ニュースパブリッシャーたちは現在、ペイウォール内コンテンツを増やすことで、「価格に見合った報道」の提供を積極的に実践している。試行錯誤の段階ではあるが、いずれのパブリッシャーも購読者の獲得・拡大に成功し、コンバージョン率も低下していないという。「ニュースは無料」という認識は、一部を除いて終焉を迎えつつある。
ニュースパブリッシャーたちは、自分たちが制作しているコンテンツはお金を払う価値があると考え、常にそう宣伝してきた。彼らは現在、有料購読者会員限定のコンテンツの割合を増やすことで、その考えをより積極的に実践している。
先週末、フィラデルフィア・インクワイアラー(Philadelphia Inquirer)は、毎年刊行しているフィラデルフィアのフードガイド「食べよう、フィリー!(Let’s Eat, Philly!)」のデジタル版をローンチした。これまでは紙のマガジンのみを発行していたが、今年はデジタル版に限定コンテンツを追加(ペーパー版と比較すると30%増)し、ローンチから4日間は有料購読者だけが読めるようにした。現在はペイウォールから外されているものの、デジタル版限定コンテンツのみはメーター制となっている。
フィラデルフィア・インクワイアラー特別プロジェクトおよび編集イベント部門のディレクター、エヴァン・ベン氏によると、今回のテストは小規模だったが、数百人が有料購読登録をおこなっており、登録数は同社の平均を53%上回ったという。同紙のこうした試みは、ニュースパブリッシャーたち全体に見られる傾向とも合致している。読者はどのようなコンテンツであれば有料登録をするのか、パブリッシャーたちは競ってデータを得ようとしているのだ。
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ペイウォールコンテンツを選別
トリビューン・パブリッシング(Tribune Publishing)はここ数カ月、同社傘下の新聞社で異なる手法を用いてコンテンツの一部をペイウォールの中へと移している。たとえば、ボルチモア・サン(Baltimore Sun)では編集員がどれをペイウォール記事とするか選び、シカゴ・トリビューン(Chicago Tribune)では、コンサルティング会社のマザーエコノミクス(Mather Economics)が開発したソフトウェアを使ってどの記事が読者に購読登録させる可能性が高いかを評価し、有料のプレミアム記事の選択をしている。
トリビューン・パブリッシングのエンゲージメント・リテンション部門のバイスプレジデントであるイダルミ・カレラ=コルーチ氏によると、これらの「選別」の対象となるコンテンツの量は少ないという。ボルチモア・サンの場合、ペイウォールの中に入れられる記事は週に約5本となっている。有料購読者だけが見られる記事を増やすことで広告収益は減るが、これまでのところ有料購読者数の増加が広告収益減少を補えているという。ちなみに各紙のデジタル版購読料は週3.99ドル(約414円)だ。
カレラ=コルーチ氏は「これまでのところ、我々の試みの結果はポジティブなものになっている」と述べたが、具体的な数字については明らかにしなかった。
コンバージョン率には影響せず
ダラス・モーニングニュース(Dallas Morning News)は現在、毎日発行するコンテンツの約10%をペイウォール内で公開している。どのコンテンツがペイウォールとなるかは同紙のオーディエンス開発チームがコンバージョン率のデータと直感を組み合わせて判断している、とCPO(chief product officer)のマイク・オーレン氏は言う。
彼らは、高いコンバージョンを得られると確信できる記事のタイプを特定するのに十分なデータを集めたという。たとえば、ダラスの飲食業界に関する独占記事や地元のビジネス記事は、どちらも多くの有料購読者を獲得する可能性が高い。「データは直感的な判断をおこなう上で、助けとなる存在だ」とオーレン氏は述べる。
ペイウォール内コンテンツの拡充は、ダラス・モーニングニュースにおける過去半年間の継続的な購読者数の増加に重要な役割を果たし、同紙の購読者数は第1〜2四半期においていずれも前年比で39%増加している。オーレン氏は具体的な数値は伏せつつ、ペイウォールが表示されるユーザー数は10倍に増えたが、コンバージョン率には何の影響もなかったと語った。ダラス・モーニングニュースのデジタル購読料は週2.99ドル(約310円)となっている。
ただし、新聞に掲載されるコンテンツのすべてが、ペイウォール内の設置に適しているわけではない。ほとんどの新聞社は、多数の読者が関心を持っているコロナウイルス関連の報道を、継続してペイウォール外に置いている。
無料コンテンツは維持するが
公衆衛生に関するコンテンツだけでなく、非営利団体や慈善団体によって支援されている報道の多くは、アクセスできる人の数がもっとも多くなるようにペイウォール外に置かれる。マクラッチー(McClatchy)でニュース分析部門の編集員を務めるイアン・スウェンソン氏によると、同社は昨年末からコンテンツの一部を有料購読者限定にすることを開始したが、同社のリサーチチームが制作する公教育などの話題を扱うコンテンツに関しては、ほとんどが無料で誰でもアクセスできるという。
しかし、ペイウォール外に置く必要のあるコンテンツがあっても、ほとんどのパブリッシャーは有料購読者のための限定コンテンツを増やすことに成功している。マクラッチーの場合、ペイウォール内外のコンテンツバランスについて多くの知見を得ており、スウェンソン氏の部門は現在よりも多くのコンテンツをペイウォール内に入れられると考えている。同氏によると、現在報道を担当する編集部に推奨している全コンテンツにおけるペイウォール内コンテンツの割合は、1桁%だという。この数値の変更に着手し始めており、推奨以上の割合のコンテンツをペイウォールに入れている編集部もすでにいる。
「これは我々のジャーナリズムの価値を再建しているのだ、と私は説明している」とスウェンソン氏は述べる。「(有料のコンテンツが増加したとしても)うまくいくことを私たちは学んだ」。
[原文:‘Reestablishing our journalistic value’: Publishers make more of their exclusive subscriber content]
MAX WILLENS(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)