バイラルよりも「番組」形式へ:インサイダーの 動画 戦略

Business Insider(ビジネスインサイダー:BI)の経営陣は、2017年のニューフロント(NewFront:デジタルメディア広告枠の販売イベント)における営業で色とりどりのベーグルや美味しそうに伸びるチーズといった短尺動画のノウハウについて語った。これはBIが巨大なオーディエンスとソーシャル動画コンテンツを抱えており、規模を問わずあらゆる企業向けにそのノウハウを活用できるというメッセージだった。

だが、現在状況は変化している。Facebookは、さまざまな種類の動画を優遇するアルゴリズムを導入するようになり、短尺動画が優遇された時代は終わった。インサイダー(Insider:BIの運営企業)のコンテンツ再生数は、この1年で3分の1にまで落ち込んだ。チューブラー・ラボ(Tubular Labs)のデータによれば、インサイダーのプラットフォームにおける動画再生数はここ2年間で激減しており、2018年7月に23億回にものぼった再生数も2019年6月には6億9200万回にとどまっている。Facebookはインサイダーのトップラインで現在も大半を占めている。だが、インサイダーは長尺動画に力を入れており、YouTubeの割合が増えつつある。チューブラー・ラボによれば6月にはYouTubeが同社コンテンツの全再生数の24%を占めるようになっている。

現在インサイダーは、シリーズ動画に真剣に取り組んでいる最中だ。同社は1年前の時点でFacebookに7番組を抱えていたが、現在は製作中の番組も含めれば、その数は21にまで増えている。番組は毎週更新されるものが大半だが、同社の100万人がフォローする主力ニュース番組「Business Insider トゥディ(Business Insider Today)」は、月曜日から金曜日まで毎日更新される。また大半の番組は広告主にやさしいライフスタイル番組となっている。「ムービー・インサイダー(Movies Insider)」は映画における特殊演出を解説する番組。「メイキング・オブ(The Making Of)」はハイエンド商品(高級壁紙)から日用品(ゴム手袋)まで、さまざまな商品の製造過程を特集している。「フード・インサイダー(Food Insider)」では視聴者が一生のうちに一度は食べてほしいもの、飲んでほしいものを集めた「アルティメット・リスト(The Ultimate List)」のコーナーが人気だ。また「ベスト・オブ・ザ・ベスト(Best of the Best)」はフィリー(Philly)のチーズステーキやニューヨーク(New York)のピザなど、ローカルな食事を取り上げている。

大きくなった契約規模

インサイダーは広告主から収益を得る方法として、短尺のブランドコンテンツ配信とFacebookに依存したプログラマティックな動画インベントリー以外に3種類の方法を用意している。1つ目が直接宣伝可能なプレロールおよびミッドロール広告。次に有料での番組の特定回や複数番組への出演。そしてプラットフォーム上で複数回にわたって配信する番組制作の支援だ。番組について、インサイダーは視聴保証を行っている。

「当社がこれまで配信した動画のなかには、EC企業のサーバーをパンクさせた45秒の動画や、配信するだけでそのレストランの予約が何カ月も取れなくなった動画もある」と語るのが、インサイダーのパブリッシャーで最高収益責任者(CRO)であるピート・スパンデ氏だ。「だが、プラットフォームがプレロールやミッドロール広告について最適化をすすめるなかで決断を下した」。

同氏によると、この戦略変更によって契約数は減ったものの契約の規模は大きくなったという。さらにこれはテレビへの広告予算を奪おうとするインサイダーの長期戦略にも適したものだ。今年上半期に、インサイダーはFacebookからの収益を昨年度より増やそうと試みていると明かしている(同社は収益の具体額は非公開としている)。

「番組のイメージはよく伝わっているはずだ」とスパンデ氏は語る。「Netflix(ネットフリックス)やAmazonプライム(Prime)を見れば、一気見がいかにオーディエンスにとって満足感のあるコンテンツ体験かがわかる」。

長尺動画が戦略のメイン

チューブラーによると、昨年にかけてインサイダーはFacebookで配信する長尺動画を大幅に増やしている。2018年の4月から7月にかけて同社はFacebookで1390本の動画を配信しているが、5分以上の動画は7.8%だった。2019年の同期間をみると、同1384本の配信動画のうち5分以上の動画はそのうち35.5%にも達する。

2017年にFacebookがルールを大幅に改正した際に、メディア業界の観測筋はパブリッシャーのブランドコンテンツ配信で得られる増収が、ミッドロール広告の収益よりも少なくなるのではないかという懸念を抱いていた。あるパブリッシャー役員は昨年米DIGIDAYに対し、「ミッドロール広告はブランドコンテンツを埋め合わせられるわけではない」と語っている。

インサイダーの新戦略に賛同する企業はすでに出てきている。同社の広報担当によると、ミッドロール広告の契約を結んだ広告主は「数百社」、番組出演契約は「数十社」におよぶという。さらにリンカーン(Lincoln)やビジット・シンガポール(Visit Singapore)をはじめ4ブランドが番組の共同制作について数千万円規模の契約を結んでいる。

「広告主向けの賢いやり方」

インサイダーが大規模番組の制作へと舵を切ったのは、参加しているパブリッシャーが少なく、より大型契約となる長尺番組が広告主のあいだで流行しているためだ。スパンデ氏によると、同氏のチームが結んだ契約の多くが、「勝者総取りのRFP(提案依頼書)」となっているという。

これについて「広告主が欲しがっているものを考えた賢いやり方」だと指摘するのがエージェンシーのメディア・アセンブリー(Media Assembly)でパフォーマンス部門のリーダーを務めるロバート・ギブス氏だ。「複雑な環境に置かれたブランドに、より多くの選択肢を提供している」。

グループ・ナイン・メディア(Group Nine Media)の「ナウディス(NowThis)」のように、インサイダーは番組の大半を複数のプラットフォームで配信している。「トラベル・デアズ(Travel Dares)」のファーストシーズンはFacebookとYouTubeで配信され、セカンドシーズンはさらにインスタグラム(instagram)のIGTVでも配信されている。同番組はチェイス・マリオット(Chase Marriott)との提携で制作されており、複数プラットフォームで配信された同番組の再生時間はのべ40年以上にもなるという。

JPモルガン・チェース(JP Morgan Chase)で広告メディア商品開発部門のエグゼクティブディレクターを務めるグレッグ・ストランツ氏は「コンテンツを最大限活用するチャンスだ」と指摘する。

エピソード形式への拡張

インサイダーはテレビCMを出している広告主にとって魅力的な商品を提供する取り組みを続けており、番組に関する方針転換もそのひとつだ。同社は昨年夏に動画コンテンツのリーチを測定するためニールセン(Nielsen)と契約を結び、その直後にOTTアプリをローンチしている。5月1日にはウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)のエリカ・ビレンステイン氏をビジネス・インサイダーTV(Business Insider TV)のトップに迎えたことを発表している。エピソード形式のテレビ番組へと拡張していくための一手だ。

マーケターの動画へのニーズがより洗練されていくなかで、こうした取り組みはニーズに答えるのにも役立っている。「大手広告主としては、たった3秒間の動画視聴だけでも企業目標に影響を与えうるという予測に基づいて大規模な事業展開はできない」と、メディア・アセンブリーのギブス氏は語る。

Max Willens(原文 / 訳:SI Japan)