ファーストパーティデータ戦略を構築しようとしてるパブリッシャーにとって、もはやタイムリミットは目の前だ。一方、メディアバイヤーたちは目の前に提示されている多種多様な選択肢を慎重に検討し始めている。米DIGIDAYは現在提供されているファーストパーティープロダクトに対するバイヤーの意見をまとめた。
ファーストパーティデータ戦略を構築しようとしてるパブリッシャーにとって、もはやタイムリミットは目の前だ。一方、メディアバイヤーたちは目の前に提示されている多種多様な選択肢を慎重に検討し始めている。
多くのマーケターは、自分たちが慣れ親しんだ手法にぎりぎりまで固執しようとしており、パブリッシャーのなかには、まだ提供物をまとめているところもあるが、米DIGIDAYは現在提供されているファーストパーティープロダクトに対するバイヤーの意見をまとめた。
このような初期段階における分析自体が、そもそも参考にしかならないと指摘する声もある。あるバイヤーは、「Cookieレスが業界標準となったとき、こういったサービスが実際にどう機能するかは不透明だ。現時点でもテストはできる。だがあくまでサードパーティCookieによるサポートを前提にしてのテストに過ぎない」と語った。
Advertisement
メディアコンサルタント会社のイービクイティ(Ebiquity)で北米技術部門のリーダーを務めるトラビス・ラスク氏は、「Cookieレスとなったとき、マーケターにとっての勝負の分かれ目はユーザーおよびパブリッシャーのリストの質になる」と指摘する。だが結局のところ、今のエージェンシーとパブリッシャーのプログラマティック契約は規模とお互いの関係性に左右されている。
あるメディアバイヤーは、「大半のバイヤーはパーミューティブ(Permutive)のDMPといった一般的な技術スタックにメディア予算の多くを割くことになる」と予測する。だが、コンデナスト(Condé Nast)やニューヨーク・タイムズ(The New York Times)といった大手メディア企業は、エージェンシーに対し、データに基づく戦略的パートナーシップを提案できるだけのリソースがある。「こうした関係性が、バイヤーのメディア予算の残りを確保するだろう」。
以下に、メディア企業各社が提供するサービスについて、バイヤーが考える強みと弱みをご紹介しよう。なお、インタビューは匿名を条件に実施され、分かりやすくするため若干の編集を行っている。
01
好評なサービス
カフェメディア(CafeMedia)
「ここ1年、手間のかかる業務の大半はカフェメディアを活用してきた。さまざまな面で優秀なサービスを提供していると思うが、とりわけ重要なポイントがふたつある。まずは『オプトインのプロセス』。これが非常にしっかりしていて、読み手への透明性を確保している。これは個人情報を扱うにあたって、当社が重視してきたことだ。基本的にファーストパーティのデータはオプトインに基づくログインが必要だ。『何が読まれているか』『どういったコンテンツが支持されているか』『時間とともにそれがどう変わっていくのか』、こうした情報を得るにはログインが欠かせない」。
「そしてふたつ目が『規模』だ。とりわけカフェメディアが提供するCPG業界関連のデータは欠かせないものとなっている。柔軟な対応も可能で、カフェメディアによる問題はほとんど経験したことがない」。
「ただし、カフェメディアではプログラマティック・バイヤーのためのPMPルートがほとんどであるため、データが必ずしもデカップリングされていない。多くのパブリッシャーが自社プラットフォーム以外で活動しようとすると、デカップリングがよく起こる。データコストは事前に提供され、取引するインベントリを事前に取捨選択し、データに基づいて当社に最適なものが提供される。このやり方にはいくつかのメリットもあるが、データはカフェメディア外に持ち出すことができないため、不便なのも確かだ」。
「カフェメディアは当社にとって最重要パートナーというわけではない。間違いなく重要だが、ほかにも重要なパートナーは多く存在する。とはいえ成果は出ているので、これからもパートナーとしてしっかりと協力していきたい」。
コンデナスト(Condé Nast)
「コンデナストのサービスは間違いなく柔軟だと感じる。同社は、クライアントの目的に応じて最適なオーディエンスを提供するという意味で、メディアバイヤーの戦略やプランにきめ細かく対応してくれている。また、標準的なデータセットの分類も有しているが、『これが唯一の選択肢だ』といった押し付けがましく提示されるわけではない。またコンデナストが有するデータの量は膨大で、それらを実用的なセグメントに分類できているという点からも、非常に重要な真のパートナーといえる」。
「興味深いのは、今のところコンデナストのデータがかなり広範囲でアクティブになっている点だ。同社のプロパティ内だけでなく、外部からでもアクティブにすることができる。Cookieやクロスドメイントラッキングについて多くの変更が予定されていることを考えると、そうしたビジネスがどれだけ維持できるかは不透明だ。彼らが自分たちのサービスの大半をやめることで、競合他社と同じ土俵で戦うことができるようになるだろう」。
バイアント(Viant)/アデルフィック(Adelphic)のDSPを使ったメレディス(Meredith)のインベントリー
