テレグラフ(The Telegraph)は同社のファーストパーティデータを利用した、ターゲティング法を広告主に売り込みはじめた。テレグラフはこれを、もはや風前の灯となったサードパーティCookieに代わるものと見込んでいる。
テレグラフ(The Telegraph)は、広告主に対して、自社のファーストパーティデータを利用した、ターゲティング法を売り込みはじめた。これは、サブスクリプションの売上を伸ばしつつ、広告キャンペーンの目標達成のために、確実にオーディエンスのターゲティングをおこなう取り組みだ。
テレグラフユニティ(Telegraph Unity)と呼ばれるこの取り組みでは、まずパブリッシャーと広告主が別々に、同じ場所にファーストパーティデータをアップロードする。技術提供を行うインフォサム(Infosum)は、この仮想空間を「バンカー(bunker)」と呼んでいて、ここにはほかの誰もアクセスできない。次に、インフォサムがデータセットにわずかな統計的誤差を付与して匿名化し、リバースエンジニアリングによってオリジナルを復元できないよう加工する。その上で統計モデルにあてはめ、一致するデータを検出する。
検出されたセグメントに対しては、パブリッシャーのサイト上でターゲティングを行い、すでにテレグラフというブランドの顧客になっている読者に対し、自社や他社の広告を提示できる。あるいは、特定のグループを排除して、久しぶりのサイト訪問者や新規顧客だけをターゲットにすることもできる。ここ数週間のあいだに、テレグラフは数10のブランドと接触してきたが、現段階ではブランド名は伏せられており、キャンペーン展開の有無も不明だ。
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「流れを変えつつある」
「テレグラフユニティが、広告主との会話の流れを変えつつある。彼らとの関係はより深く、実り多いものとなり、オーディエンスの力を支えるために協力して何ができるかが検討されている」と、テレグラフでコマーシャルイノベーション担当シニアディレクターを務めるカレン・エックルズ氏はいう。「サードパーティからファーストパーティへ、匿名オーディエンスから既知のオーディエンスへの移行の一環だ。我々はこれを、読者ファースト、サブスクライバーファーストの戦略の根幹に位置付けている」。
この2年間、テレグラフはサブスクリプションファーストの方針で前進してきた。今年5月の紙媒体とデジタルを合わせた購読者数は50万人近くにのぼり、サブスクリプション1件あたりの平均売上は198.63ポンド(約2万6800円)だった。また、名前とメールアドレスなどの個人情報を入力したユーザーは、660万人にのぼる。いまや同社にとって、サブスクリプションは広告を抜き最大の収入源だ。7月上旬、同社はブランデッドコンテンツチーム「スパーク(Spark)」を廃止した。サブスクリプション戦略に合致する大規模な広告パートナーシップにリソースを集中させるためだ。
ターゲティング広告が、非ターゲティング広告よりも効果的であることは、豊富なデータに裏付けられている。新型コロナウイルスの感染拡大が本格化する前、2019年10月から2020年3月にかけて実施されたテストでは、テレグラフはファーストパーティデータのセグメントを使用して、自社サイト上でオーディエンスのターゲティングをおこなった。ターゲティング広告は、閲覧時間と滞在時間に基づくエンゲージメント率で、非ターゲティング広告を平均43%上回った。
エージェンシーの感心事
これまで、パブリッシャーやブランドは、独自の強みであるファーストパーティデータを共有することに慎重な姿勢を保ってきた。テレグラフは自社のふたつのデータセット(一方は、テレグラフが最近開催したイベントのデータ、他方はサブスクリプション登録者のデータ)の一致率を検証した。同社はサブスクリプション登録者のなかにイベント参加者が何人いるか、事前に正確に把握していた。インフォサムのテクノロジーを利用した検証の結果は、実際の数値と99.9%一致した。0.01%のずれは、インフォサムがデータの処理過程で統計誤差を付け加えたことによるものだった。
過去3週間で、(テレグラフユニティについて)もっともアドバイヤーからの注目を集めたのは、エディトリアルアナリティクスによって生成された、既存の顧客である広告主に関するインサイトとデータ管理プラットフォーム(DMP)、それにメトリックス・ザット・マター・イニシアチブ(Metrics that Matter initiative:何を、広告効果の重要評価指標とするかの方針)だ。顧客の財務状況を深く理解している金融系ブランドに対して、テレグラフは購買習慣、キーワード、トーン分析を共有している。新型コロナウイルスのパンデミックで、消費者の行動は一変し、生活、趣味、関心事、一緒に過ごす相手が流動的になったことで、広告主は新規及び既存のオーディエンスに関する情報を模索しているという。
