2月にエコノミスト (The Economist)に入社したボブ・コーン氏は、プレジデント兼マネージングディレクターとして、世界における新規読者の獲得と、北米における新たなビジネスチャンスの開拓を任されている。同氏は米DIGIDAYのポッドキャストで「春先は、新規購読者が予想の約2倍のペースで増加した」と語る。
アトランティック・メディア(Atlantic Media)で10年以上にわたりデジタル編集者、そして後にプレジデントも務めたボブ・コーン氏は、2月にエコノミスト (The Economist)に入社した。同社でコーン氏はプレジデント兼マネージングディレクターとして、世界における新規読者の獲得と、北米における新たなビジネスチャンスの開拓を任されている。
そしてコーン氏の就任からわずか6週間で、新型コロナウイルスのパンデミックが起きた。それに伴い、パンデミックが経済や政治、文化に及ぼす影響への関心が高まり、エコノミストの購読者数は増加している。
同氏は米DIGIDAYのポッドキャスト番組で「春先の数カ月間は、新規購読者が予想の約2倍のペースで増加した」と述べている。
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エコノミストの2020年3月31日までの年間サブスク収益は2億6500万ドル(約277億円)で、これは年間収益4億2300万ドル(約443億円)の3分の2近い。同社はパンデミックが始まる数カ月の時点で、すでにサブスク戦略で新規獲得よりもリテンション重視へとシフトさせていた。だがコロナ禍で購読者が急増したことに伴い、この読者を維持するという「より一層の必要性」に迫られたという。
コーン氏は、「私の就任以前は新規獲得に力を入れていた一方、リテンションにはあまり熱心ではなかった」と語る。「そこで、リテンションを重視し、そのためのベストプラクティスを遂行するという方向性を定めて、今年を迎えた」。
そのための新たな取り組みとして、購読者専用のオンラインイベント、初期購読価格の値上げ、購読者限定のニュースレターなどを導入した。たとえばオンラインイベントではビル・ゲイツ氏へのインタビューも行っており、購読者のうち約2万7000人が視聴している。コーン氏によると、特にエンゲージメントが高い購読者が昨年比で21%増加したという。
今後、同紙はさらなるカスタマー体験を提供する、より多様なユーザー層に向けたプラットフォームの実現を目指していくという。そのために、より幅広い価格帯での提供も行う予定だ。
「リテンションへの試みは、今年当社のなかでも、もっとも大きな成果となった」とコーン氏は語る。
以下に、同氏へのインタビューの一部をお伝えしよう。なお、発言の意図を明確にするため一部に若干の編集を加えている。
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初回購読価格の値上げは功を奏した
長年に渡り、当社は初回購読については、12週分で12ポンド(約1600円)または12ドル(約1300円)という『12ルール』で価格を設定していた。当社のコンテンツは質が高い分、本来の価格も決して安くはない。それもあって、この12週間ではかなり解約率が高かった。そこで、『最初の12週間は半額』という価格設定に変更した。これにより新規の契約者数は減るだろうが、リテンションは改善すると見込んだのだ。驚いたことに、これによる新規購読者数の減少は僅かなものにとどまった。そしてリテンションは予測通りで、満足行く結果となっている。リテンションの改善には有効な方法のひとつだったということだろう。
米大統領選の報道におけるエコノミストの差別化
エコノミストは、米国および世界中の読者に、大統領選挙について独自の視点を提供していく。他紙のやり方に追従することはしていない。それは現場の記者も、それをまとめる我々も同じ方向性で一致している。たとえばトランプ大統領がエイミー・コニー・バレット氏を最高裁判事に指名したとき、他紙が24時間で13記事をあげたなかで、エコノミストは1〜2記事ほどしか提供していない。細々とした情報が出るたびに毎回記事にして、大量の記事数で読者を圧倒するというのは我々のやり方ではないのだ。その代わりに、状況がどのように進んでいるのかを厳しく分析し、全体の流れを捉えられるような、記憶に残る記事を提供していく。
押しの強いメディアが再び増えている
1990年代のワイアード(WIRED)のニュースレターを覚えているだろうか。派手な色使いで、非常に押しの強いコンテンツだった。それがワイアードのコンセプトで、批判を受けることも多かった。その後、ああいった押しの強いコンテンツは流行り廃れを繰り返してきたが、今は再び増えつつあるように思える。今、あらかじめ読者収益のパイプラインを構築していた企業が、より有利な立場に立っている。この1〜2年、読者収益に取り組んでこなかったメディアが慌てて参入してきている。エコノミストは長年にわたりサブスクリプション事業に取り組んできたことが功を奏している。激しく揺れるB2B業界のなかで、我々が嵐のなかのイカダのように安定していられるのもそのためだ。
LARA O’REILLY(翻訳:SI Japan、編集:長田真)