BBCはこの6カ月、さまざまなタイプのFacebookのライブ動画コンテンツを実験してきた。その先頭に立ってきたのは、BBCのベテランキャスターでニュース番組「アウトサイド・ソース(Outside Source)」のホストを務めるロス・アトキンス氏だ。
米DIGIDAYは今回、ロス・アトキンス氏と、BBCニュースのソーシャルメディア編集者であるマーク・フランケル氏を取材。Facebookのライブ動画を実験してきたこの6カ月間に、BBCが何を学び、今後どのような展開を計画しているのかを聞いた。
英国放送協会の「BBCワールドニュース」にとって現在、Facebookのライブ動画を積極的に活用したいトピックは2つある。サッカーの欧州選手権「EURO 2016」と、英国が欧州連合(EU)への残留可否を問う国民投票「EUレファレンダム」だ。
BBCはこの6カ月、さまざまなタイプのFacebookのライブ動画コンテンツを実験してきた。その先頭に立ってきたのは、BBCのベテランキャスターでニュース番組「アウトサイド・ソース(Outside Source)」のホストを務めるロス・アトキンス氏だ。
アトキンス氏はこれまで、BBCワールドニュースのFacebookライブ動画において、2015年11月のトルコ上空でのロシア戦闘機撃墜や、2016年3月のドイツ地方選挙などを伝えてきた。戦闘機撃墜を報じた動画は、Facebook上で25万回視聴されている。
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BBCは、6月23日に行われる「EUレファレンダム」に向けて、Facebookのライブ動画を一貫して利用していく予定だ。そのなかには、EU残留派と離脱派の政治家によるテレビ討論のような目玉番組も含まれる。このテレビ討論は6月21日、ロンドンのウェンブリー・スタジアムから、BBC TVのチャンネルとWebサイトで中継される予定だ。討論のあとにも、Facebookのライブ動画のコンテンツが配信される。
米DIGIDAYは今回、ロス・アトキンス氏と、BBCニュースのソーシャルメディア編集者であるマーク・フランケル氏を取材。Facebookのライブ動画を実験してきたこの6カ月間に、BBCが何を学び、今後どのような展開を計画しているのかを伺った。
オーディエンスにリードを委ねる
アトキンス氏のように経験豊富なBBCのキャスターは、テレビとラジオの放送ジャーナリズムを熟知している。しかし、Facebookのライブ動画でキャスターを務めるのはまったく別の話だ。同氏はFacebookのライブ動画によるストリーミングについて、テレビ番組をただ再現するものだと誤解するなら取り返しのつかないことになると強調する。
「Facebookのライブ動画は性質が異なるメディアだ」と、アトキンス氏。「デジタルジャーナリズムはかつて、テレビとラジオを補うものだと見なされていたが、そんな時代は終わった。我々が現在Facebook上で手がけるコンテンツは、独り立ちの必要がある」。
これまでの試みでBBCが得た最大の教訓は、フリースタイルのアプローチを採用し、特定の編集プランに縛られないようにするということだという。「Facebookのライブ動画では、どのような編集に持っていきたいかを前もって詳細に計画してはいけない。そんなことをすればオーディエンスを失うことになる」と、アトキンス氏は説く。
オーディエンスによるフィードバックと質問を中心にストリーミング番組を構成する場合には、オーディエンスが参加していると実感でき、かつ、話のピントが合っている状態を保つことが必要だ。そうしないと、オーディエンスのコメントがあらゆる方向に散らばってしまう可能性がある、と同氏は述べた。
「私は、オーディエンスの意見を聞きたいと私が感じるひとつの大きなテーマを掘り下げる。そうすることでコンテンツは、オーディエンスが提起する問題によって100%導かれることになる」と、アトキンス氏は付け加えた。
視聴数に惑わされない
膨大なオーディエンスに慣れているBBCは、Facebookのライブ動画における視聴数の多さに惑わされない。Facebookがニュースフィードで動画を優先させていることを考えれば、視聴数が多くなるのは当然のことなのだ。