「もっとたくさんの質問を投げかけ、獲得しようとしている顧客の人物像をより豊かに明確に定義することで、効率的な支出や投資の実現に近づける」と、スターコム・ピュブリシス(Starcom Publicis)で、デジタルデータテクノロジー担当マネージングパートナーを務めるイザベル・バース氏はいう。同社は昨年7月にイプシロン(Epsilon)の買収を完了し、ファーストパーティデータへの意欲を示している。
戦略とプランニングのプロが必要
Cookieの終焉が間近に迫るなか、多くの広告主は十分な規模のファーストパーティデータを保持しておらず、データセットの統合のペースは上がっていない。とりわけEUの一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:以下、GDPR)施行後は、それが情報収集の足かせになっている。テレグラフはデータセットの規模に関して、キャンペーンごとにケースバイケースで対応している。対象が広くなければ効果が上がらないようなセグメントもあるからだ。一方、CEOだけをターゲットにするような場合は、規模は小さくても情報は詳細でなくてはならない。こうしたスケールの問題から、同社は1万5000ポンド(約202万円)以上の広告費をかけたキャンペーンにのみ、テレグラフユニティの利用を認めている。
「すべての広告主が、しっかりと構造化されたデータベースを保有しているといえば嘘になる」と、バース氏はいう。実際、D2C(Direct-to-consumer)でないブランドには、コネクテッドTVなどすべてのチャンネルをカバーするデータポイントを蓄積させるという大仕事が待っている。
加えてエージェンシーは、オーディエンスの個別マッチングをいつでも大規模に利用できるGoogle・Facebook・Amazonなどのウォールドガーデンへの支出に代わる、新たなソリューションを求めている。インフォサムの技術を利用すれば、エージェンシーは自由にオーディエンスの層を設計できるという。これも、彼らにとって大きな利点だ。もしマネージドサービス(運用や管理を一括して請け負う、アウトソーシングサービス)を活用した場合、オーディエンスの分類が固定的で、購入者を限定してしまいかねない。
「これにより、オーディエンスプランニング(直接『人』にリーチさせる手法)が成長するだろう」と、ハバスメディアグループ(Havas Media Group)のプロダクトソリューション担当マネージングディレクターであるダニエル・チャップマン氏はいう。「エージェンシーは、優れた戦略と検証可能な仮説を提案しなければならない。そうしたことが、我々が行ってきたことの本質だ。これをプログラマティックチームだけで取り組んでいては、満足な仕事はできない。戦略とプランニングのプロが加わる必要がある」。
パブリッシャーの新たな収入源に
パブリッシャーに特化したツールやパートナーシップは皆そうだが、成否を分けるのはパブリッシャー、および提携する広告主のスケールだ。サプライサイドは、サードパーティCookieに代わる方法をいちはやく採用している。チャンネル4(Channel 4)やイミディエイトメディア(Immediate Media)も、インフォサムやエージェンシーのインフェクシャスメディア(Infectious Media)と提携し、近々ライブキャンペーンの実施を予定している。エージェンシーにとっては、自身の価値を証明し、自社以外のデータセットとの照合を行うチャンスだと、チャップマン氏はいう。こうして適応しなければ、ブランドとパブリッシャーの直接の提携はますます進むだろう。テレグラフが示したように、それはけっして難しいものではないのだ。
プロパティ間や、ウォールドガーデン内部でのIDの紐付けを、コンプライアンスを遵守した形で実施できるかどうかが、サードパーティCookieが消えたあとのデジタルエコシステムを再構築するための、次のハードルになるだろう。
「スケールの問題が生じないことを望んでいるが、それは結局、各パブリッシャーがオーディエンスをどのように収益化し、IDに関連する情報の共有に、どれだけ積極的になれるかにかかっている」と、バース氏はいう。「うまくいけば、パブリッシャーは新たな収入源を獲得し、市場のなかで力を取り戻せるだろう」。
[原文:Reducing cookie reliance, The Telegraph rolls out ways to share data directly with advertisers]
LUCINDA SOUTHERN(翻訳:ガリレオ、編集:Kan Murakami)