動画へのシフトで、エディトリアルスタッフを解雇してきたパブリッシャーは、ここにきて、自社サイトへのトラフィックの暴落を目の当たりにしているという。こうしたパブリッシャーは、ソーシャルプラットフォームではそのPV数を維持しているが、プラットフォームにますます依存するようになっている。
動画広告費を追い求めるメディア企業はいま、PV数の下落という事態に直面している。
複数の調査会社の調べによると、ここ最近の動画へのシフトでエディトリアルスタッフを解雇してきたマイク(Mic)やFOXスポーツ(Fox Sports)、ボカティブ(Vocativ)などのパブリッシャーは、ここにきて、自社サイトへのトラフィックの暴落を目の当たりにしているという。こうしたパブリッシャーは、ソーシャルプラットフォームではそのPV数を維持しているが、その一方で、大麻文化に焦点を合わせる新興メディア企業から、掲示板サイトのレディット(Reddit)にいたるまで、誰もが動画に投資しつつある時代において、彼らはプラットフォームにますます依存するようになっている。
トラフィックの下落
インターネット調査企業コムスコア(comScore)のデータによれば、動画へと転向したパブリッシャー各社は2017年8月、1年前の同期と比べて少なくとも60%におよぶトラフィックの下落を目の当たりにしている。コムスコアによれば、マイクのビジター数は1750万人から(2016年8月)から660万人(2017年8月)に減少した。ボカティブの減少はさらに著しく、400万人(2016年8月)から17万5000人(2017年7月)に減っている。2017年8月までには、ボカティブのトラフィックはついに検出不能なレベルにまで縮小していた。ボカティブとFOXスポーツ、マイクは、ウェブサイトの利用状況に関するデータを収集するアレクサ(Alexa)のランキングでも、過去半年間にわたって急落している。
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用いられている方法論はベンダー間で大きく異なるので、以下のインタラクティブチャート内の絶対数は鵜呑みにはしないでいただきたい。より妥当性が高いのは、チャート内の直線が示している方向だ(なお、コムスコアとシミラーウェブ[SimilarWeb]、ヒットワイズ[Hitwise]の各調査会社は、MTVニュース[MTV News]のデータをmtv.comのそれから分離できなかったため、MTVニュースはこのチャートには表示されていない。また、一部のパブリッシャーについてチャート内のデータが少ないのは、調査会社から、該当するパブリッシャーのデータが提供されなかったためだ)。
ひとつ注意すべき点がある。両者のあいだに相関関係はあるが、動画への転向は必ずしも、トラフィックの減少を引き起こすとは限らないということだ。こうしたパブリッシャーの大多数は、コストを削減するためにライターを解雇する前から、すでに苦境に喘いでいたのだ。
急速に増えるライバル
プロハスカ・コンサルティング(Prohaska Consulting)の最高経営責任者(CEO)、マット・プロハスカ氏は、「ぜい肉を落とす必要がある場合もあるが、骨にまで達するほど落としすぎているメディア企業もなかにはある」と話す。
eマーケター(eMarketer)によれば、アメリカにおける2016年の動画広告費は100億ドル(約1.1兆円)超にまで成長した。こうした資金の注入は、パブリッシャーが動画に路線変更しているというトレンドを浮かび上がらせるものだ。そして、こうしたトレンドの発端は、2016年の春にまでさかのぼることができる。マッシャブル(Mashable)が動画へのフォーカスを目的として、エディトリアルスタッフの解雇に踏み切ったときだ。状況はパブリッシャーによって異なるが、MTVニュースとFOXスポーツ、ボカティブ、バイススポーツ(Vice Sports)も2017年の夏、動画への転向をはかって、それぞれがライターを解雇した。
メディアコンサルタントのブラッド・アドゲート氏は、「メディアが動画を重要視する例が増えているが、同時に、動画メディアが大量に出現し、その結果、(動画パブリッシャーが)対象オーディエンスの獲得に弾みをつけることが難しくなってきた」と述べる。
動じない一部のメディア
