スポーツ中継 の供給過多で、「低視聴率」に悩むテレビ広告主 : 現実は決してバラ色の状況ではない

米国の広告主は、NBAやNFLといった人気スポーツのテレビ放送の再開を心待ちにしていた。しかし同時に、途絶えていたスポーツ放送の再開が、視聴者にどう受け止められるかについて懸念もあったようだ。実際、現実は決してバラ色の状況ではない。

テレビでのスポーツ中継が、大勢のオーディエンスに一度にリーチする最良の手段であることに変わりはない。だが視聴率は広告主の期待を下回っているようだ。

9月14日に行われたNFLの第1節の視聴率は、2019年から3%下回っている。また、NHLではスタンレーカップのプレーオフトーナメント第1戦から3戦までの視聴率が、昨シーズンと比べて28%低下した。一方、NBAはデイゲームの視聴者で苦戦しているが、ゴールデンタイムの試合の視聴率は増加傾向にある。

開催は大幅にずれ込むも広告主は期待

電通イージス・ネットワーク(Dentsu Aegis Network)傘下のエージェンシー、アンプリファイ(Amplifi)で動画投資担当EVP兼マネージングディレクターを務めるカーラ・ルイス氏は、「視聴率の面ではクライアントの期待値を下回ったのではないか。だが、業界では実にさまざまなことが起きている」と語る。

たとえばNFLの試合とNBAのプレーオフは、おそらく史上初の同時期同時間開催となった。NHLのスタンレーカップ決勝は、例年のシーズン開幕時期より1カ月も早い段階でおこなわれる。MLBは、新型コロナウイルスの検査で陽性反応が出た選手がいたため、試合を延期している。カレッジフットボールは、シーズン開始の延期や中止を経て、結局おこなわれることになった。

こういった異常な状況下にあって、エージェンシーも視聴率を比較し、深読みしすぎないよう注意している。オムニコム・メディアグループ(Omnicom Media Group)のスポーツマーケティングエージェンシー、オプティマムスポーツ(Optimum Sports)のプレジデント、トム・マクガバン氏は「過去と比較して正確な分析をするのは難しい」と語る。「8月の平日の昼間にプレーしているNHLやNBA(いずれも通常は10月が開幕シーズンとなる)は、ほかの期間や時間帯と比べられるものではない」。

にもかかわらず、広告主はテレビのスポーツ中継が再開すれば高い視聴率を叩き出すのではないかと期待していた。というのも、スポーツがおこなわれなかった4月や5月には、ESPNとNetflixが共同製作したマイケル・ジョーダンのドキュメンタリー番組「ラストダンス(The Last Dance)」や、タイガー・ウッズとトム・ブレイディをはじめとする有名人が出演したターナースポーツ(Turner Sports)のゴルフマッチなどが高視聴率を記録したのだ。「こうした春の番組視聴率を見て、オーディエンスはこぞってスポーツ中継を見るはずだという目論見があった」とあるエージェンシー役員は語る。

テレビ局側が補填対応に追われる

今年初め、オーディエンスにリーチできる人気スポーツの再開を期待し、広告予算をある程度キープする決定を下した広告主は多かった。なかにはスポーツ中継の再開までテレビ予算を一切使わないと決めた企業すらあったようだ。

クリエイティブエージェンシーのメディア・キッチン(The Media Kitchen)でグループディレクターを務めるアシュリー・ソーベル氏は、「クライアントは第2四半期と第3四半期に巨額の投資を予定していた。だがそのあいだもNBAやNHL、MLBといったリーグの休止があったことで、再開後は非常に早いペースで資金を投じている」と語る。

TVネットワーク各社としても、このように需要が押さえつけられていたなかで、広告主のリーチへの要望に応えられるだけのインベントリーを確保し、期待通りの高視聴率となることは重要だった。

さらに話を難しくしたのが、TVネットワーク側も高視聴率を予想していたため、広告主へ提示する視聴率の保証を下げなかったことだ。メディアエージェンシーのUMワールドワイド(UM Worldwide)で投資担当責任者を務めるティム・ヒル氏は、「大半のTVネットワークは視聴率について据え置きの予測をしていた」と述べている。結果として、例年通りの数字を保証されていた広告主たちに対し、TVネットワークは保証値を下回った分のCMを別枠で放送する対応(米テレビ業界では「メイクグッズ[make-goods]」と呼ばれる)をおこなう可能性は高い。

保証を下回る中継が続く可能性

実際に一部のTVネットワークは、高視聴率への期待から生じた「債務の決済」に乗り出している。たとえば、NFLやカレッジフットボールの開幕戦やプレーオフといった現時点でも比較的高視聴率のインベントリーが活用されているようだ。また、広告主がCM放送を予定していた時期に近い別のインベントリーを購入できるように、アップフロント(テレビ広告枠の先行販売)の売れ残りを高い価格設定で販売する「スキャッター(scatter)」のインベントリーを確保している。

いずれにせよ、電通イージス・ネットワーク傘下のメディアエージェンシー、カラ(Carat)で米国動画アクティベーション担当グループディレクターを務めるジミー・スパノ氏は次のように分析している。「スポーツの視聴者が劇的に増えない限り、保証値を下回る放送が大量に生じるだろう」。

[原文:‘Significant under-delivery’ TV advertisers grapple with glut of live sports affecting viewership

TIM PETERSON(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)