「私がもっとも関心を持っているのは、(オーディエンスの数ではなく)彼らがどれだけエンゲージできるかだ」と、フランケル氏は語る。「私は、最良のコンテンツが適切な方法で人々にリーチすることを望んでいる。コンテンツがどうやってリーチしているのかも知りたいと思う」。
しかし、Facebookはまだ、動画の視聴数といった基本的な指標以外には、詳細な分析を提供していない。そのため、どのようにリーチしているのかを把握するのは、いまのところ難しい。
フランケル氏はこう語る。「我々が得られるデータは限られるので、コンテンツを楽しんでいるファンの正確な数は把握できない。せいぜい、Facebookが現在提供している、ある時点における数千人単位での視聴数ぐらいだ。視聴数が盛り返しているのかどうかも、どれくらい減っているのかもわからない。たとえば、特定の年代の女性が見ているのかも、特定の場所で見られているのかもわからない。こうしたデータが重要なことは、我々パブリッシャーはFacebookにフィードバックしてきた。それがあれば、我々がオーディエンスとより良い体験を作る助けになるからだ」。
エンゲージメントは管理が難しい
Facebookのライブ動画における最大の特徴は、ストリーミング時に視聴者がコメントして、議論に参加できることだ。しかし、膨大なフィードバックをタイミングよく反映させることは、大きな課題となっている。
BBCの場合、Facebookのライブ動画のストリーミング中に寄せられる大量のコメントを、キャスターが選択して反応できるよう管理する必要がある。BBCニュースのFacebookページには約3000万人のファンがいるが、もちろん、その全員が視聴するわけではない。これまでに配信されたいくつかの動画の場合、視聴数は数万から数十万のあいだだった。それでも、BBCは書き込まれるコメントのスピードを管理しており、それが最大の課題となっている。
「すごいペースでコメントが寄せられるが、現在は基本的なフィルターをかけること以外に、事前のモデレーション(投稿されたコメントの内容をチェックすること)は行っていない。我々は自社のモデレーションチームに検討させているが、最優先の課題だ」と、フランケル氏は語った。
次のステップ:「EUレファレンダム」報道
BBCワールドニュースが行ってきた実験の多くは、外国のオーディエンスを新たに引き寄せ、「EUレファレンダム」のような主要トピックについて知ってもらうものだ。しかし、BBCは今後数週間、「クエスチョン・タイム(Question Time)」のような国内向けの番組にもFacebookのライブ動画を活用する予定だ。
クエスチョン・タイムのホストを務めるデイビット・ディンブルビー氏は近く、「EUレファレンダム」に関する生放送で、EU離脱派の中心的人物のひとりであるマイケル・ゴーブ司法大臣に質問する。そこにFacebookのライブ動画の番組をどのように組み込むのか、BBCのチームはまだ詳細を詰めているところだ。
Facebookのライブ動画では、パブリッシャーが往々にして臨機応変に生中継するため、動画がダイナミックで荒削りなものとなり、それが魅力の一部となってきた。BBCがこれまでに制作した動画のなかには、移動中に配信したものもある。たとえば、人力車のなかや、英国の各政党が走らせる「キャンペーンバス」の中からの中継映像だ。
同社はまた、英国のスタンダップコメディアンで俳優のエディー・イザード氏と、保守政治家のダニエル・ハナン氏のような著名人ゲストを、典型的な上半身の映像で配信し、Facebookオーディエンスから寄せられた質問をピックアップして回答してもらうことも試みてきた。
フランケル氏によると、これまで行ってきたすべては、何が最良の体験なのかを把握する試みなのだという。それが、BuzzFeedのスイカ爆発動画のように壮大なオチを盛り上げるものであれ、最新ニュースの伝え方を工夫するものであってもだ。「我々は多種多様な方法を試している。そんなとき、いつも自問している重要なポイントがある。その方法は、報じる価値のある優れたジャーナリズムだろうか? 我々がほかでやっていることの価値を高めるものだろうか?」と、フランケル氏は語った。
Jessica Davies (原文 / 訳:ガリレオ)
Image: Courtesy of the BBC