アドテク企業の破綻、巻き添え喰らうパブリッシャーたち:「払い戻し」回避のシナリオは?

パブリッシャーは、大手アドテク企業の破綻によって広告代金が未払いになってしまうことを心配して、不安定なアドテク市場において最後の審判の日のためのシナリオを用意している。

2019年には、サイズミック(Sizmek)ネットマイニング(Netmining)にパブリッシャーのインベントリー(在庫)を販売したSSP(サプライサイドプラットフォーム)プロバイダーが、(財政上の問題により)両社からの支払いを受けられなくなり、パブリッシャーは何万ドル分もの売上を放棄することを求められた。多くのパブリッシャーは、放棄を求められた金額は全体から見ればわずかだというが、こうした「クローバック(clawback:払い戻し)」は、プログラマティック広告の販売を円滑にするSSPプロバイダーとの契約内容を見直すとともに、アドテクパートナーのリストを再査定することをパブリッシャーに迫った。

サイズミックやネットマイニングとの取引で損失を出したパブリッシャーの幹部は、プログラマティック広告のサプライチェーン全体のなかで「パブリッシャーがいかに大きなリスクを抱えているかがわかる」と話す。「広告を提供する場合、我々は(広告に対して)支払いを受けられるという想定で多くの信用リスクを負う。だが、(SSPプロバイダーが)それについての説明責任をほとんど果たさないことに、私はいつも不安を覚える」。

「これが雪崩のはじまりか?」

プログラマティック広告の販売プロセスは、しばしば「ウォーターフォール(waterfall)」として説明される。現実には2方向の流れがある。お金は通常、広告主からプログラマティック広告のサプライチェーンを通じて流れてきて、残りの代金は最終的にパブリッシャーに渡されるが、中間にいるアドテク企業が経営に失敗することが時々あり、その場合パブリッシャーへその請求書が回ってくる。あるパブリッシャー幹部は、こうしたクローバックは、プログラマティック広告が始まったばかりの10年ほど前は、より頻繁に起きていたという。当時はまだ誕生したばかりだったプログラマティック広告市場にひと旗揚げてやろうとする企業が数多く参入する一方で、たくさんのアドテク企業が失敗し、パブリッシャーは契約上、消滅した会社から受け取った代金を放棄する義務を負わされた。

プログラマティック広告市場が成熟するにつれ、経営不能になる企業の規模も大きくなった。それにともなって、特に小規模・中堅のパブリッシャーにとっては、倒産の影響も大きくなってきた。あるパブリッシャーでは、ネットマイニングとの取引に関連するクローバックの金額が3万5000ドル(約384万円)を超過した。この額は、このパブリッシャーの通常の月間売上の5%にあたるという。

アドテク業界の整理統合が続き、大手の成功がその他の倒産を加速させるという状況について、パブリッシャーは最悪のケースのシナリオを検討しはじめている。自社が関わっている大手のアドテク企業が事業をやめてしまったらどうするか? 「これが雪崩のはじまりかも知れないし、もしそうなら、その発生を我々はどうやって止めるのか?」と、ふたり目のパブリッシャー幹部は話した。

シーケンシャル・ライアビリティ

いくつかのパブリッシャーにとって目下の目標は、クローバックのまさに根幹に関わる問題の解決だ。その問題とは「シーケンシャル・ライアビリティ(Sequential liability:順次負債)」だ。シーケンシャル・ライアビリティ条項はそもそも、クライアントが支払い不能になる事態から広告エージェンシーが自身を守るための方法として契約に盛り込まれた。広告主が、パブリッシャーのプロパティ上に出た広告の代金をエージェンシーに支払わなかった場合、シーケンシャル・ライアビリティ条項があることにより、エージェンシーはその広告インベントリーの代金をパブリッシャーに支払うことを拒否できる。現在のプログラマティック広告のコンテクスト内では、シーケンシャル・ライアビリティは広告主から広告エージェンシーはもちろんのこと、SSPプロバイダーやパブリッシャーと並んでDSP(デマンドサイドプラットフォーム)プロバイダーにまで範囲を拡大して解釈されている。そのためこうした条項は、パブリッシャーに効果的に責任を負わせることができる。

