オーディエンスにコンテンツを届ける方法として、プラットフォームの役割は日増しに拡大。プラットフォーム側には記事や動画の収益化や配信をめぐるルールを取り決める力が備わりつつある。
そこで、プラットフォームとの関係構築を専任とするマネージャー・役員クラスを配置するパブリッシャーが出てきた。過去の経緯を知り、テクニカルなやり取りに対応しながら、関係を一手に管理する「プラットフォーム大使」が、いま求められている。
この状況下で、パブリッシャーが「プラットフォーム大使」を通じて、自分たちの利益を力強く訴えていくことは、プラットフォームへの敗北には当たらない。
自社サイトのアクセスよりソーシャル拡散を重視する「分散型メディア(Distributed Publisher)」の台頭で、メディアに新しい役割が求められている。 いわば、多数のコンテンツ配信先との関係構築をはかる「プラットフォーム・アンバサダー(大使)」だ。
Vox Mediaは「プラットフォーム提携担当ディレクター」を募集している。求人要項によると、ディレクターはFacebookやTwitter、Snapchat(スナップチャット)など「すべての主要なコンテンツプラットフォームとの関係をつくり、確たるものにする」ことが役割だ。加えて、編集・営業にまたがりプラットフォーム向けコンテンツ編集戦略を実践する。
また、CNNデジタル部門のゼネラルマネージャーであるアンドリュー・モーゼ氏も、プラットフォーム配信に特化したチームの編成を考えているという。「配信の管理は片手間仕事ではできない」と、モーゼ氏は語った。
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さまざまなメディアにおいて、いまだ明確にこのような役割を担う人物が定まっていない。課題のひとつは、プラットフォームごとに異なる施策を要するということ。さらに、パブリッシャーとプラットフォームとの連携には、これまでに紆余曲折があり、いまではいくつかのプラットフォームにおいて、広告の販売機会を与えられていることだ。
「大使」に権限一元化が鍵か
米大手テレビ局「NBCニュース」で当初、プラットフォームとの関係構築の責任を負ったのはデジタル担当シニアバイスプレジデントのジュリアン・マーチ氏だった。マーチ氏の統括のもと数人のスタッフが業務を回す。この体制を組んだ背景には、プラットフォームとの調整が複雑を極めていることが挙げられる。
「中央集権的に管理した方が理に適っている」とマーチ氏。「提携は定期的に見直し、プラットフォームの新規参入者があれば調べ、対応するべきかどうかを考えて行く必要がある。パブリッシャーとしての成功は、それぞれのプラットフォームでの成功にかかっているのだ」。
米日刊紙「USAトゥデー」の親会社ガネットは、プラットフォームとの関係構築において大きな一歩を踏み出した。プロダクト担当バイスプレジデントのスコット・スタイン氏がプラットフォーム管理の最終責任を負ったのだ。数年前からTwitterやApple Newsとの協業に関する役目を担当していたことが買われた。ほかのプラットフォームにも10人を配置。これらスタッフと頻繁に情報を交換し、効果的な配信方法を探っている。
新興ニュースサイト運営の「スレート・グループ(Slate Group)」では、副会長のダン・チェック氏が提携先との連絡役を担う。テクノロジーに知見があり、プラットフォームとの関係が辿った経緯について明るかった。「スレート」がAppleやFacebookと提携する際、テクニカルな面に対応する能力を見せ、プラットフォーム側の信頼を勝ち取った。
技術的課題の理解、編集と営業またぐ視点
「我々が一緒にやっていくうえで、テクニカルな作業を遂行でき、良い提携先となり、迅速にやっていけるという強い信頼が、Appleにはあった」とチェック氏。「Facebookの『Instant Articles』でも同じようになると考えた。実際7日間で実装できて、予想よりも早かった」。
プラットフォーム管理は、状況に応じて対応をしてきた、多くのパブリッシャー。しかし、最終的には関係を構築できる人物が必要という認識で一致している。
「編集と売上の両方に与える影響を理解し、ひとつの部署の視点にとらわれない人材が、具体的には必要だ」。プラットフォームのコンテンツ配信を調査するシンプルリーチ(SimpleReach)社のCEO・共同創業者のエドワード・キム氏は語った。そうした役職者を置かなかったばかりに、初期の段階でプラットフォームに対応する機会を逸してしまったパブリッシャーをずいぶん見てきたそうだ。
キム氏は断言する。「一元化した方が良い。状況を熟知した連絡役を置く必要がある。専任担当者を置くべき時期だ」。
プラットフォームに媒体社の利益を訴えるべき
オーディエンスにコンテンツを届ける方法として、プラットフォームの役割は日増しに拡大。プラットフォーム側には記事や動画の収益化や配信をめぐるルールを取り決める力が備わりつつある。この状況下で、パブリッシャーが自分たちの利益を力強く訴えていくことは、プラットフォームへの敗北には当たらない。
「相互に協力し、皆が価値を得るのなら、全員にとって有益だ」とガネットのスタイン氏は語る。「だが、不参加や撤退という選択肢は、自分たちの方でいつも握っておくべきだ。プラットフォームとの提携が絶対に問題を招かないとは言えない」。
Lucia Moses(原文 / 訳:南如水)
photo by Thinkstock / Getty Images