Z世代のオーディエンスを増やし続けているTikTokが、グループ・ナイン・メディア(Group Nine Media)の科学メディアであるシーカー(Seeker)に資金を提供し、自宅待機を強いられている若者向けのオリジナル動画の制作に乗り出した。
Z世代のオーディエンスを増やし続けているTikTokが、グループ・ナイン・メディア(Group Nine Media)の科学メディア、シーカー(Seeker)に資金を提供し、自宅待機を強いられている若者向けのオリジナル動画の制作に乗り出している。
シーカーとの提携は、TikTokのクリエイティブ・ラーニング・ファンド(Creative Learning Fund)プログラムの一環として行われたものだ。TikTokは、パンデミックに見舞われた若い学習者向けの教育コンテンツを制作するクリエイターを支援すべく、5000万ドル(約52億6150万円)の資金を拠出して、このプログラムを開始。シーカーで最高コンテンツ責任者を務めるキャロライン・スミス氏は、「教室で行われる、科学の授業では学べないような情報を(リモートの学生に)提供したい」と語っている。
ソーシャルメディアがパブリッシャーとこうした提携を結んでいる例はほかにもある。たとえば、Snapchatのディスカバー(Discover)やFacebookのFacebook Watch(ウォッチ)がそうだ。WWDとセルフ(Self)も、#LearnOnTikTok」キャンペーンの一環として、ウェディングドレスの歴史や、睡眠の質を高める方法といったテーマの動画を、TikTokで公開している。
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「大きな成長と牽引力」を期待
シーカーは、クリエイティブ・ラーニング・ファンドから資金提供を受けた組織のひとつ(すでに800を超える著名人、メディアパブリッシャー、教育機関、専門家が同プログラムに参加)として、環境問題、自然保護、宇宙、健康といったテーマのTikTok動画を制作する予定だ。
しかし現段階で、シーカーの動画から、グループ・ナイン・メディアがどれだけの収益を得られるのかはわかっていない。広報担当者は、動画のライセンス料が得られることは認めたが、具体的な金額は明らかにしなかった。ただし、TikTokとの提携は「広告機会」をもたらすものだと、この広報担当者は付け加えている。
またシーカーは、自社のTikTokチャネルと、このプログラム経由で獲得したZ世代のオーディエンスのおかげで、ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ(Walt Disney Studios Motion Pictures)やクロロックス・カンパニー(Clorox Company)といった、新たなブランド広告主と契約する機会を獲得した。
シーカーは、若いオーディエンスが多いプラットフォームに「大きな成長と牽引力を見出して」おり、2021年はこうしたチャンネルを中心とした戦略を再び進める予定だと、前出のスミス氏は述べている。TikTokは、コンテンツに対する考え方がほかの一部のプラットフォームほど厳格でなく、規定も緩やかだ。そのため、「試行錯誤を何度も繰り返すのに最適なプラットフォーム」だと同氏は付け加えた。
多くのZ世代のフォロワーを獲得
2020年、シーカーがTikTokで獲得した視聴数は、前年比125%増の9000万回で、そのうち3600万回がZ世代によるものだったと、グループ・ナイン・メディアの広報担当者は述べている。また、フォロワーも3倍近くに増加。さらに、シーカーがTikTokを含む、さまざまなプラットフォームで獲得したZ世代のオーディエンスは、過去1年で230%も増え、いまではオーディエンス全体の28%を占めているという。
スミス氏は、TikTokで獲得を目指しているオーディエンスの数を明らかにしていないが、「オーディエンスを生み出し」、その過程で学んだことをほかのプラットフォームでのアプローチに活かすことが狙いだと述べている。
たとえばシーカーは最近、小児科医のテッサ・コマーズ氏がホストを務める『ザッツ・トータリー・ノーマル(That’s Totally Normal)』という、小児向け医療情報のポッドキャストをスタートしている。コマーズ氏は、TikTokで大勢のファンを抱える人物であり(本稿の執筆時点で3200万件以上の「いいね!」と140万人以上フォロワーを獲得)、シーカーがTikTokで存在感を見せていることが、同氏とのオーディオコンテンツ契約の締結につながったという。
「Z世代は購買力を高めつつある」
Z世代のオーディエンスを獲得すれば、彼らにリーチできるブランドを支援することもできる。「もともとZ世代と交流しているパブリッシャーは…気候変動の問題に積極的な姿勢を見せ、イノベーションや進歩を後押ししている」と、メディアキッチン(The Media Kitchen)のアソシエイトメディアディレクター、クレア・ベルガム氏は話す。「こうした大きな社会問題の解決を支援しなければ、たちまち支持を失うことに、多くのブランドが気づきはじめている」と、同氏は語った。
とりわけ消費財(CPG)ブランドはTikTokで成果を上げており、同プラットフォームでの取り組みを優先していると、ディジタス(Digitas)でソーシャル戦略担当バイスプレジデント兼グループディレクターを務めるアリー・ワッサム氏はいう。これに対し、もっと高い年齢層がターゲットで、かつ大手銀行と取引しているような広告主は、いまもTikTokを実験的に利用している段階だ。
しかし、Z世代の重要性に意識的な広告主が増えていることは確かだ。それは、この世代が世界中でもっとも人口が多いからだと、ベルガム氏は指摘する。また、「Z世代は購買力を高めつつある」と、ワッサム氏はいう。
「エージェンシーの人間として、我々がZ世代の話をはじめたのは2年半から3年前にさかのぼる。その頃、昔からのクライアントはまだミレニアル世代に焦点を当てていた」と、ワッサム氏は振り返る。「だがいま、我々のもとに来るブランドは…Z世代が日ごとに発言力を強め、存在感を高めていることに気付きはじめている。そのため、最高マーケティング責任者(CMO)が、Z世代に関する質問を次々とエージェンシーに投げかけるようになっている」。
[原文:TikTok pays Group Nine Media to create science videos as Gen Z segment grows]
SARA GUAGLIONE(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:村上莞)