[編集部補足:2018年にタイム(Time Inc.)を買収したことで、その傘下のソフトウェア企業であるバイアントテクノロジー(Viant Technology)も買収したメレディスだが、2019年にはバイアントの株式の60%を売却しており、現在はファーストパーティデータにおけるパートナーとして活用はしていない。この項目で回答したバイヤーはバイアントを通じてメレディスのインベントリーを購入しているが、メレディスは自社データおよびファーストパーティデータの販売も行っている]
「バイアントメディアはかなり頻繁に使っている。運用面でもメリットが大きい。いちいちRFPを作成する手間も省け、時間の節約になる。またプログラマティックの購入規模を拡大するにあたり、別のプラットフォームを検討しなくても済む。セルフサービス型であれ、管理型、ダイレクト型、種別関係なく優れていて使い勝手が良く、技術面でも一番柔軟性が高いのではないか。データの透明性も確保されており、我々のトラッキング能力や目的、こちら側でどう見えているかといった点についても積極的に力を貸してくれている」。
「(今後もバイアントを利用するかについては)もちろんそのつもりだ。ここで言う『透明性』は、サイトやエクスチェンジにおけるプレースメントの透明性という側面が強い。しかし、トラッキングにおけるロジックやアプローチに関する透明性は、今後さらに重要度を増す。柔軟性に富んだサービスであることも考えると、クライアントのさまざまな要求に応えられるもっとも優れたソリューションとなっていくはずだ」。
02
遅れをとっているサービス
BuzzFeedおよびテイスティ(Tasty)
「最初に話し合いを行ったのはBuzzFeedだが、最終的に(BuzzFeedのレシピメディアである)テイスティと提携していくことになった。BuzzFeed自体は、テイスティにとっての基盤となるような存在だ。データネットワークの収集において、より大きなデータセットを構築できる。そういった意味でBuzzFeedと提携しているが、インベントリのアウトプット面では、テイスティが最適となっている。要するに、大規模なネットワーク情報を得るためにBuzzFeedを使っており、インベントリ自体はテイスティのもの、という形だ」。
「BuzzFeed(というブランド)と組む場合、物議をかもす可能性について常に考慮していかなければならない。BuzzFeedとのパートナーシップに問題があるわけではない。BuzzFeedは非常に優秀なパートナーであり、いい関係性を構築できると思う。だが、BuzzFeedのコンテンツと我々が望んでいる方向性が一致しているかをいちいち確認しなければならない」。
ニューズコープ(News Corp)のニューズIQ
「コンテンツの大半がニュースと結びついているのがネックとなっていて、そこまで熱心に提携しているわけではない。いいところも悪いところもあるといった感じだ。2020年はその点がとりわけハッキリした印象だ。まず、キーワードブロックがうまくいかない。特に、キーワードが指し示す内容についてこちら側で把握・管理していかなければ破綻する点や、コンテンツの取捨選択をいちいち行わなければない点など、手間がかかるのは痛い」。
「もちろんニューズコープも取捨選択はしている。だがパフォーマンスが物を言う業界だ。優れたパフォーマンスを見せるツールがあれば、さらに追求していきたい。しかしニューズコープはそこを理解できていない。ユーザー側に負荷が多いのはなかなか選び難い」。
「たとえば、実施したことが明らかにKPIに結びついていないという明白な結果が出ている。提携しているほかのパブリッシャーと比べて、目標とする水準のパフォーマンスに達していないため、いちいち目指す方向や一つひとつの作業目的について、かなり明確に把握しておく必要が生じる」。
ボックス・メディア(Vox Media)のコンサート(Concert)
[編集部補足:ボックス・メディアのファーストパーティデータ戦略はふたつにわかれる。それが「コンサート」と「フォルテ(Forte)」だ。フォルテがセグメントの構築を行い、コンサートがキャンペーンの運用を行う。そしてコンサートはフォルテに、同じセグメントの過去のキャンペーンでどれがうまくいったかを知らせる]
「ボックス・メディアには多様なメディアがあり、セグメントも幅広く構築できる。複数のバーティカル市場を横断するコンテンツを提供していることもあり、さまざまな広告主と相性が良い。コンサートはかなり以前からサービスを提供しており、当社もCookieに関する発表の前から提携していた。取引方法も非常にわかりやすい」。
「しかし、データの分類については実施および柔軟性の面で問題を抱えているケースが多い。特に規模が小さい企業の場合、選べるのは100セグメントだけだったりする。サービスのカスタマイズや広告主のファーストパーティデータとの連携といった、大手が提供している柔軟なサービスをいかに実現していくか。これが今後の課題だろう」。
[原文:Scouting report: How some publishers’ first-party data offerings stack up, according to media buyers]
(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)