「プログラマティック広告においてシーケンシャル・ライアビリティなんてクソ食らえだ。責任は全員が負うべきだ」と3人目のパブリッシャー幹部は指摘する。

SSPプロバイダーとパブリッシャーの契約では通常、購入したインベントリーの代金をアドテクベンダーが支払えなくなった場合、パブリッシャーはお金を失いがちになる。通常、クローバックに関する条項は、インプレッションが詐欺まがいと判明した時に支払いをどう処理するかを決める部分に含まれている。パブリッシャー幹部たちによると、この部分におかれているせいで、パブリッシャーはこうした条項を見落としやすいのだという。3人目のパブリッシャー幹部は「(クローバック条項を)忘れ去る人は多い。交渉相手が誰かにもよるが、これはすっかり削除することを薦める」と話す。

「我々はSSPと手を切った」

パブリッシャーはアドテク企業に対してクローバック条項を契約から削除するよう要求できる一方で、アドテク企業も逆に、その条項を押し付けることができる。そうなるとパブリッシャーは、そのアドテク企業と取り引きするかどうか考えざるを得ない。パブリッシャーのなかには、プログラマティック広告のプロセスを整理する、より広範な取り組みの一部として、特定のSSPプロバイダーの利用をすでにやめているところもあり、クローバック条項がそうした決定にいたる要素になり始めている。「我々は支払条件を理由にSSPと手を切った」と1人目のパブリッシャー幹部はいう。

SSPプロバイダーのビジネスを検査する権利の主張を考えるパブリッシャーはいくつもある。さらに、SSPプロバイダーとDSPプロバイダーとの契約に監査権が盛り込まれているかや、DSPプロバイダーへの速やかな監査要求をパブリッシャーからSSPプロバイダーに対して出せるのかを詳しく調べるパブリッシャーも少数ながらいる。

2人目のパブリッシャーは、SSPプロバイダーは「(どのDSPプロバイダーを使うか)選ぶ立場にあるのだから、自分も責任を負うべきだ。パブリッシャーはDSPについての洞察はできない。誰をブロックすべきなのか、しなくていいのかさえ、我々にはわからない」と語る。

クローバックをめぐる具体事例

クローバックを含む契約を積極的に推し進めるSSPプロバイダーもある。インデックス・エクスチェンジ(Index Exchange)は、サイズミックからの支払いを得ようとして、無担保債権者委員会(Official Committee of Unsecured Creditors)の議長役を務め、ファンド(資金)の取得を試みているあいだ、パブリッシャーからのクローバックを遅らせた。インデックス・エクスチェンジは最終的に、サイズミックが有担保債権者への負債をあまりにも多く抱えており、サイズミックが同社に対して速やかにプログラマティック広告の取引代金を払うかどうかは不透明だと判断した。そこでインデックス・エクスチェンジは、サイズミックに販売した広告の代金として受け取った金額をインデックス・エクスチェンジに直接返金するようパブリッシャーに求めるのではなく、将来の取引で受け取れると予見される代金の100%から今回払い戻すべき金額を差し引くとパブリッシャーに伝えたと、米DIGIDAYが入手し確認したインデックス・エクスチェンジがパブリッシャーに送った書簡には書かれている。

インデックス・エクスチェンジの広報担当者は電子メールの声明で、「当時我々はパブリッシャーと連絡を取り合い、サイズミックとの取引における我々の代金を100%忘れることはないと伝えた。我々は現在も、DSPの採用や調査プロセスの調整を続けており、取り戻せるものがあればそれを最大化する努力を継続するだろう」と述べた。

他方、SSPプロバイダーのオープンX(OpenX)は、オープンXを通じてネットマイニングがサイト上で購入した広告代金として受け取った売上を返せとパブリッシャーに言いはしなかった。オープンXの広報担当者は米DIGIDAYの取材に応え、パブリッシャーからネットマイニングによって購入された広告代金のクローバックは受けていないと話した。

アドテクベンダーからの支払いがなかった場合の責任をSSPプロバイダーが想定しているとしたら、この状況はSSPプロバイダーがパブリッシャーとビジネスを続けていくのに役立つことがある。SSPプロバイダーのリストの見直しを進めているという4人目のパブリッシャー幹部は、はじめはあるSSPプロバイダーとの関係を厳しくすることを考えていたが、(SSPプロバイダーが)サイズミックに販売された広告インベントリーの代金としてパブリッシャーに支払われた代金のクローバックを求めないと決めたあと、関係をそのまま継続することにした。「彼らは我々と仕事をしたがっていることがわかったので、間違いなくこの点を考慮した」と、このパブリッシャー幹部は語った。

Tim Peterson(原文 / 訳:ガリレオ)