ここ最近、ライターを解雇したパブリッシャーが話題にのぼることが多いとはいえ、過去1年間に資金を動画に投じてきたのは彼らだけではない。
ブリーチャーリポート(Bleacher Report)は2月、より質の高いコンテンツに力を注ぐべく、ユーザー作成型という自身のルーツからの脱皮をはかり、約50人のスタッフを解雇した。1年ほど前にはBuzzFeedが、動画作成の拡大をめざして、エンターテインメントとニュースの両部門を再編成した。同じくVox Mediaも動画チームを拡充し、それが視聴回数の大幅な伸びへとつながった。
フォーカスを動画へとシフトさせてきたパブリッシャーの一部は、トラフィックに打撃を受けてきた。その一方で、エディトリアルスタッフを削減しなくても動画チームを大きくできるだけのリソースをもつ、Vox MediaやBuzzFeedなどのパブリッシャーは、過去1年を通して安定したトラフィックを獲得してきた。一部には、ウェブサイトへのアクセス数が伸びているケースさえある。
Vox Mediaで発行人を務めるメリッサ・ベル氏は、同社最良のコンテンツの多くは、「おもにテキストにバックグラウンドをもつスタッフがもたらしてくれる」と話す。ちなみに、この記事に登場するメディア企業のなかでインタビューに応じてくれたのはVox Mediaだけだった。
以下のインタラクティブチャートは、2017年に動画に投資した大手デジタルパブリッシャー数社の月間トフィックデータを示すもので、コムスコアとヒットワイズ、シミラーウェブによるデータを含んでいる。
分散プラットフォームの世界
ここ最近で動画へと転向したメディア企業のトラフィックは芳しくないように見える。だが注目すべきは、動画のCPMはディスプレイのCPMよりもはるかに高いという事実だ。匿名を希望するあるアドバイヤーの話では、最大規模を誇るオンラインパブリッシャー100社のあいだでは、ディスプレイのCPMが大体2~6ドルであるのに対し、動画のCPMは12~20ドルなのだという。したがって、動画からトラフィックの多くを獲得しているパブリッシャーの場合、トラフィック全体が低下しても広告売上を維持することは理論的には可能だ。
また、これらの調査会社は、Facebookなどの分散プラットフォームを追跡していない。これらのパブリッシャーにとって、オーディエンス獲得の重要なソースとなっているにもかかわらずだ。ニュースウィップ(NewsWhip)のデータによると、ボカティブとFOXスポーツはそれぞれ、自社が所有・運営するプロパティーでトラフィックがもっとも大きく減少したが、6月にライターを解雇したあとも、ユーザーが毎月、Facebookで彼らのコンテンツを視聴する回数は安定を保っているという。チューブラー・ラボ(Tubular Labs)によると、2017年夏、動画に大きく路線変更したパブリッシャーのなかには、過去1年のあいだにYouTubeやFacebookで動画の視聴回数が増えた企業もあるという。
Facebookが動画を優先して「Watch」タブを本格展開するなか、動画への転向というトレンドは、Facebookに依存してユーザーにリーチしているパブリッシャーがいかに多いかを反映している。こうした転向を行うパブリッシャーは、自社が所有・運営するプロパティーのトラフィックは、分散プラットフォームの世界では意味をもたないと主張することだろう。
「依存」という危険な賭け
だが、自社のウェブサイトに見切りをつけ、プラットフォームに依存するという行為は、パブリッシャーにとっては危険な賭けだ。プラットフォームでオーディエンスを収益化するのは、自社が所有・運営するプロパティーでそれを行うよりもずっと難しい。またFacebookは、パブリッシャーへのトラフィックをランダムに調整することでも悪名が高い。さらに、パブリッシャーへのトラフィックの参照元としての同プラットフォームの力が落ちてきたことも、最近のレポートで示唆されている。
「脱Facebook」に力を貸してほしいと依頼してくるクライアントが増えてきていると、プロハスカ・コンサルティングのCEO、プロハスカ氏は語る。「パブリッシャーはプラットフォームに過度に依存するようになっている。こうした傾向は危険になりつつある」。
Ross Benes (原文 / 訳:ガリレオ)