲得できるようになった。このなかには過去に配信したコンテンツも500以上含まれる。オトロの保有するもっとも人気のソーシャルアカウントはインスタグラム(Instagram)のアカウントで、フォロワー数は74万2000人となっている。同社はさらに近日YouTubeチャンネルを開設する予定だ。
「当社がもっとも強いのは7分から11分の中尺フォーマットだ」と、マカードル氏は明かす。「コンテンツについて全方面の検証を行う。私がコンテンツを承認する前に、ターゲットの層やコンテンツの分野、コンテンツの枠組みを超えた意義、たとえば22分のような長尺動画になるかどうか、といった検証を実施していく」。
オトロ社内における最大の変化は、インハウスのデジタルコンテンツスタジオがより迅速に選手やブランドがもたらすビジネスチャンスに反応できるようにするため、リストラと拡大を実施したことだ。以前、同社のコンテンツチームは外部サプライヤーを管理するためのチームだった。それが現在はオトロ社員29名のうち11名がコンテンツチームに配属されている。同社はレイオフについて直接的な回答は避けたが、コンテンツスタジオのモデルにはサブスクリプションとは異なる人材が求められるため、リストラを実施したとしている。
モバイル市場分析企業のセンサータワー(Sensor Tower)によると、オトロのアプリはこれまで26万2000台の端末にインストールされているという。アプリの利用時間は米国ユーザーが最大で全体の16%、次いで英国が11%を占めている。アプリのインストール数がもっとも多い市場はブラジルで全体の19%だ。同国のサッカーに対する情熱を考えればこれは驚きではないかもしれない。オトロはサブスクリプションの登録者数については明かしていないが、すでに年会費を支払った会員には払い戻しを行うという。
サブスクに向かない分野
一見すれば、スポーツにおいてサブスクリプションというビジネスモデルは良い選択にも思える。D2C収益を定期的に獲得しているメディア企業は、広告収益モデルを採用する企業よりも評価額が高くなる傾向にある。そもそもサッカー自体がコンテンツとしてほかの手段によるアクセスが容易すぎ、また分野として狭すぎるためサブスクリプションとしてあまり適していない可能性もある。オトロにとって加入者を増やすうえでの問題は、アプリで配信するコンテンツがGoogle検索結果に表示されないことだ。サブスクリプション系パブリッシャーにとってもGoogle検索からのトラフィックは極めて重要となっている。
このモデルのバリエーションを採用しているのはオトロだけではない。ダグアウト(Dugout)は世界最大規模の複数サッカークラブによって立ち上げられ各クラブのメディアブランドを制作している。そしていまはもう無くなってしまったが、スポーツロブスター(Sportslobster)はスポーツのソーシャル・ネットワークとしてファンと選手が集う場所を提供していた。アスレチック(Athletic)の有料会員は今週の時点で50万人にまで増えている。そして全米の地元紙はスポーツ報道だけを独立させてサブスクリプション制で展開し、スポーツファンの加入者を獲得している。
「サッカーは世界で35億人のファンが存在するといわれているが、他社でも十分な数のサッカーファンを獲得したと考えサービスを展開したもののファンから価値を認められず、ファンは結局ほかのチャネルの有料コンテンツで視聴したというケースはいくつもある」と、メディアコム(Mediacom)のスポーツおよびエンタメ部門でグローバルバイスプレジデントを務めるミーシャ・シャー氏は指摘する。「コンバージョンがせいぜい5から10%程度にとどまった場合、長期的に見て、そのビジネスモデルがうまくいくことはないだろう」。
シャー氏はデジタルコンテンツスタジオのほうがはるかに理にかなった選択だと分析する。「この業界では何事につけても独自性が重要となる。他社では得られないサービスを提供するのが大切なのだ。重要なのは多数のチャネルで展開し、クライアントのためにサービスを最適化することが求められる」。
選手自身が望むコンテンツ
結局のところオトロにとって必要なのは市場における位置づけの確立と差別化だ。
「当社のコンテンツは、これまでの選手関連コンテンツとは異なり、選手自身に主導権がある」とマ、カードル氏は語り、次のように述べた。「当社はファン向けに独占的な体験を提供して、動画を見てくれと伝えるだけの企業ではない。当社は選手と直接協力してコンテンツを制作している。選手自身が望むコンテンツなのだ」。
Lucinda Southern(原文 / 訳:SI Japan)
Image: courtesy of Otro via Facebook.